個人事業主の方の場合、会社員とは異なる社会的リスクに備えなければならないため、会社員とは異なった社会保険制度への加入が必要です。では、個人事業主はどのような社会保険に加入できるのか、解説していきます。
この記事の目次
個人事業主は社会保険に加入できるのか?協会けんぽは?
社会保険とは、広義では健康保険(公的医療保険)・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険のことを言います。
狭義では、健康保険・介護保険・年金保険の3つが社会保険と呼ばれ、雇用保険と労災保険については、労働保険と呼ばれることもあります。
個人事業主が加入できるのは、狭義の社会保険だけです。
個人事業主の方については、健康保険、年金保険、介護保険という3つの保険に加入する必要があります。
雇用保険と労災保険については、従業員を雇用している個人事業主が対象となるので注意してください。
個人事業主と会社員では適用される社会保険が異なります。
その違いをまとめると次の表になります。
社会保険名
|
個人事業主 | 会社員 | ||
加入する保険 | 保険料の負担 | 加入する保険 | 保険料の負担 | |
健康保険 (公的医療保険) |
国民健康保険 | 全額自己負担 | 健康保険組合 協会けんぽ 共済組合 |
会社と折半 |
年金保険 | 国民年金 国民年金基金 |
全額自己負担 | 厚生年金 | 会社と折半 |
介護保険 | 40歳以上で加入 | 全額自己負担 | 40歳以上で加入 | 会社と折半 |
雇用保険 | なし | ー | 雇用保険 | 本人と会社でそれぞれ負担 |
労災保険 | なし ※一部事業者については特別加入が可能 |
ー | 労災保険 | 会社が全額負担 |
個人事業主と会社員での社会保険の違いとは?
社会保険のうち、健康保険については、会社員の場合は会社独自の健康保険組合か協会けんぽに加入、個人事業主の場合は国民健康保険に加入します。
会社員の場合、保険料を会社が一部負担しますが、個人事業主の場合はすべて自己負担となります。
また、個人事業主は国民年金に加入することになりますが、会社員の場合は国民年金と厚生年金という2つの年金制度に加入することになっており、さらに企業年金にも加入することもできます。
つまり会社員であれば、国民年金に加えて厚生年金や企業年金を上乗せできることから、受給できる年金額が個人事業主の方よりも多くなります。
個人事業主が知っておくべき社会保険の基礎知識
すでに説明したように、個人事業主の方については広義の社会保険のうち、労働保険(雇用保険・労災保険)に加入できません。
それ以外の社会保険には、加入が可能です。
まずは、個人事業主の方が加入可能な社会保険について詳しく解説し、その後加入できない社会保険についても説明していきます。
個人事業主が加入できる社会保険の詳細
以下の社会保険については、個人事業主の方であれば加入が可能です。
ここでは、それぞれの社会保険について詳細を解説していきます。
1. 健康保険
健康保険とは、病気やけがをしたときに医療費が高くなってしまうことをふまえ、国や自治体が用意している制度です。
健康保険に加入していれば、病気やけがをした場合に医療費の一部を保険でカバーしてもらえます。
医療費の一部は、例えば診察料や薬代などが該当します。
健康保険に加入することで、病気やけがをしたときに、安心して医療を受けることができるわけです。
ただし、もちろんそのためには保険料の支払いが必要です。
個人事業主とその家族に関しては、国民健康保険に加入することになります。
個人事業主の場合は保険料が全額自己負担となり、前年の所得に応じて保険料が算出されます。
2. 介護保険
介護保険とは、高齢者や障がいを持っている方が、日常生活を送る上で必要な介護サービスを受けることができるよう、国や自治体が用意している保険制度です。
介護保険に加入していれば、介護サービスを必要とした場合に、やはり費用の一部が保険でカバーされます。
介護サービスには、身体介護や生活援助、訪問看護、リハビリテーションなどが含まれます。
介護保険では、要介護度に応じた介護サービスの費用が定められており、そもそも必要なサービスを受けるためには要介護認定が必要となります。
要介護認定は、地域の介護支援センターや社会福祉協議会などで行われます。
つまり介護保険に加入することで、高齢者や障がいを持っている人が自立した生活を送ることができるよう、必要な介護サービスが受けられるようになるわけです。
ただし、やはり保険料の支払いが必要です。
3. 年金保険
年金保険とは国や自治体が用意している制度で、加入義務のある人が年金保険料を納め、老齢や障がいなどの生活支援のための年金を受け取れるようにする制度です。
日本では、国民年金や厚生年金、共済年金などの種類があります。
国民年金は、個人事業主やパートタイマーなどの方が加入できる制度で、厚生年金は、会社員などが加入する制度です。
年金保険に加入することで、老後や将来発生するかもしれない障がいに備えることができます。
また、年金保険は遺族にも支給される場合があります。
配偶者や子どもが死亡した場合に、遺族年金として生活を支援することもできます。
年金保険に加入することで、本人やその家族が将来に備え、安心して生活を送ることができるようになるわけです。
個人事業主の場合、年金保険料は全額が自己負担となります。
納付額は少なくて済むものの、それだけ受給額も少なくなりますので注意が必要です。
個人事業主が加入できない社会保険の詳細
個人事業主の方は、会社で雇用されている人を対象とした雇用保険・労災保険には加入ができません。
しかし個人事業主の方でも、雇用している従業員がいれば、雇用保険・労災保険の手続きについて知っておく必要があります。
以下では、雇用保険・労災保険について解説していきます。
1. 雇用保険
雇用保険とは、会社で働いている人が失業した場合に、一定期間収入を補填する制度です。
雇用保険に加入している人は、会社を辞めたり、会社が倒産したりした場合に、失業手当を受け取ることができます。
失業手当の受給は一定期間に限定されます。
通常は最長で1年間受け取ることができますが、所定の手続きを行うことで、最大3年の延長も可能です。
また、再就職に必要なスキルを身につけるための研修や、職業相談、求職活動の支援なども受けることができます。
雇用保険は、会社員や派遣社員、一定の条件を満たしたアルバイト・パートタイマーなどが加入できます。
雇用保険料は、給与から一定額が天引きされて納められます。
つまり雇用保険に加入することで、失業した場合に、一定期間生活を維持するための収入が補填できます。
当然、雇用保険は会社の従業員向けの社会保険ですから、個人事業主の方が加入することはできません。
2. 労災保険
労災保険とは、労働者が仕事や通勤中にケガや病気をした場合に、医療費や休業補償などを支援する制度です。
たとえば、建設現場での落下事故から事務作業中に肩こりや腰痛を発症した場合まで、労災保険が適用されます。
労災保険に加入している場合は、労働災害により発生した医療費や休業補償、障がい者補償、遺族補償などが支払われます。
また、リハビリや職業訓練なども受けることができます。
労災保険料は、会社が従業員1人ごとに納める決まりになっています。
労働保険は、労働者が安心して働けるように用意されています。
つまり、労災保険は会社の従業員向けの社会保険ですから、個人事業主の方が個人として加入することはできません。
ただし、労災保険には特別加入という制度があり、中小事業主や一人親方など特定作業従事者などに対しては労災保険の特別加入が認められています。