今回は、インボイス制度導入と請負報酬との関係を整理したいと思います。

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古くて新しい問題:報酬vs給与

租税法の古くて新しい問題に、事業者が一定の役務を提供した者に対して支払う金員を給与として取り扱うべきか、あるいは、その者に対する報酬[1]として取り扱うべきかという問題があります。

この問題は、税目横断的な内容を含んでおり、所得税法では、当該金員を収受する者の所得区分(給与所得か事業所得か)、また、金員を支払う事業者から見て源泉所得税の徴収を要するか否か、他方、消費税法では、当該金員が課税資産の譲渡等に該当(報酬とされる場合)するか否か、支払側ではそれが仕入税額控除の対象となるか否かという時に集約されます。

所得税の分野では、この問題につき、既に半世紀近くの判例の蓄積があり、現在では、所得区分に関する規範として、次の昭和56年最高裁判例[2](S56最判)の考え方が定着しています。

事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続事業して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。

この判示から、事業所得と給与所得の区分として、1. 従属性(誰かの指揮命令に服して労務を提供しているか)と、2. 非独立性(自己の計算と危険において独立して営まれていないか[3])の2つの判断基準が抽出され、その後の裁判においても用いられてきました。

ただし、労働環境の多様化に伴い、最近の判例[4]では、「非独立性」と「従属性」を区分して判断するようになってきており、「従属性」より「非独立性」の方を重視している傾向が見られます[5]


[1]  最も一般的なものが請負契約に基づく報酬(事業者から見て外注費等)と思われる。

[2] 最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(昭和52年(行ツ)第12号)

[3] この基準は、1との違いが分かりにくいが、佐藤英明・西山由美『スタンダード消費税法』(弘文堂・2022年)62頁では、「決められた時間働けば成果の大小にかかわらず一定の対価を得られる契約かどうか」と具体的に説明している。

[4] 例えば、東京地判平成24年9月21日(平成23年(行ウ)第127号)、東京地判平成25年4月26日(平成22年(行ウ)第308号)、最判平成27年10月8日(平成26年(行ヒ)第167号)等

[5] 奥谷健『租税判例百選[第7版]38-事業所得と給与所得の区別』(有斐閣)77頁参照。

S56最判を踏襲した消基通1-1-1

平成元年に導入された消費税法では、「報酬」か「給与」かの問題について、上記S56最判の考え方をそのまま踏襲し、その基本通達1-1-1で次のように定めています。 

(個人事業者と給与所得者の区分)

1-1-1 事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。したがって、出来高払いの給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払いの給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。=以下略=

上記通達は、続けて、区分が明らかでないときの判断要素として、次の1~4[6]を総合勘案して判定するとしています。

  1. その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
  2. 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
  3. まだ引渡しを完了していない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
  4. 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。

ここでいう給与か報酬かの問題は、ごく最近でも裁判所で争われています。

以下では、従業員から外注先に変更になった塗装作業員に支払った報酬の仕入税額控除が争われた事案について検討します。


[6] 熊王征秀『消費税法講義録〔第2版〕』(中央経済社)33頁は、1~4の判断基準のうち、2及び4を「事実上意味ないものではないかと感じている」とし、3を「最もマトモな基準」と説明している。その上で、上記1~4の内容について「あくまで区分が明らかでない場合の判断の『目安』と考えるべきでしょう。建設業などの場合、下請業者の仕事の内容は千差万別でありその業務の内容が雇用なのか請負なのかということを画一的に区分することなどできるわけがありません。だからこそ、調査の現場で雇用か請負化の判断を巡ってのトラブルが絶えないのです。」と述べている。