2023年4月に負債総額1,262億円を抱え、民事再生法の適用を申請したユニゾホールディングスについて、2019年3月期から2022年9月期までの有価証券報告書を分析します。

この記事の目次

ユニゾホールディングス(以下ユニゾ)は2020年4月に日本初のエンプロイー・バイアウト(EBO)により上場廃止となったものの、新型コロナウイルスの流行に伴うホテル事業の不調や保有不動産の売却の停滞、世界的な物価・金利の上昇といった要因に加え、金融機関からの融資も不調となった結果、2023年4月に民事再生法の適用を申請しています。

今回は負債総額1,262億円を抱えて経営破綻したユニゾの有価証券報告書を分析します。

当記事ではユニゾの2019年3月期(以下2019年度)の年度決算から2022年9月の中間決算までを対象とし、当該期間における有価証券報告書及び半期報告書について、経理の状況を中心に見ていきます。

1.連結財務諸表分析

まずは連結財務諸表を見ていきます。

(1) 連結貸借対照表

(単位:億円)

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2019年3月 2020年3月 2021年3月 2022年3月 2022年9月
流動資産 1,307 3,121 2,540 185 240
現金及び預金 1,220 1,635 412 112 184
販売用不動産 1,437
短期貸付金 2,060
貸倒引当金 △1 △0 △1 △1 △1
固定資産 5,628 2,333 1,983 4,076 4,106
有形固定資産、無形固定資産 5,489 2,191 1,904 2,010 2,046
投資有価証券 114 125 67 3 3
長期貸付金 2,051 2,042
貸倒引当金 △0 △0 △0 △0 △0
総資産 6,936 5,454 4,524 4,260 4,345
流動負債 867 864 860 406 427
短期借入金 53 45
1年内償還予定社債 50 200 180 180
1年内返済予定長期借入金 702 452 618 181 191
固定負債 4,937 3,150 1,997 2,119 2,022
社債 1,040 990 790 610 510
長期借入金 3,748 2,056 1,159 1,458 1,464
負債合計 5,804 4,014 2,856 2,525 2,449
純資産 1,132 1,440 1,667 1,735 1,897
株主資本 1,086 1,415 1,661 1,689 1,749
負債純資産合計 6,936 5,454 4,524 4,260 4,345

※表の内訳は主要な勘定科目のみ記載

 

ⅰ. 資産

総資産は2019年度の6,936億円から減少を続け、2022年度及び2022年9月末では4千億円強となっています。

流動資産は2020年度に大きく増加した後、2022年度に大きく減少しています。

2020年度に増加(2019年度1,307億円→2020年度3,121億円)した要因は、主に従来、固定資産に計上していた資産の一部を販売用資産に振り替えたことにより1,437億円増加したことに加え(「2.連結財務諸表注記 (2) 連結貸借対照表関係-資産の保有目的の変更」参照)、現金及び預金が415億円増加したことによるものです。

2021年度は前期比581億円減少となっていますが、短期貸付金が2,060億円計上されたのに対して、上記販売用不動産がゼロとなったほか、現金及び預金が1,223億円減少したことによるものです。

2022年度は前期比2,355億円減少し、流動資産残高は185億円となっています。

これは短期貸付金2,060億円が長期貸付金として固定資産に振り替えられたことに加えて、現金及び預金が300億円減少したことによるものです。

販売用不動産、貸付金といったイレギュラーなものを除くと、現金及び預金を中心とした流動資産は、2021年度以降に大きく減少しており、EBOの後、急速に手元流動性が失われていった様子がうかがえます。

続いて固定資産を見てみると、2019年度末は5,628億円でしたが、2020年度末及び2021年度末は2,000億円前後、2022年度末及び2022年9月末は4,000億円強となっています。

こちらは流動資産とは逆に2020年度に大きく減少し、2022年度に増加というトレンドになっています。

増減を見ると、2020年度においては保有目的の変更(流動資産への振替)や売却等により有形固定資産及び無形固定資産が3,298億円減少しています。

ユニゾの主要な資産である有形固定資産及び無形固定資産は、2019年度末に5,489億円計上されていましたが、2020年度以降は売却が続いたことで2,000億円前後となっています。(2020年度における販売用不動産への振替1,437億円含む)

固定資産残高が増加した2022年度には、従来、短期貸付金として計上されていた2,051億円が長期貸付金に振り替えられています。

この短期貸付金は、前年の2021年度に親会社であるチトセア投資に対して貸し付けられたものであり(「2.連結財務諸表注記 (5) 関連当事者情報」参照)、残高2,051億円は総資産の45%を占め、財務諸表全体に与える影響は極めて大きい資産となっています。

一方で貸倒引当金の残高は2019年度以降、大きな変動はなく、当貸付金に対する引当金はほぼ、もしくは全く計上されていなかったと推察されます。

貸付を実行した2021年度は1年内に回収できるものとして短期貸付金に計上されていましたが、2022年度には長期に振り替えられ、また回収予定も10年以上先とされています。(「2.連結財務諸表注記 (4) 金融商品の時価等に関する事項」参照)

財務諸表の適正性の観点では、当貸付金の評価の妥当性が問題となると考えられます。

なお換金性が比較的高いと考えられる投資有価証券について、2019年度は114億円、2020年度は125億円が計上されていましたが、その後は売却により2021年度67億円、2022年度3億円と大きく減少しています。

固定資産の推移を見ても、2020年度以降は売却による減少が続き、保有資産を売却することで資金を捻出していたことが分かります。

ⅱ. 負債

続いて負債を見ていきます。

流動負債は2019年度~2021年度にかけて850億円前後、2022年度以降が400億円強となっています。

固定負債は2019年度時点で4,937億円となっていましたが、2020年度が3,150億円、2021年度が1,997億円と大きく減少し、その後は2,000億円強となっています。

ユニゾの負債の8~9割は借入金、社債等の有利子負債で占められており、有利子負債の残高は2019年度5,542億円、2020年度3,593億円、2021年3月末度2,766億円と急激に減少し、その後は2022年度2,429億円、2022年9月末2,344億円と緩やかに減少しています。

2019年度時点の主要な借入先にはみずほ銀行(630億円)、三井住友銀行(331億円)、New York Life Insurance Company(311億円)が名を連ねていますが、東京商工リサーチの報道によるとユニゾ破綻時の金融関係債権者45社にはいずれも含まれておらず、大口の金融機関はEBO後に債権を回収していたことが分かります。

ⅲ. 純資産

最後に純資産を見ていきます。

ユニゾの純資産はほとんどが株主資本で占められており、2019年度以降、増加傾向にあります。

2019年度末の1,086億円に対して2022年9月末は1,749億円と1.7倍程度になっており、自己資本が悪化している様子はうかがえません。

これは固定資産、投資有価証券といった保有資産の売却を続けてキャッシュと利益を確保してきたことによるものです。

なお、巨額の貸付金に対して貸倒引当金を計上した場合、設定の割合によっては大幅な自己資本の毀損、もしくは債務超過に陥ることが想定され、経営破綻の事実から振り替えるとこちらが実態に近かったのでしょう。