エネルギーコストや物価などの上昇によって消費者を取り巻く環境は厳しくなる一方ですが、ビジネスにおいては別のチャンスの可能性が秘められています。
この記事の目次
営業利益を増やすべく、地代家賃を抑えたい。
会計本来の役割ですが、改めて見ると「ビジネス→会計」なる一方通行です。
会計を見据えながらビジネスを考えるという視点を加え、目線を2車線にする。
両者の横断を可能にすれば、間違いなくいずれの精度も向上します。
ビジネスから会計、会計からビジネス第7回は、「費用分割」です。
費用分割の背景
3回払い、5回払いといったようなクレジットカードなど分割で支払う手段は旧来から存在し、私たちの生活に溶け込んでいます。
しかし、後述するように、コロナ禍やエネルギーコスト上昇などの影響によって、その対象ではなかったものまで分割で購入することが可能になっています。
こうした流れが市民権を得ているのは、言うまでもなく私たちを取り巻く経済環境の悪化です。
厚生労働省が毎月発表する勤労統計調査によると、実質賃金は伸び悩んでいることがよくわかります。
出典:毎月勤労統計調査/現金給与総額(前年比)
具体的な数値に置き換えるとその厳しさがさらに浮きぼりになります。
2021年時点、アメリカの平均賃金は7万4738ドルに対し、日本は3万9711ドル。つまり、日本の1.8倍以上。
同様に、隣国韓国の平均賃金は4万2747ドルで日本よりも約8%高い水準まで差が開いてしまっています。
こうした低い水準を漂う収入に追い打ちを掛けているのが物価です。
直近の数年を確認すると、消費者物価指数は収入と反比例を続けていることがよくわかります。
今年6月より電気代が上がることなどからさらに厳しくなることが予想されており、その対策として、できるだけ支出を減らしたい心理が強まるのは自明です。
出典:総務省統計局/消費者物価指数(1991年の値を1.000)
ビジネスと会計の視点
費用を分割することで利用者の負担を減らす。
利用者側からすればシンプルなメリットを享受できますが、ビジネスを提供する側にとっては果たしてどうなるのか。
ビジネスと会計、それぞれ確認してみましょう。
まず、ビジネス面です。
ビジネスにおいて、ユーザーの負担を減らすことは、少なくとも2つのメリット、そして1つのデメリットがあります。
- 差別化
- スイッチングコスト
- 模倣されやすい
分割されることで、一回あたりの負担が減る。
ユーザーにとってありがたいことは明らか、そのまま差別化要素の1つになり得ます。
一方、分割して支払い続けることになったことにより、利用者は簡単にそのビジネスから乗り換えることができなくなります。
いわゆるスイッチングコストです。
分割を中止することで、商品やサービスによっては違約金的なものが発生するほか、新たに別のものを見つけ出す手間(時間)がかかるため、利用者はそのまま続けることを選択しやすい傾向があります。
しかし、ビジネス全体で俯瞰すると、この形態の弱みも見えてきます。
模倣の容易性です。
商品やサービスそのものによる差別化ではないため、同じカテゴリーを製造、販売している企業であれば、いつでも参入が可能です。
競合が増えることで、価格や利払いなどの提供条件競争が発生し、利益圧迫へとつながるリスクも潜んでいます。
続いて会計面です。
ユーザーの負担を減らすということは、そのまま自社の費用が増えることを意味します。
増加した費用をどう扱うのか。少なくとも2通りあります。
1つは自社で抱える。そして、もう1つは外在化、つまり外部パートナーの力を借りる方法です。
自社で抱える場合はさらに2つに分かれます。
手元資金でカバーするか、借入や資本増強で賄うか、です。
いずれの手段であれ、留意しておきたいのがバランスです。
いわゆる「財務レバレッジ」と呼ばれるものです。
借入金や社債などを梃子(レバレッジ)として使うことで、総資産が自己資本の何倍となるかを表した数値のことで、次の式で表されます。
財務レバレッジ(倍)=総資産÷自己資本
例えば、自己資本が100万円、総資産が500万円だとすると、財務レバレッジは5倍となる計算です。
自己資本で賄う比率が上がれば上がるほど数値は小さく(100%自己資本ならレバレッジは1倍)なりますが、資金効率の面で果たして適切かという課題も残ります。
外部パートナーの力を借りる方法は、例えばフランチャイズ形式など、直接の売上は外部に譲り、自社はロイヤルティーなど最終利益から分配を受ける、もしくは関連ビジネスで売上を立てるというスタンスです。
この場合、メインの売上を獲得することはできませんが、その代わりに、費用分割にかかるリスクを解消することができるため、会計上安定した収益構造を構築できるメリットがあります。