今回は、不動産取引とインボイス制度について考えてみたいと思います。
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インボイスの保存がなくても仕入税額控除が認められる宅地建物取引業者の特例
ご承知のように、本年10月1日以降は適格請求書発行事業者以外の者から受けた課税仕入れは、原則として仕入税額控除の対象にはなりません(新消法30⑦)。
しかしながら上記の特例として、特定の事業に限り、棚卸資産としての課税仕入れについては、適格請求書等の保存がない場合であっても帳簿に一定の事項の記載があれば、仕入税額控除が認められます。
その一例として、宅地建物取引業者[1]が適格請求書発行事業者以外の者から課税仕入れを行った場合、当該課税仕入れに係る帳簿に、「宅地建物取引業者が行う他の者から買い受けた建物の課税仕入れに該当する旨」と「課税仕入れの相手方の住所又は所在地」を記載することにより、仕入税額控除が認められます(新消令49①一ハ(3))[2]。
ただしこの特例は上記のとおり、棚卸資産としての課税仕入れに限定されますので、例えば、自ら不動産を保有して店舗・住宅として貸し付ける等の事業を行う場合には適用されませんので、注意が必要です。
[1] ここでいう「宅地建物取引業者」とは、宅地建物取引業法2条2号《用語の定義》に規定する「宅地建物取引業を営む宅地建物取引業者」を指す。
[2] 宅地建物取引業者以外にも、購入した棚卸資産につき、帳簿の保存のみを要件として仕入税額控除が認められる場合として、古物商を営む者(中古自動車販売業者等)、質屋を営む者、適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品の購入等がある(国税庁「インボイスQ&A」問101参照)。
売買契約書は適格請求書等となり得るか?
上記の宅地建物取引業者が仕入れた不動産等を譲渡する場合、実務的には敢えて請求書等を発行せず、売買契約書の締結で済ませることもあるのではないかと思われます。
この場合、仮に消費税法で定められた適格請求書等の記載事項を全て書き込んだ売買契約書の交付を受けた不動産の買手は、当該売買契約書の保存をもって仕入税額控除が認められるか、すなわち、売買契約書は適格請求書等の代用となり得るか、という問題が惹起されます。
この点については、売買契約書と請求書は本来役割が違うという考え方が背景にあるようで、売買契約書に資産の譲渡の時期や期間についての記載があったとしても、適格請求書等の記載事項である「課税資産の譲渡等を行った年月日」を記載したこととはならない、すなわち適格請求書等は、「課税資産の譲渡等を行った時点」における取引の相手方が適格請求書発行事業者であることの証明という機能を有するもの、という位置付けのようです。
したがって本年10月1日以降の不動産の売買取引では、買手が消費税の課税事業者である場合、売買契約書の締結に加え適格請求書等の交付が別途必要となってきます。