外国の事業体が日本の税法上「法人」に該当するかについて争いとなったケースが見られます。米国デラウェア州のLPSについては最高裁は法人に該当すると判断しました。

この記事の目次

米国における代表的な事業体の1つがLPS(リミテッド・パートナーシップ)です。

LPSとは、米国各州の法律において認められている2名以上の者により設立される事業活動や投資活動を営むための組織体であって、そのうち、パートナーシップの債務に対して無限責任を負う1名以上のジェネラル・パートナーと、原則として出資額を限度とする有限責任を負う1名以上のリミテッド・パートナーとによって構成されるものをいいます。

今回紹介する事案は、米国デラウェア州のLPSが法人に該当するか否かが争われたもので、最高裁判所は我が国の租税法上の法人に該当するとの判決を下しました。

事案の概要

納税者X(日本の居住者)は、米国デラウェア州LPS法により設立されたLPSが行う不動産賃貸事業に投資し、当該LPSの不動産事業で生じた損失を他の所得と損益通算して所得税の確定申告を行った。

これに対して国税当局は、本件LPSは租税法上の法人(外国法人)に該当することから、そこで生じた損益は外国法人たるLPSに帰属し、Xにおける損益通算は認められないとする更正処分を行った。

Xはこの処分を不服として争ったところ、最高裁判所は、当該LPSは我が国の租税法上の法人に該当することから、当該更正処分は適法と判断した。

本件における争点は、本件LPS は我が国の租税法上の法人に該当するか否かである。

裁判所の判断

最高裁判所は、LPSが法人に該当するか否かについて、以下の2つの判断基準を示した。

  1. 当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないこと疑義のない程度に明白であるか否かを検討する。
  2. 1.による判断ができない場合に)当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討する。 

この判断基準を本件LPSに当てはめて検討した結果、最高裁は以下の通り本件LPSは法人に該当すると判断した。

【判断基準1について】

イ 州LPS法は、同法に基づいて設立されるLPSがその設立により「separate legal entity」となるものと定めているところ、デラウェア州法を含む米国の法令において「legal entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でない。

ロ また、「separate legal entity」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではない

ハ デラウェア州一般会社法における株式会社については、「a body corporate」という文言が用いられ, 「separate legal entity」との文言は用いられていない。

以上のことから、本件LPSが日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難である。

(→よって【判断基準2】に移行する)

【判断基準2について】

イ 州LPS法は、LPSにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに、同法若しくはその他の法律又は当該LPSのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨を定めている。

ロ このような州LPS法の定めに照らせば、同法はLPSにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに、LPS名義でされた法律行為の効果がLPS自身に帰属することを前提とするものと解される。

以上のことから、本件LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。

よって、本件LPSは外国法人に該当するというべきであり、本件の不動産賃貸事業はLPSが行うものであり、不動産賃貸事業により生じた所得は、LPSに帰属するものと認められる。