年金の繰り下げ受給をすることで年金額を増やすことが可能で毎月0.7%受給額が増加し75歳で受給を開始した場合には最大84%の増加が見込まれます。本記事では繰り下げ受給のシミュレーションをしていきます。

この記事の目次

年金の繰り下げ受給とは?

年金の繰り下げ受給のシミュレーションをする前に、年金の繰り下げ受給とは何かについてその概要を説明していきます。

年金の繰り下げ受給の概要

通常、老齢年金の受給開始は65歳から始まりますが、実は年金の受給を遅らせることが可能です。

これを年金の繰り下げ受給と呼び、66歳以降75歳まで1カ月ごとの延期が認められています。

ただし、1952年4月1日以前に生まれた方は、繰り下げ受給の可能期限は70歳までとなっています。

繰り下げて受給すると毎月0.7%受給額が増加し、75歳で受給を開始した場合には最大84%の増加が見込まれます。

以下が年金の受給額を繰り下げた場合の増額率です。

図表1:繰下げ増額率早見表

◀左右にスクロールします▶
請求時の
年齢
0カ月 1カ月 2カ月 3カ月 4カ月 5カ月 6カ月 7カ月 8カ月 9カ月 10カ月 11カ月
66歳 8.40% 9.10% 9.80% 10.50% 11.20% 11.90% 12.60% 13.30% 14.00% 14.70% 15.40% 16.10%
67歳 16.80% 17.50% 18.20% 18.90% 19.60% 20.30% 21.00% 21.70% 22.40% 23.10% 23.80% 24.50%
68歳 25.20% 25.90% 26.60% 27.30% 28.00% 28.70% 29.40% 30.10% 30.80% 31.50% 32.20% 32.90%
69歳 33.60% 34.30% 35.00% 35.70% 36.40% 37.10% 37.80% 38.50% 39.20% 39.90% 40.60% 41.30%
70歳 42.00% 42.70% 43.40% 44.10% 44.80% 45.50% 46.20% 46.90% 47.60% 48.30% 49.00% 49.70%
71歳 50.40% 51.10% 51.80% 52.50% 53.20% 53.90% 54.60% 55.30% 56.00% 56.70% 57.40% 58.10%
72歳 58.80% 59.50% 60.20% 60.90% 61.60% 62.30% 63.00% 63.70% 64.40% 65.10% 65.80% 66.50%
73歳 67.20% 67.90% 68.60% 69.30% 70.00% 70.70% 71.40% 72.10% 72.80% 73.50% 74.20% 74.90%
74歳 75.60% 76.30% 77.00% 77.70% 78.40% 79.10% 79.80% 80.50% 81.20% 81.90% 82.60% 83.30%
75歳 84.00%

年金の繰り下げ受給で受給額は最大84%増は本当か?

上記の表を確認すると、年金の繰り下げ受給を行うことで最大84%も年金の受給額を増額することが可能です。

しかし、最大で84%も受給額が増えると言っても、75歳まで年金を貰わずに生活出来る人は極わずかではないでしょうか。

実際、厚生労働省が公表した令和2年簡易生命表によると、男性の平均寿命は81.64年、女性の平均寿命は87.74年であることから、平均寿命まで生きた場合、84%増えた年金額を男性であればおよそ6年間、女性であればおよそ12年間受給することができます。

しかし、あなたが平均寿命まで生きられるかはわかりません。

年金の繰り下げ受給によって年金の受給額が増えるからと言って、必ずしも年金の繰り下げ受給をすべきであると判断することはできないのです。

年金から天引きされる税金や社会保険料の種類

年金の繰り下げ受給によって年金の受給額は確かに増えますが、増えた年金額がそのまま貰えるわけではありません。

通常、年金は雑所得とみなされます。

雑所得は基本的に収入から経費を引いた金額で計算されますが、公的年金の場合、特定の控除額を収入から引く形で計算します。

65歳未満で年金が108万円、65歳以上で158万円を超える場合や特定の生命保険に基づく年金を受け取る際は、所得税や復興特別所得税が即時徴収されます。

ただし、これらの税金は年末調整されないので、年度末には自分で税金の精算を行う必要があります。

したがって、年金から所得税、復興特別所得税が天引きされることはありませんが、確定申告を通じて支払う必要があります。

年金から天引きされる税金や社会保険料としては、以下のようなものがあります。

・介護保険料

65歳以上で、老齢、退職、障害、死亡の理由で年金を受け取っており、年収が18万円を超える方。

・国民健康保険料

65歳〜75歳未満(後期高齢者医療制度適用者を除く)で、老齢、退職、障害、死亡を元に年金を受け取り、年収が18万円以上の方。

ただし、国民健康保険料と介護保険料の合計が、特定の年金の半額を超える場合は、国民健康保険料は特別徴収対象外です。

この基準は各自治体で判断されます。

・後期高齢者医療保険料

75歳以上または65歳〜75歳未満で後期高齢者医療制度が適用される方で、老齢、退職、障害、死亡を元に年金を受け取り、年収が18万円以上の方。

しかし、後期高齢者医療保険料と介護保険料の合計が、特定の年金の半額を超える場合は、後期高齢者医療保険料は特別徴収から外されます。

この評価は自治体が行います。

・住民税

65歳以上で、老齢や退職により年金を受け取り、年収が18万円以上の方。

年金から税金や社会保険料を天引きすることは特別徴収と呼ばれるものです。

年金からの特定の保険料や税金の特別徴収は、一定の条件に該当した受給者に限られています。

対象となる人々には、各市町村から通知があります。

年金を繰り下げ受給した場合の受給率〜受給額のシミュレーション〜

年金をいつ受け取るかで金額が変わります。

多くの人は「どのタイミングで受け取るのがベストか?」と考えるでしょう。

そこで以下では、受給額について考えるために、シミュレーションを行っていきます。

判断の基準として、65歳からの年金受給額を月10万円(年間120万円)と設定し、60歳からの受給額との比較をしてシミュレーションを行います。

年金は65歳を基準に繰り下げて受給することも可能ですが、60歳から繰り上げて受給することも可能です。

ただし、繰り上げて受給する場合には、年金の受給額が少なくなります。

以下では、まず、繰り上げた場合のシュミレーションを行っていきます。

図表2:60歳からの受給 vs 65歳からの受給

年齢 60歳から受給 (万円) 65歳から受給 (万円) 差 (万円)
60歳 91.2 0 91.2
65歳 547.2 120 427.2
70歳 1003.2 720 283.2
75歳 1459.2 1320 139.2
80歳 1915.2 1920 -4.8

65歳からの年金受給額を月10万円(年間120万円)とする場合で、繰り上げ受給をする場合、昭和37年4月2日以降生まれの方はひと月当たりの減額率0.4%となります。

したがって、5年分繰り上げた場合には、0.4%×60ヶ月=24%が減額される計算です。

以下のように、日本年金機構が、年金の繰り上げ受給に関する減額率の情報を提供しています。

図表3:年金の繰り上げ受給に関する減額率

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請求時の
年齢
0カ月 1カ月 2カ月 3カ月 4カ月 5カ月 6カ月 7カ月 8カ月 9カ月 10カ月 11カ月
60歳 24.00% 23.60% 23.20% 22.80% 22.40% 22.00% 21.60% 21.20% 20.80% 20.40% 20.00% 19.60%
61歳 19.20% 18.80% 18.40% 18.00% 17.60% 17.20% 16.80% 16.40% 16.00% 15.60% 15.20% 14.80%
62歳 14.40% 14.00% 13.60% 13.20% 12.80% 12.40% 12.00% 11.60% 11.20% 10.80% 10.40% 10.00%
63歳 9.60% 9.20% 8.80% 8.40% 8.00% 7.60% 7.20% 6.80% 6.40% 6.00% 5.60% 5.20%
64歳 4.80% 4.40% 4.00% 3.60% 3.20% 2.80% 2.40% 2.00% 1.60% 1.20% 0.80% 0.40%


(出所: 年金の繰上げ受給

したがって、60歳から受給する場合、120万円の24%減となる91.2万円が受給できることがわかります。同様に計算して算出されたものが図表2です。

このシミュレーションから、80歳までの生存を見越していれば早めに受給する方がよいことが分かります。

しかし、80歳を超えることが予想される場合は、65歳からの受給が最も適しています。

次に、繰り下げた場合のシミュレーションも行っていきましょう。

図表4: 65歳からの受給 vs 70歳からの受給

年齢 65歳から受給 (万円) 70歳から受給 (万円) 差 (万円)
65歳 120 0 -120
70歳 720 170.4 -549.6
75歳 1320 1022.4 -297.6
80歳 1920 1874.4 -45.6
81歳 2040 2044.8 4.8

図表1で示したように、繰り下げ受給を行った場合、120×42%=50.4万円が追加されるため、170.4万円を受給できることになります。同様に計算して算出されたものが図表4です。

このシミュレーションから、81歳までの生存を見越していれば、70歳からの受給が最も適しています。それ以前の年齢では、65歳からの受給がよいことが分かります。