いよいよ来月よりインボイス制度がスタートします。
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固定資産を取得する場合「2割特例」と本則課税どっちが有利?
本コラムの第1回にも記したように、免税事業者にとっては革命勃発となるインボイス制度がいよいよ始まります。
免税事業者の中には既に覚悟を決めて登録し、10月から適格請求書発行事業者となる事業者も多くおられることでしょう。
令和5年度税制改正で、いわゆる「2割特例」が導入されたこともあり、これが適格請求書発行事業者の登録を後押しした面も否めません。
既にご承知のように「2割特例」とは従来からある簡易課税制度に類似した制度で、後述する簡易課税制度の第2種事業区分の場合と同様、納付税額を顧客から収受する売上税額の2割とするというものです(28年改正法附則51の2①②)。
財務省の担当官によれば、本特例は、本来納税義務のない免税事業者の税負担・事務負担の軽減を図るための激変緩和措置として導入された[1]とのことで、従前からの課税事業者は当然適用不可となりますが、課税事業者を選択した事業者(課税事業者選択届出書を提出した者)も適用が認められません。
本特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間に適用可能ですが、この間の課税期間の基準期間における課税売上高が1千万円を超える課税期間があれば、その事業者はそもそも納税義務が免除されない(事業者免税点制度)ので、当該課税期間においては、2割特例は適用できませんので注意が必要です[2]。
本稿は、インボイス制度導入前の免税事業者が、事前に課税事業者を選択した場合、及び適格請求書発行事業者となる前後に比較的高額の設備投資をした場合の課税関係を検討します。
[1] 村田淳浩「令和5年度税制改正大綱におけるインボイス制度の負担軽減措置」(税理・2023年2月)145頁
[2] さらに、課税期間の短縮の特例を選択して課税期間を3カ月又は1カ月に短縮する事業者は、一定の事務処理能力を有する者として、2割特例の対象からは除かれる。よって、本稿では2割特例の適用が可能な事業者を対象とし、その課税期間はあくまで1年間という前提で話を進める。
まだ間に合う、課税事業者を事前に選択した者に対する「2割特例」適用の救済措置
適格請求書発行事業者の登録は令和3年10月1日より開始されており、免税事業者が登録を受けるときは、登録日が令和5年10月1日の属する課税期間中である場合、本来は必要である課税事業者選択届出書(課税選択届出書)の提出は、登録開始当初より免除されておりました(28年改正法附則44④、インボイス通達5-1)。
しかし、免税事業者である以上、本来は必要なものであったため、適格請求書発行事業者の登録申請書(適格登録申請書)と課税選択届出書の双方を同時に提出した事業者は一定数あったと思われます。
一般に、課税選択届出書を提出した場合、課税事業者となった課税期間の初日から2年間、その間に開始した課税期間については納税義務は免除されません(いわゆる2年縛り。消法9⑥)。
そうすると、例えば、免税事業者である個人事業者が令和4年中に課税選択届出書及び適格登録申請書を提出して令和5年1月1日から消費税の課税事業者となった場合、その納税義務は令和6年12月31日まで免除されなくなり、かつ、この間の課税期間においては、「2割特例」の適用がないということになります。
上記のとおり、「2割特令」は令和5年の税制改正にて、いわば後から導入された制度であり、本来必要とされる届出書を提出した者が一方的に不利益を被ることとなってしまうため、その救済を図るべく、こうした者が令和5年10月1日の属する課税期間中(すなわち、上記例でいえば、令和5年12月31日まで)に、課税事業者選択不適用届出書(選択不適用届出書)を提出したときは、その課税期間から課税選択届出書の効力を失効する措置が講じられました。
選択不適用届出書により、上記例でいえば、令和5年1月1日から9月30日までの納税義務が改めて免除され、適格請求書等発行事業者として、令和5年10月1日以降令和8年9月30日までの日の属する課税期間については、本特例を適用することが可能となります。
なお、そもそも、この「2割特例」は、事前の申請手続きはありませんし、適用しようとする課税期間の確定申告書に適用する旨の「○」を付せば足りることとされています(28年改正法附則51の2③)。
したがって、令和5年10月1日以降令和8年9月30日までの日の属する課税期間については、適格請求書発行事業者の取消し手続きを行わない限り、本則課税か、本特例を適用するか、有利な方を選択することが可能となります。