決してポジティブな理由からではなく税理士を目指したという、榧野(かやの)国際税務会計事務所代表の榧野敬晶氏。ドイツから帰国後、大手税理士法人を退職し独立した背景とは。AIの普及から予測される会計業界の未来についても話を伺いました。

この記事の目次

「手に職を付けたい」税理士を目指してステップアップ

この業界を目指したきっかけについて教えてください。

榧野:中高一貫の学校を中退してフラフラと流されるように生きていたのですが、20歳頃、昔の友人にばったり会い、彼らは昔の目標どおり医師や官僚になろうとしていて、何もせずに過ごしていた自分との差を目の当たりにしました。

そんな時に自分の将来を考えたところ、叔父の会社へ年に1回税理士さんが来ていて税理士という資格に馴染みがあったのと、友達のお父さんが税理士で良い車に乗っているイメージがあったので、自分も手に職を付けて生きていける資格がほしいと思い、税理士を目指すことにしたというのがきっかけです。

簿記の勉強から始めたところ、最初は全然おもしろいと思えず嫌になることもありましたが、現状を何とかしないと他の友人たちはどんどん先に行ってしまう、という焦りからやるしかなかったです。

資格取得までは順調でしたか?

榧野:税理士試験は3科目合格まで順調に進みましたが、2007~2009年頃は公認会計士が大量合格の時代だったこともあり、目標を公認会計士試験に変更し、TACの会計士講座に通いながら並行して関西大学大学院で国際租税法の勉強をしました。

公認会計士試験は1回目の短答式試験に落ちてしまいましたが、2012年5月に2回目の短答式試験に合格しました。

大学院修了後は、論文式試験の勉強をしつつ事業会社に勤め始めました。

リーマンショックの影響で当時は監査法人に入れず、監査の実務経験が積めない公認会計士試験合格者もいたため、そうならないために合格後のことを考えて上場企業の経理をしておこうと考えての転職でした。そこでは税務を行う部署で働き、上場企業の複雑な申告書に初めて触れました。

しかし、依然としてBIG4に入りたいという気持ちはあったので、説明会に行ったらオファーをもらえたこともありEY税理士法人(当時の名称は「新日本アーンストアンドヤング税理士法人」)に入ることになりました。

ちなみに公認会計士試験は、EY税理士法人時代の1年目が論文式試験の最後のチャンスの年でしたが、受験できず期限切れしてしまいました。

BIG4での海外勤務を経験して決意した独立

EY税理士法人に入社されて「社内で揉まれた」とのことですが、どのようなご経験をされたのでしょうか?

榧野:それまでは事業会社に在籍し、監査法人から監査を受ける側だったので、「BIG4では事業会社にはない最新のツールを使って監査やアドバイスをしているのかな」と思っていたのですが、転職をしていざアドバイスを提供する側に回ってみたら良くも悪くも属人的で、担当者の知識・経験によるところが大きいのだと分かりました。

今では考えられないかもしれませんが、当時は泊まり込みで働く人も多かったです。

午前3時に帰ろうとしたら出社してくる人がいたり、始発で行ったらもうみんな働いていたりとか。

ただ、残業代はフルにチャージされていたので、年齢にしてはとても高いお給料をもらえていましたし、3年目で外資系企業に出向したり、4年目で連結納税の部署への異動を経験したりと、新しいことに挑戦したい自分としては、いい経験をさせてもらえているという実感はありましたね。

ドイツの事務所にいたこともあるそうですね。

榧野:コロナの前に、ドイツのデュッセルドルフというヨーロッパの中で日本人が一番在住している街に行きました。

当時はちょうど「ブレグジット(英のEU離脱)」の時期だったので、イギリスとヨーロッパ諸国との間の関税がどうなるのか、イギリスの工場を他国に動かすとどうなるのか、といったことをドイツ人パートナーのもとで調べていました。

それまでは大手町の日系大手企業などに向けて連結納税や組織再編税制、タックスヘイブン対策税制など、日本の税法に基づく仕事をしていたので、海外のルールに基づく仕事をしたのは新鮮でしたね。

その後、EY税理士法人を退職されて現在の事務所を設立されますが、そのきっかけは何でしょうか?

榧野:新型コロナウィルスが流行する2020年に退職したのですが、その前年はドイツにいました。

日本に帰るときに、もう1度ドイツに行きたいとドイツ人パートナーに話して帰り、コロナ流行中も何度かドイツ人パートナーに交渉してもらったのですが、新型コロナウィルスの影響で戻れる状況ではありませんでした。

海外で働きたいというモチベーションが高かったのですが、それが叶わず、20代後半でEY税理士法人に入社して以来、組織再編、連結納税、国際税務といったいろいろな分野の仕事に関わり、ひと通りやりきったかなと感じていたので、悔いなく独立するには良いタイミングと思い、退職を決意しました。

国際税務事務所を立ち上げたのは、これまでのご経験を活かしたいと思われたのでしょうか?

榧野:そこまで深くは考えていませんでしたが、退職直前にドイツにいたこともあり、また、少し英語ができるので他と差別化できるかなと思い、国際税務の分野にしました。

EY税理士法人では主に連結納税や組織再編税制という国内税務の難しい分野を担当していましたが、その相談の流れで海外の案件も入ってくるので、国際税務に関する相談・アドバイスも提供していました。

また、当時は国際税務に関わる想定はしていませんでしたが、大学院時代に学んだことも活きているように思います。

実際に独立してはじめて感じたことは、国際税務は中堅以上の会計事務所が比較的大きな会社向けにサービス提供していることが多いのですが、小さな会社や外国人の方を含む個人にも国際税務の問題は起こるということです。

たとえば、外資系企業にお勤めの方は、通常の給与の他に自社株で報酬をもらうことが多いのですが(ストック・オプション、RSU、ESPPなど)、そうなると20代のお客様でも年収が数千万円となることは珍しくありません。

ストック・オプション、RSU、ESPPなどは、一般的に日本法人からの給与ではないので源泉徴収されず、確定申告が必要になります。

また、もらった株に配当があれば、配当所得と外国税額控除の論点もでてきますし、さらには、株を売ったら誰がどこにいくら税金を払うのか、送金したらどうなるか、といった問題も出てきます。

そうなると、個人の方にも国際税務のニーズはあるなと思いました。

RSUに関しては、外資系企業に出向していたときに出向先の営業の方が抱えている税金問題をご相談いただいて知っていたのですが、詳しい税理士があまりいないようで、相談に乗るうちにお客さんが増えていきました。

個人や中小企業・外資系企業にニーズがあると感じたことで、より国際税務を強化していこうと考えたのでしょうか?

榧野:そうですね。とは言っても、独立する前は大企業向けの連結納税、国際税務、組織再編とかそのあたりを専門にしようかと思っていました。

でも、今は変わってきました。

現在の事業の軸は大きく3つあって、1つは国際税務・海外進出、2つ目は相続・資産税、3つ目は一般的な税務顧問です。

相続・資産税は、高年収の外資系企業にお勤めの方を中心に相続についての相談があり、毎年の確定申告を頼んでいただいている弊所に、相続に関するご相談も一緒に依頼が来るようになり件数が増えてきました。

また、不動産管理会社や資産管理会社の設立をご依頼いただくケースも少なくありません。

今後は相続に関するニーズが増えると思い、国際税務とあわせて力を入れています。

特長を打ち出したいという前提があって、国際税務の分野を選んだのもあるのでしょうか?

榧野:そうです。何か特長を出そうと考えて、お客さんの反応を見ながら絞っていきました。

最初は連結納税や組織再編税制に関わる仕事もしようとしていました。

これもいわゆる町の会計事務所が比較的苦手とする分野なので、ニーズがあると考えていましたが、たとえば連結納税って、上場企業グループの10社で連結となると10社分の処理を行わなくてはいけませんので1人ではできませんよね。

かといって経験のない方を雇ってもなかなかできるものでもありません。

結局、BIG4のOBレベルの人たちでチームを組まないといけないですし、そのレベルの仕事ができる方ならその方自身が独立されているはずです。

そう考えると事務所の中心的な事業として拡大していくのは厳しいなと思いやめました。

ITを駆使した効率化とIT化では解決できない業務を見据えた未来

榧野国際税務会計事務所の事業内容をまとめると、何があげられるでしょうか?

榧野:事業内容としては1. 国際税務・海外進出、2. 相続・資産税、3. 税務顧問が柱になるのですが、その他の業務として税金勘定の監査(Tax Accrual Review)もあります。

EY時代に、新日本監査法人が上場企業の複雑な税務調整に基づいて計算されている財務諸表上の税金関連科目について、記載数値に重要な虚偽表示がないかどうかを判断する際に、EY税理士法人にそのレビューを依頼することあったのですが、これと同じような仕事を新日本監査法人のパートナーが立ち上げた、IPOを目指す会社が集うESネクスト有限責任監査法人という監査法人のお客様向けに提供しています。

IPOしたい会社のN-2期(直前々期)くらいから入って、未払法人税の数値は正しいか、税務リスクが隠れていないかを監査します。

事業内容や理念についてお考えになっていることはありますか?

榧野:理念ですが、手軽に使ってもらえるようにしたいと思っています。

Google Meetなどで手軽に相談ができて、オンラインで完結するような、わざわざ事務所まで足を運んで相談しなくてもいい仕組みを作りたいです。

そして、サービス提供プロセスをもっと効率化したいと考えています。

この業界は効率化がずっと課題になっていますが、例えば税務顧問のお客様や相続の案件は、お客様・スタッフ・自分でLINEグループを作って、質問が来たら誰かが返すようにしたり、資料はGoogleドライブに入れて共有したりといった感じでできることから進めています。

ちなみに、EY税理士法人ではペーパーレスやリモートワークが進んでいて、電子での調書作成は入社2年目くらいからやっていましたね。

税理士業界ではまだまだ珍しいかと思いますが、オンライン化を率先して取り入れていらっしゃるんですね。

榧野:お客様はオンラインで面談してそのままご契約していただくことが可能です。

対面の面談をご希望されるお客様もいますが、たとえば外資系企業にお勤めのお客様の場合は、リモートでの面談を希望される方がほとんどですね。

年収を何千万円と稼ぐ方の1時間当たりの金額は相当な額になりますし、時間はお金であるという感覚を持っている方が多いので、まず皆さんリモートです。

そんなこともあり、実は多くのお客様には直接お会いしたことがないのですが、お会いしたことがないにもかかわらず信頼して業務をご依頼いただけるのは、本当にありがたいことだと思っています。

業務をされている中で、特に意識されていることはありますか?

榧野:自分自身が、自分のレベル感に合わないコミュニケーションををされることが嫌なので、この部分に気を付けないとお客様は離れていくと思い、お客様のレベル感に合わせたコミュニケーションをとるようにしています。

ボールを一方的に渡すのではなくて、どうすればボールを受け取ってもらえるのか、相手がどんなホールをどのタイミングで期待しているのか、といったことを考えてからコミュニケーションするようにしています。

また、経営者のお客様や外資系企業にお勤めのお客様は上のポジションの方も少なくありません。

このような方々は日々お忙しく過ごされているので、独立性は保持しつつもお客様にとって「仕事ができて依頼しやすい専門家」となるように意識しています。

ちなみに、コミュニケーション手段については、20~50代くらいの方は、ネットで検索して弊所を見つけて、オンラインで問い合わせをいただきます。

業務を進めるにあたってはメールでのやり取りやリモートでの打ち合わせを行いつつ、場合によってはより気軽に連絡していただけるLINEを使ってのやり取りも行います。

ITツールに苦手意識のある方だったら、リモートでの面談やチャットでのコミュニケーションだけでは進められないことも多いと思いますが、これらのITツールに抵抗のない方は当社のやり方で効率よく税務問題を解決できると思います。

そういうお客様を増やしたいと思っていますし、こういったやり方があるんだ、というのも広めていきたいですね。

これからの会計・税務業界の展望はいかがでしょうか。

榧野:ビジネス誌では、「AIの普及で監査や税務はなくなる」という記事もよくありますが…これは実際にやってみてから言ってほしいと思います(笑)。

もちろん単純なデータ入力など減少する仕事もあるでしょうけど、上場企業を取り巻く複雑な税制や国際税務の分野はITを使って単純化・標準化できるように設計されていません。

ITツールを使ってできるだけ効率良くはしていきますが、IT化だけでは解決できない、とても複雑な制度もあるので、仕事がなくなることはないと思っています。

IT化やAIでなくなる仕事では決してないので安心して欲しいというのは、将来会計や税務の仕事に携わりたいけれど、IT化やAIの進歩で仕事がなくなるのではと不安に思っている受験生にも、ぜひ伝えたいですね。

 

【編集後記】

独立後、お客様のニーズに合わせて業務展開をしてきた榧野先生。ドイツ在住時代、休みの日にはヨーロッパ周辺をご旅行されていたんだとか。榧野先生が持っている穏やかな雰囲気や事務所の特長は、世界中の様々な価値観を知っているからこそのものなのではと感じました。榧野先生、ありがとうございました!

榧野国際税務会計事務所/東五反田会計合同会社

●設立

2020年

●所在地

〒141-0022
東京都品川区東五反田1-10-11

●理念

クライアント・ファーストな安心できるプロフェッショナルサービスを

●会社HP

https://www.kyno-office.com/

 


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