4大メディアの一角を担う新聞業界。かつては当たり前のような存在感がありましたが、今や本質的な要因によって、極めて困難な状態に陥っています。

この記事の目次

営業利益を増やすべく、地代家賃を抑えたい。

会計本来の役割ですが、改めて見ると「ビジネス→会計」なる一方通行です。

会計を見据えながらビジネスを考えるという視点を加え、目線を2車線にする。

両者の横断を可能にすれば、間違いなくいずれの精度も向上します。

ビジネスから会計、会計からビジネスの最終回は「新聞業界」です。

新聞の市場規模と推移

新聞は、いわゆる4大メディアの1つに数えられる一大広告媒体です。

とはいえ、今やかつての勢いはありません。

一般社団法人日本新聞協会が毎年発表する新聞の発行部数と世帯数の推移を確認すると、直近の10年間(2013~2022)において、発行部数は▲1600万部、1世帯あたりの購読部数は2世帯に1世帯の割合にまで大きく減少してしまっていることがわかります。

 (単位:百部) 出典:新聞の発行部数と世帯数の推移|調査データ

 

さらに年代を遡ってみると、2007年を境にして世帯あたりの部数が1.0を割り込みはじめ、以降下がり続けています(2007年は折しも初代iPhoneが発売された年。その後、現在隆盛を誇る様々なSNSツールが誕生していったことも原因の1つであることは確かです)。

厳しい状況は売上高にも現れています。

同じく、日本新聞協会が発表する新聞社全体の売上高の推移を確認すると、この10年間で3割以上も減少していることがわかります。

(単位:億円) 出典:新聞社の総売上高の推移 |調査データ

60代以上の世代が購読者の2割を占めている状況から見ても、残念ながら今後こうした傾向から好転する可能性は小さいでしょう。

この状況に至った原因として、上述したスマートフォンやSNSの登場も一因であることは確かですが、それらとはまた別の問題もあります。

ビジネスと会計の視点

ここからは、ビジネスと会計の視点で掘り下げて確認してみましょう。

ビジネスの視点

まず、ビジネスの視点です。

新聞ビジネス最大の特徴と言えば、なんといっても全国津々浦々にある新聞販売網です。

ヤマト運輸や佐川急便などの宅配便のように新聞販売店によって細やかな販売網が築かれ、各家庭への配達を可能にしています。

いわゆるラストワンマイルを押さえてきたことが、これまでの隆盛を支えてきました。

しかしながら、上述のように新聞全体の業況が厳しくなった結果、ビジネスの根幹とも言える新聞販売網そのものの維持が困難になりつつあります。

こうした新聞販売店と似た構造を持つものとして、書店が思い浮かぶかもしれません。

書店では、本や雑誌などが出版社による製作、取次を経て、全国の書店に並ぶという構造を持ちます。

新聞が直接家庭へ届くのに対し、書店は消費者が店舗に足を運ぶといった違いはあるものの、ラストワンマイルを押さえている点では似ているとも言えるでしょう。

しかしながら、決定的な違いもあります。

新聞販売店はその名が示す通り、新聞のみの扱い(取り扱う新聞の種類の差はありますが)です。

一方、書店では本に留まらず、文具やカフェなどの併設といった他分野への横断が可能であり、商材の幅を持っている点が新聞販売店と大きく異なるのです(主たる商材である新聞と書籍においても、2023年時点で新聞社は97社、出版社は391社と4倍以上の開きがあります)。

出版業界も同様に厳しいと言われていますが、新聞業界に比べまだ踏みとどまっている印象があるのは、こうした違いもありそうです。

会計の視点

続けて会計の視点です。

新聞は、会計面においても2つの独特の性質があります。

1つ目は、1つの商材に対して同時に2つの収入(販売と広告収入)を得ることです。

そして2つ目が、典型的な固定費型ビジネスであることです。

固定費型ビジネスには、さらに2つの特徴があります。

1つ目は、売上上昇時には利益が増大する一方、下降時には限界利益(売上高 - 変動費)も連動して減少することによって、固定費のカバーがしにくくなるという負の側面があることです。

2つ目は、固定費へのテコ入れが難しい点です。

この固定費型ビジネスの特徴こそが、現在の新聞業界を苦しめている原因そのものでしょう。

固定費ビジネスは、文字通り固定費によって売上を支えているため、固定費を削ること=商品やサービスの品質低下を意味し、結果的に売上減少を招く恐れがあり、簡単に引き下げることができません。

その結果、固定費ビジネスにおいて事業の業績が厳しくなってきた場合、別事業によって収益を立てるしかなくなってしまうのです。

実際新聞各社も、ホテル事業などメディアから距離をおいた別事業によって、全体の収益を支えているのが実情です。