租税法学者や会計人等を中心に租税に関するさまざまな問題について事例研究や判例勉強会等を行っているアコード租税総合研究所 所長で中央大学商学部の酒井克彦教授が税金の「???」な問題に切り込みます。

違憲状態と未納付状態
選挙における一票の格差
選挙における一票の格差の問題はしばしば大きな話題になります。平成25年7月の参議院選挙では、選挙区ごとの一票の価値について、最大で4.77倍の格差があったとされており、この点について、最高裁平成26年11月26日大法廷判決(民集68巻9号1363頁。以下「最高裁平成26年大法廷判決」と言います。)は、「本件選挙当時において、本件定数配分規定の下で、選挙区間における投票価値の不均衡は、平成24年改正法による改正後も前回の平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあった」と判示して、著しい不平等状態(違憲状態)であるとの判断を下しました。
ところが一方で、「本件選挙までの間に更に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない」として、定数配分規定について憲法違反とまでは断じず、選挙の無効を求める訴えは斥けています。これまで、高等裁判所において2件の選挙無効の判断が示されており、かつ、上記のとおり最高裁平成26年大法廷判決自身も「著しい不平等状態」を認めているにもかかわらず、選挙無効、すなわち定数配分規定の違憲までは認めなかったのです。
選挙無効とならなかったワケ
その理由は、最高裁平成26年大法廷判決が「平成24年大法廷判決の言渡しから本件選挙までの…期間内に、…高度に政治的な判断や多くの課題の検討を経て改正の方向性や制度設計の方針を策定し、具体的な改正案の立案と法改正の手続と作業を了することは、実現の困難な事柄であったものといわざるを得ない」としているところから探ることができそうです。平成24年大法廷判決とは、最高裁平成24年10月17日大法廷判決(民集66巻10号3357頁)を指しますが、同判決は、平成22年の参議院選挙における旧定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしつつも、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨を判示するとともに、現行の選挙制度を見直す立法的措置を講じる必要がある旨を指摘した判決です。
要するに、最高裁平成26年大法廷判決は、同24年大法廷判決からわずか9か月後に行われた選挙までの間に十分な立法的措置を講じることは困難であり、なおかつ、国会もその責務として一定の措置を講じていたことをもって、選挙無効を生じさせる違憲判断までは下さなかったと考えることができます。このように、最高裁平成26年大法廷判決は、選挙までの期間と国会の動向を踏まえ、「違憲状態ではあるが、違憲(選挙無効)にはならない」という、いわば中間的な結論を導き出したともいえるでしょう。
未納付と遅滞税
ところで、延滞税の発生の有無を巡って最近極めて注目された最高裁判決として、最高裁平成26年12月12日第二小法廷判決(集民248号165頁)があります。この事件は、相続税につき、減額更正後に増額更正がされた場合において、その増額更正により新たに納付すべきこととなった税額に係る部分について、相続税の法定納期限の翌日から、その新たに納付すべきこととなった税額の納期限までの期間に係る延滞税が発生しないとされた事例です(事案の詳細は割愛しますが、本件事件における当初申告の各相続税額は約4000万円でした。原告ら納税者による更正の請求の結果、一度は約3035万円に減額更正されましたが、その後の調査により約3071万円に増額更正がなされた事案です)。
この事件では、延滞税の法的性質を民事罰と位置付けた上で、延滞税の発生を否定しており、最終的には納税者勝訴となったのですが、同判決は次のように極めて注目すべき説示を行っています。すなわち、「本件各更正処分〔筆者注:増額更正〕がされた時点において、本件各相続税については、本件各増差本税額に相当する部分につき法的効果としては新たに納税義務が発生すると共に未納付の状態になっている」として、本税が未納付の状態にあることを認めつつも、「延滞と評価すべき納付の不履行による未納付の国税に当たるものではない」としているのです。この点は、「未納付の状態」ではあっても「未納付の国税」ではないという一見矛盾した説示にも見受けられます。
未納付状態であっても未納付国税ではない!?
これはどのように理解すれば良いのでしょうか。この点につき、千葉勝美裁判官の補足意見を参考にすれば、「納税者によって生じた延滞」と評価すべきでないことは明らかであるので、国税通則法60条≪延滞税≫1項2号にいう「納付すべき国税があるとき」に該当しないと理解されたのではないかと思われますが、そうであったとしても未納付の状態にありつつ、未納付の国税に当たらないという解釈に違和感を覚える向きも少なくないでしょう。
もっとも、減額更正という課税庁の処分によって未納付の状態が作出されたことに鑑みれば、納税者において、増額更正がされる前に未納付の状態を回避することができなかったことは確かです。したがって、延滞税を課すべき「未納付の国税」に当たらないとした判決の考え方には理解を寄せることができましょう。しかしながら、「未納付の状態であっても、未納付の国税ではない」という部分は、分かりづらい判断であったと評価せざるを得ないようにも思われます。
前述した違憲状態と違憲の違いに中間的な解決の糸口を見出す最高裁平成26年大法廷判決を彷彿とさせる説示であるといえるのではないでしょうか。