一昨年の税制改正で相続税の基礎控除が縮小したことで、相続税は「お金持ちだけのもの」ではなくなってきた。これまで相続税と縁のなかった中間層の間で、相続税対策への意識が高まり、同時にかねてよりポピュラーな相続税対策のひとつであった「養子縁組」にも強い関心が寄せられている。こうしたなか、節税目的の養子縁組の有効性をめぐり争われていた裁判で最高裁がこのほど、「節税目的の養子縁組はアリ」とする初めての判決を下した。今後の相続税対策への影響をさぐる。

節税目的の養子縁組はアリかナシか

争われていたのは、福島県の男性と孫の養子縁組の有効性について。男性は、亡くなる前年の2012年に孫(長男の息子)と養子縁組をしたが、男性の死後、男性の長女らが「父親に養子縁組の意思はなかった」として、養子縁組の無効を求めて提訴した。一審の東京家裁は「男性には養子縁組の意思があったと推定される」として長女等の請求を棄却したが、二審の東京高裁は、男性が生前に税理士から養子縁組による節税効果の説明を受けていたことなどから、「養子縁組は相続対策のためであり、孫との間に真の親子関係をつくる意思はなかった」として、縁組を「無効」と判断。孫側の上告により争いの舞台は最高裁に移った。

法定相続人増やして基礎控除アップ

相続税は、遺産総額から基礎控除額を引いた額に課税される。現在の基礎控除は「3千万円+法定相続人数×600万円」。法定相続人の数が増えると、基礎控除額が増えて節税になる仕組みだ。法定相続人に含まれるのは配偶者と子どもだが、節税目的の養子縁組を防ぐために、養子については1人まで、実子がいない場合は2人までと上限が決められている。
今回の裁判で争われた養子縁組が行われた2012年当時の相続税法では、基礎控除は「5千万円+1千万円×法定相続人数」。現在よりかなり高額であり、法定相続人1人あたりの加算額も大きい。
裁判では、こうした節税効果に関心を寄せていた男性に養子縁組みの「意思」があったかどうかが争点となった。

「養子縁組と節税の意思は共存し得る」

最高裁第3小法廷(木内道祥裁判長)は1月31日、「節税目的の養子縁組であっても直ちに『意思がない』とはいえない」と判断。二審判決を破棄し、節税目的の養子縁組を「有効」とした一審判決が確定した。
民法802条1号は、養子縁組について「当事者間に縁組みをする意思がないとき」は無効としている。二審は、節税目的の養子縁組はこの「意思がないとき」に当たるとして養子縁組を無効と判断したが、最高裁はこれに対し「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るもの」と判示。さらに「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」とした。

〝お墨付き〟でも「ケースバイケース」

節税目的の養子縁組の有効性についてはこれまで下級審で判断が分かれていたが、最高裁が「有効」と認めたのは初めて。最高裁の〝お墨付き〟を得たことで今後の相続税対策シーンにも影響を与えそうだ。
とはいえ、最高裁は「節税目的の養子縁組であっても直ちに無効とはいえない」と判示したのであり、「節税目的でも絶対に有効」としたわけではない。相続税法63条には「相続税の負担を不当に軽減させる結果となると認められる場合は、税務署長の判断で養子を算入せずに税額を計算することができる」との定めもあり、「ケースバイケース」の現状に変わりはなさそう。今後の現場判断にも注目したい。

相続税に強い松岡章夫税理士(国税庁OB)の話。

養子縁組は節税目的もあろうが、財産・家を引き継いでもらいたいという意思の表れでもある。結婚という場面で言えば「配偶者に財産の2分の1の相続権があり、それが非課税になる」ということを承知して入籍するということではないか。養子縁組も婚姻も、こうした全ての法律効果を受け入れるということだと思う。本人の「養子縁組したい」という明確な意思がある限りは「無効」とは言えないものと考える。今回の最高裁の判決は、実務で行われていることが是認されたものでホッとしている。