前回の記事では、欠損金が引き継げるか否かの判定における留意点について解説しましたので、今回は適格合併(欠損金使用制限アリ・ナシ)・非適格合併の判定についてお話したいと思います。なお、ここでご紹介するのはご質問についての判定ステップについてです。(全てのケースをご紹介すると膨大な量となってしまうため)ご了承ください。

Qご質問

「1人の個人または家族が経営している同族会社が2つあります。
どちらの会社も保有割合は1人の個人が過半数以上を保有しており、
残りは家族が保有しております。
業種も異なり、会社間の売り買いがある程度ある場合、合併時においても
欠損金が引き継げるか引き継げないか問題になるのでしょうか?」

【本件の判定ステップの概要】

1.大枠を確認

  ↓

2.株主構成を確認

3.その他の各要件を確認

4.適格(欠損金使用制限アリ・ナシ)・非適格の判定

【判定ステップその1】

■『適格合併に該当するか否か?』

適格合併に該当するか否かの出発点で大事なのが、合併当事会社2社の株主構成です。

それは合併時の株主構成に応じて、
1. 完全支配(100%)関係間の合併
2. 50%超支配関係間の合併
3.  1.または2.に該当しない共同事業の合併
の判定となり、細かい判定要素が異なるためです。

ご質問のケースの場合、「どちらも保有割合は1人の個人が過半数以上、他は家族が保有」とありますから、「1.完全支配(100%)関係間の合併」に該当します。「社長と親族って”別々の個人”として見るんじゃないの?」という意見もあるかも知れません。また”グループ法人税制”などをご存知の方は、「社長と親族を同一人として見るべきだよね」という意見もあるかも知れません。この辺りは正直言って、「条文の作り方が悪い」と思います(愚痴)。

■「適格合併」の定義

適格合併の定義は、法人税法第2条十二の八号 及び 法人税法施行令第四条の三 に規定されています。そして、法人税法施行令四条の三の手前に四条の二という条文があります。一応、法人税法施行令四条の二の「一の者」と同四条の三の「同一の者」の条文上の表現の違いは、実務上は抑えておいても損は無いと思います(得もないかもしれませんが・・・)。

施行令四条の二は、いわゆる”グループ法人税制”などを適用する場面の規定であって、法人税法二条の十二の七の五号の「支配関係」と十二の七の六号の「完全支配関係」について定めている政令です。

施行令四条の三は、”組織再編税制”などを適用する場面の規定です。

法人税法施行令四条の二では「一の者(その者が個人である場合には、その者及びこれと前条第一項に規定する特殊の関係のある個人)」と第1項に記載してあります。しかも、第2項でも同じように「一の者(その者が個人である場合には、その者及びこれと前条第一項に規定する特殊の関係のある個人)が」としています。

しかし、法人税法施行令四条の三の第2項では、あえてこのようなカッコ書きはどこにもありません。「同一の者」という言葉の後に、カッコ書きがないのです。

これだけ見ると、「あえて違う規定にしている?」とか「個人個人の単位で判断なの?」という気もしますが、「一般社団法人 大蔵財務協会 」が発行する「図解 法人税」によると、組織再編税制の解説ページにいきなり、施行令四条の二が現れます。(大蔵財務協会は財務省の天下り団体ですが、この団体の発行書籍は実務上、税務署でも信用されており権威があります。)

そして、国税庁のHPでも組織再編の解説ページに突然、施行令四条の二が現れています。
国税庁https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shi…

この唐突さ、やや強引かなという気もします。施行令四条の三にも四条の二のカッコ書きを適用したいなら、もう少し分かりやすい条文の作り方をして欲しいです。

条文上スッキリしない点はあるものの、ご質問のケースでは、社長と親族を併せて「同一の者」として判定することになります。(なお、この場合の「親族」の範囲については、法人税法施行令に個別の「親族」の定義が無い以上、民法第725条の概念を借用します。)

■ということで、ご質問の結論

ご質問のケースでは1.完全支配(100%)関係間の合併」に該当し、同一支配者による「完全支配関係」下による合併ですので、法人税法施行令第四条の二第2項二号の「適格合併」に該当する可能性が高いです。

可能性が高いです」と言ったのは、他に抵触する部分があったら、適格合併に該当しないことも考えられるためです。

法人税法2条十二の八を読みますと、「金銭などの合併法人株式以外の資産が交付される合併」は適格合併から外されています。ですので、合併交付金がある場合は要注意です(適格にしたいなら、合併交付金は避けるべきです)。そして、法人税法施行令4の3第1項では「完全支配関係が継続される見込みではない合併」も適格合併から外されています。

なお、ここでは「見込み」の話なので、「結果的に売ることになってしまった」ケースはOKです。あくまでも、合併時において「継続して持つつもりだよ」ということなら「適格要件にはまるよ」、という意味です。「M&Aがある前提」などの場合は、この継続保有要件を満たさない可能性があります。

合併時に、会社を売却する旨の基本合意書を締結していれば、”非適格”になる可能性が高いでしょう。しかし、合併時にはM&Aの話が全くなくて、後々、結果的に会社を売っていた、ということならこの要件には抵触しません。

ただし、一般的な中小企業の親族関係間にある合併では上記のような要件に抵触することは少ないでしょうから(もちろん、実務上は上記のような点に引っかかる可能性はありますので、個別にご注意ください)、「適格合併に該当する可能性が高い」と判定しました。

一般的には、「適格組織再編に持っていきたいなら”自然体”の範囲内で、適格に持って行ける」ケースが多いです。”自然体”でと書いたのは、不自然・作為的なことをするとヤフー事件のように否認されてしまうことがあるためです。

従いまして、ご質問のケースにおいては、合併交付金も無く、全株式を継続保有見込であるならば、まずは「適格合併」に該当することとなります。(次回に続く)

[著]節税ヒントがあるかもブログ メタボ税理士さん/[編集]M&A Online編集部

M&A Online(2016年11月16日掲載)より転載

本記事は、「節税ヒントがあるかもブログ」に掲載された記事を再編集しております。
原文をお読みになりたい方は、こちらから
http://ameblo.jp/h-k-tax/entry-11430343080.html

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