顧問先の売上をアップさせるという差別化で、価格競争に巻き込まれず、顧問先に選ばれる。そんな「コンサル型税理士」のノウハウを同業の税理士・会計士に広く教えている松川幸弘税理士に、これまでの来歴からそのノウハウについてまで伺いました。
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税理士にとって、ある意味これまでタブーだった顧問先の売上アップを支援する、「コンサル型税理士」。
一般社団法人csvoice協会代表理事/ビューロ・ネットワーク税理士法人代表の松川幸弘税理士は、そのコンサル技術で自らの顧問先に喜ばれているだけでなく、講座を開催し、これまで全国で600人近く(2024年1月現在)の税理士・会計士にコンサルスキルを教えています。
そのノウハウについて、またそれを身に着けるに至った起伏に満ちた税理士人生を、インタビューを通じて語ってもらいました。
資格取得後事務所開設。ベンチャーを立ち上げ2億円を投入…波乱の税理士人生

■最初に、松川先生が税理士を目指すに至ったきっかけを教えてください。
松川:きっかけは、親の勧めです。会社を経営していた父は、親族の会社と業容の拡大を目指して合併したのですが、方針が合わず、結果として本社・工場・別荘・ゴルフ会員権など会社名義の財産をすべて失ってしまいました。父は法律には詳しかったんですが、合併比率等、経理の数値にはノータッチで、相手を信用して任せてしまっていたためです。数字に拘らないと大変なことになると痛感した父は、私に税理士になれと、それで税理士の勉強を始めたわけです。私は当時高校生だったので、詳しい内情は知りませんでしたが、父の何か強い想いを感じ、簿記の勉強を始めることになりました。
とはいえまだまだ若かったので、強い気持ちでいたわけではなく、大学1・2年生の時はバンド活動の方に熱中していました。3年生からはまじめに簿記学校に行き、4年生のときには税理士の2科目(簿記論・財務諸表論)に合格し、大学を卒業しました。
■卒業後に会計事務所に就職したのですか?
松川:新卒時に会計事務所は1社受けましたが、その時点では税理士試験の結果が出ておらず、そこは落ちてしまいました。そこで、婦人服のアパレルの経理職に就職をしました。500人ぐらいの規模の楽しい会社だったのですが、入社4年目で病気になり、26歳でその会社を退職しました。そのタイミングで、リハビリのつもりで3科目の勉強をし、すぐに合格することができました。それ以後は1年で1科目ずつ合格し、29歳で税理士になりました。12月の合格発表から、会計事務所勤務の経験もないまま、翌年の2月には開業していました。
■会計事務所勤務経験がないままの開業とは、思い切りましたね。
松川:会計事務所での経験は、大学時代にアルバイトをしたくらいです。税理士登録に必要な実務経験は、アパレルでの経理経験を使いました。開業当初は本当に何もありませんでした。顧問先ゼロ、コンピューターも持っていない。コピー機、電卓、机だけの開業。申告用紙や書式も税務署に集めに行くところから始めました。
■どうやって最初の顧問先を獲得されたのでしょうか?
松川:合格した年の大みそかにバーでたまたま隣り合わせた人が、顧問先第一号になってくれました。最初の1年はゆるくやっていたので、1年間で売上はわずか200万円、でも2年目からは毎年1,000万円ずつ売上が増え、10年で1億円を超えました。
■とても順調に成長していったんですね。
松川:そうですね。税理士事務所はとても順調に成長しました。ただ、本業のかたわらベンチャー企業を立ち上げ、ベンチャーキャピタルから投資も受けたのですが、結局こちらは挫折しました。ガソリンスタンドチェーンや大手外食チェーンなどの上場企業を顧客に、売上を上げるためのマーケティングの仕組みを提供したんです。実際上手くいったのですが、大企業の理論を知りませんでした。上手くいくと、内製化が待っていたんです。「ありがとう」と感謝された上で、すべて契約を切られてしまいました。結局2億円ほどシステム投資した事業は、撤退することになりました。
■ノウハウだけ取られて…
松川:でもそこで、税理士だけやっていたら全く分からなかったであろう大手企業との付き合い方、大手企業ならではの考え方や特性はしっかり学べましたね。
■その間も、ずっと税理士事務所も続けられていたのでしょうか?
松川:はい、ずっと続けていました。2億円は税理士事務所をやっていなかったら用意できないものでした。その時の事務所の職員には非常に申し訳なかったと思っています。
そうしてベンチャーを撤退する少し前、ちょうど税理士の広告規制が緩和されたのですが、その波に乗り遅れるというダブルパンチに見舞われました。昔は、税理士は「うちの方が安いよ」という価格比較を禁止されていたのですが、私たちと違い、広告解禁以降に税理士になった方は抵抗感なく、インターネットで価格の安さを宣伝します。そうして顧問料の相場が下がり、顧客からも値下げを要求されるようになりました。ここから4年間、毎年1,000万ずつ売上を落とすことになり、さらにキャッシュが1億円ぐらい無くなりました。
■そこからどうやって復活されたのでしょうか?
松川:私は開業したときから、税理士の顧問料が売上原価にならないかと思っていました。開業2件目の顧問先さんに言われた、忘れられない言葉があります。それは、「松川さんに払う金額より、税金が減らせるの?」というものでした。経理もいないお寿司屋さんでしたが、年間数十万円の顧問料を払うなら、「税理士に任せるとそれより税金が安くなるの?」と思われたわけです。そう聞かれて、「税理士は税金を安くして、その浮いたお金の中から顧問料をもらうような仕事なのか?それなら税理士に未来はないな」と思いました。そして、お客様がそう思うのも当然とも思いました。
そこから、どうしたら顧問先が税理士に顧問料を気持ち良く払ってもらえるか?を考えました。中小企業にとって、税理士がなくてはならない存在になればいいのだけど…、しかし当時はそのやり方が分かりませんでした。
そのような危機に際して、あらためて「価格で比較されない、なくてはらならない税理士になるには?」を考え、その答えが「顧問先の売上アップに貢献する」だったのです。そこから5年間、顧問先の売上アップを必死に勉強しました。結果、中小零細企業向けのコンサルができるようになり、顧問先の売上を上げられるようになりました。
実は、コンサルはあるパターンでできていたんです。その方法を見つけてからは、「税理士でも顧問先の売上を上げられるんです」とお話しできるようになりましたね。
価格競争から脱するには税理士全体の価値向上が必要と、同業の税理士にノウハウを教え始める

■「顧問先の売上を上げる税理士」は、顧問先から見れば非常に魅力的ですね。
松川:コンサルができるようになったあと、最初に取り組んだのはコンサルをする側の再現性の確認でした。そのため、職員にコンサルティングを教えてみました。すると職員も私と同じようにコンサルができるようになりました。そしてそれは、顧客の売上だけでなく、自社の売上も上げることにもつながりました。そんなとき、友人の税理士に、「顧問先の売上を上げることができている」と言ったら、「それ教えて!」と言われたのをきっかけに、同業の税理士の方々を集めてセミナーを開くことになりました。それが現在まで続く、「経営支援コンサルタント養成キャンプ」の第一期生だったのです。
■貴重なノウハウだから外に出したくない、という気持ちにはならなかったのでしょうか?
松川:もちろんそのような考えがなかったわけではないです。しかし、むしろ広げようと思うきっかけがいくつかありました。
まず一つ目に、税理士の顧問料がどんどん下がっている中で、一人だけ高い顧問料をというのは基本的に難しいんですね。だから、顧問料の高い仲間を増やしたいというのがありました。例えばソニーがウォークマンを出したときに、初めは売れませんでした。それは、音楽を外で聞くという概念が無かったからです。世の中に新しいものを認めさせるのはとても大変です。でも一度世の中に認知されれば、売るのは簡単です。つまり、「税理士は会社の売上を上げられるんだ」という認知があれば、商品は売りやすい。だから私も、顧問先の売上を上げられる税理士がいるという認知を世の中に拡げたかった。そういう仲間が欲しかったのです。そうでないと、税理士の価値はますます下がっていきますからね。
二つ目に、私はマーケティング会社をやっていたときも税理士という資格に助けられました。だから、この業界に恩返しとして貢献しようと思ったのです。
また、子供の頃の原体験も理由の一つです。中小企業の経営者だった父は、とても忙しく、子供心に笑顔がないように見えていました。そのあとに自分がコンサルをやるようになって、売上が上がって顧問先の経営者が喜んでくれた時に、そうか、今この経営者の向こう側の家族も笑顔になっているんだと思えたんです。その瞬間、「自分一人だけでこんなことやっている場合じゃない。多くの経営者の向こう側にいる家族を笑顔にできるのなら、全国の税理士さんに、その先生の顧問先やその家族のためにコンサルをしてもらいたい」と思うようになりました。
■「経営支援コンサルタント養成キャンプ」について教えてください。税理士の方はどのようなお悩みを持って受講されるのでしょうか?
松川:これまでの6年間で、約560名の受講者全員に、どんな悩みがあるのかを尋ねてきました。
一つ目は、基本的には自分の事務所の売上を上げたい、顧客を増やしたい。つまり他の事務所に勝てる差別化ツールが欲しいということです。みなさん、税金の計算をやっているだけでは差別化できないという危機感を持っていらっしゃいますからね。
もう一つは、ズバリ、「顧問先に貢献したい」ということです。税理士は、毎月経費削減や資金繰り改善の話はできるのですが、売上を上げるという話ができません。でもそれが求められていることを、今はもう皆さん分かっています。でも肝心のその方法が分からない。「顧問先の売上を向上させるなんて本当にできるのか?」「本当なら凄いことだけど…」ということで、受講をされます。
■最初は本当にできるのだろうか…?と不安に思っている方も多いのでしょうか?
松川:そうですね。不安というより、最初は胡散臭いという感じでしょうか(笑)。初めは、できるわけないぐらいに思っています。でも講座を受講すると、実際に自社にも顧問先にも成果が出るんですね。早い人は、講座受講期間中から成果が出始めます。そんな受講生の成果実績は、冊子やインタビュー動画にまとめています。
■どのような実績が出ているのでしょうか。
松川:たくさんの事例がありますが、「顧問先の売上アップの事例」としては、例えば、商業施設に入っている月商130万円程のアパレル企業を7カ月間コンサルしたら、月商2,490万円と20倍近くなった事例があります。さらにその5カ月後、つまりコンサル開始から1年後には2,950万円になったとの報告もありました。さすがに私ものけぞりましたね(笑)。お教えしたことを、その先生なりに深掘りして実践された結果です。
「自社の売上アップの事例」は、開業1年目の税理士さんです。コンサル講座卒業とほぼ同時に税理士事務所を開業されたのですが、実は当初、顧問先が獲得できるのか夜も眠れないほど不安だったそうです。それが1年経って、顧問先が50件になりました。しかも顧問料の平均は60万円ほど。年間受注額にすると3,000万円にもなりました。「教えてもらったことだけを実践しました」と、本当に喜んで見えました。
■顧問先のみならず、やはり自事務所の売上も上がるんですね。
松川:この講座を受講すると、まず初回面談後の成約率が上がります。普通、顧問先や銀行からの紹介の場合は成約率は高いと思いますが、インターネットや紹介会社経由のお客様は、基本価格を比較します。なので、この場合の成約率は、通常2~3割程度が普通です。
しかしコンサル講座を受講した方は、そういったインターネットや紹介会社経由のお客様も、成約率7~8割以上になります。初回面談の成約率を上げる絶対的な条件が分かったので、それをお教えした結果です。この先生にお願いしたら、うちの会社は良くなりそうだという予感を持ってもらえれば、価格比較はされなくなるものです。依頼すれば売上が上がりそうな税理士と、税務会計をできるだけ安くやろうとしている税理士がいたら、前者の方に「めぐり合えた!」という気持ちを持つものでしょう。比較の段階、つまりまだ実際に顧問先の売上を上げていない段階でも、価格の比較ではなく「先生にお願いします」と言ってもらえる、そのための技術ですね。それを教えています。そしてその技術は、顧問先の売上を上げる技術と実は同じなのです。