会計事務所にとって、短期間で即戦力となる人材を育成することは重要な課題です。この記事では、わずか3カ月で新卒・業界未経験者を即戦力化させる人材教育システムについて解説します。
人材の売り手市場の今、なかなか人が集まらず頭を抱えている会計事務所も多いのではないでしょうか。
選択肢として考えられるのが、新卒や業界未経験者の採用です。
しかし、採用後に一人前に業務が行えるようになるまでには時間と労力が必要で、さらには採用した新人をうまく育成できないといったケースもよく起こります。新人にはすぐにできる業務ばかり任せてしまい、その結果、仕事が同じことの繰り返しになってしまうからです。
こうした理由により、新人は成長しにくくなります。上司も、新人の能力が足りないと感じて新しい仕事を任せられず、結局は自分で仕事をしてしまうという悪循環も起こります。
その結果、忙しくて新人の教育に時間を割けないため、新人はさらに成長の機会を失い、やがては転職を考えるかもしれません。
本記事では、会計事務所が3カ月という短期間で人材を効果的に育成するシステムについて、具体的な方法を解説します。
育成の準備
育成においていちばん重要なのは準備です。必要スキルの見える化や、いかに育成していくかを定義することで、育成のスピードと質を上げることができます。
まずは育成の準備について見ていきましょう。
(1)必要スキルの見える化
まずは求めるスキルを要素ごとに設定し、育成するべきスキルを明確にします。
会計事務所の法人業務に必要なスキルと基準の例をご紹介します。
- 実務力(実務処理能力):試算表作成・消費税判定・決算書作成・申告書作成
- 知識(実務力の基礎):試算表・申告書作成のための知識
- お客様へのサービス力:笑顔・挨拶といったお客様へ安心を提供するための必要スキル
このようにまずは求めるスキルを整理しなければ、育成すべきスキルも明確にならず、育成のスピードや質が低下してしまうことがあります。また育成担当者もどのような観点で育成すれば良いかがわからなくなってしまうケースも考えられるでしょう。
(2)育成スケジュールの作成
次に、どのタイミングで何を行うかを明確にします。冒頭でお伝えした通り、すぐにできる業務を場当たり的に任せるのではなく、事前に業務のスケジュールを作成しましょう。
ここでは、法人業務を担当する新卒社員用に作成したスケジュール例をご紹介します。
- 1か月目:基礎知識の習得
最初の月は、会計の基礎知識と実務スキルの習得に重点を置きます。
この期間には試算表や申告書作成の為の基礎知識の習得と並行して、実務で利用する会計ソフトや表計算といったソフトウエアの操作方法についての実務教育を行います。
- 2か月目:試算表作成とお客様訪問の実践
2か月目は、試算表の作成を重ねることによる精度の向上を目指し、実際のお客様訪問を通じて対人スキルと業務の理解を深める期間とします。
試算表作成では、必要な証憑の理解・消費税課否判定・比較表や推移表で異常値チェックができるようになることを目標に入力・分析能力を高めます。
それに続き、経験豊富な先輩社員のお客様訪問に同行し、実際の法人顧問業務のフローを学びます。お客様との面談内容を議事録にまとめてもらうことにより、本人の理解度を高めます。
この期間でコミュニケーションスキルの向上、お客様からの質問や相談にどう対応するか、実践的なスキルを身に付けます。
- 3か月目:決算書と申告書作成、ロールプレイングによるスキル向上
最終月は、決算書と申告書作成に焦点を当て、試算表の作成から申告書作成までの一連の流れを理解します。
加えて、試算表報告のロールプレイングを通してお客様との面談のシミュレーションを行います。お客様訪問時に本人が作成した議事録を元にロールプレイングすることも効果的でしょう。
この段階を経ることで、新人は書類作成のオペレーションの側面だけでなく、実際のお客様への対応能力も身に付けることができます。
以上が、スケジュール例となります。
あれもこれもと詰め込みすぎない、任せる主要業務を決めたら、設定した期間は集中してその業務を行うことが重要です。
育成の実践
準備を行った後は、いよいよ育成の実践です。
この章では、育成の実践における具体的なポイントをご紹介いたします。
(1)効果測定の仕組み化
こんな会話を見聞きすることはありませんか?
所長「最近〇〇さんはどう?」
A先輩「まだまだ実力が足りないから仕事を任せられないですね……」
しかし、具体的にこの「実力」とは何を指すのでしょうか?何ができるようになれば、仕事を任せられるようになるのでしょうか?
そのために、先ほどのスキルの見える化に加えて、必要な項目を明文化して「できる・できない」を見える化しましょう。
たとえば試算表の作成であれば、
- 貸借対照表残高を合わせることができる
- 消費税の課否定判定ができる
などが挙げられます。
求めるスキルや成果物に応じた項目をリストアップし、所長や上司が効果測定表にできる項目をチェックしましょう。
こうして改善項目をフィードバックすることにより、成長を促します。
また、スキルを簡易的な試験や、実際に作成した成果物の精度で数値化し、各自の強み・弱みを見える化することにより、強化ポイントを把握することも有効です。
新人が現在地を把握し、目標に向かって努力できるようになります。
このように効果測定の方法を定義し、仕組み化を行います。
具体的にはどのタイミングで、誰がどのように効果測定を行うのかという枠組みと、効果測定の結果をどう活かすのかといったことを整理し、仕組み化をすることが重要です。
(2)動画の活用
当然ですが、人材育成には時間や労力、コストがかかります。
新人教育についてはOJTが中心の会計事務所が多いのではないでしょうか。OJTは仕事を通じた教育であり、仕事の知識・スキルに直結している点では非常に有効です。
しかし冒頭で書いたように、教える上司が多忙で新人が放置されたり、教える側も教育のプロではないため教える能力のバラつきが生じたり、仕事のやり方の違いから成果にもバラつきが生じたります。
さらには、育成の属人化によるサービス品質にまでバラつきが生じるといったことも招きかねません。この課題の解決方法として、動画の活用があります。
会計ソフトや表計算ソフトなどの基本的なルーティン業務は、動画でマニュアルを作成するのが良いでしょう。
【動画活用のメリット】
- 必要な時に必要な論点を繰り返し視聴して理解度アップ
- 教え方や環境に左右されず、均一な内容を受講できる
- 上司が外出中・不在時に「聞けない」という新人の悩みを解消できる
- 上司などが新人に張り付いて教える必要がなくなる
動画の活用により、教育の属人化が解消し、組織のサービス品質の均一化が図れます。また、教育にかかる労力・コスト削減効果も絶大です。
最後に
ここまで、3カ月で新卒・業界未経験者を即戦力化させる人材教育システムをご説明させていただきました。
しかし、全ての内容を内製化するにはそれなりの時間と労力が求められます。
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