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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~「ホスト」の由来~

所得税法204条は、ホステスについての定義を設けた上で、ホステスに対してお店が報酬等の支払を行う場合の源泉徴収義務を課しています。では、ホストについてはどうなのでしょうか?

源泉徴収義務とは

所得税法204条《源泉徴収義務》は、「居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。」として、さまざまな業種が源泉徴収の対象となる旨を示しています。その中で、同条6項は、「キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者・・・のその業務に関する報酬又は料金」が源泉徴収の対象となる旨を定めています。

所得税法183条《源泉徴収義務》以下の源泉徴収の規定では、本来の納税者ではない、いわば徴税代理人とでもいうべき源泉徴収義務者の源泉徴収義務に係るルールが示されています。納税者本人ではなくいわば「代理人」に対するルールであるため、同じ所得税法でも納税者本人に対する義務を定める条文と比較すると、よりきめの細かい規定振りとなっています。
そのことは、例えば、上記所得税法204条と、同法28条《給与所得》の給与所得の範囲の規定振りの違いをみれば明確です。所得税法28条は、「給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与・・・に係る所得をいう。」と規定するだけで、何が給与所得に該当するのかについての詳細な説明はされていないことからもその差は明らかだと思います。

このように、しばしば、所得税法183条以下の源泉徴収の諸規定は、比較的細かく規定されていることから、文理に従って忠実に解釈適用すればよいように工夫されているなどともいわれているのです。

ホステスとホスト

さて、ここで若干の疑問が浮かびます。上記の所得税法204条は「ホステス」について規定していますが、「ホスト」という表現はどこにもありません。文理に従って忠実に解釈適用すればよいということになると、「ホスト」に対する報酬には源泉徴収義務が課されないという理解になるのでしょうか。
そのようなはずはありません。「ホステス」と「ホスト」では、女性か男性かの違いはあるものの、業種・業態としてはほぼ類似しているのではないかと考えられますから、ホステスについてのみ源泉徴収義務が課されていると解釈するのは妥当ではないように思われます。では、どう考えるかとなったとき、上記の条文をよく読むと、「ホステスその他の者・・・・・」と規定されていることに気づくはずです。すなわち、「ホスト」をここにいう「その他の者」で読むことができるかもしれません。

しかしながら、「ホスト」も「ホステス」もほぼ類似しているという理解は本当に正しいのでしょうか。

この点について、租税訴訟ではなく未払賃金等請求事件ですが、「ホスト」の由来について論じている最近の裁判例がありますので、これが参考になるかもしれません。

東京地裁平成28年3月25日判決の考え方

東京地裁平成28年3月25日判決(判タ1431号202頁)は、「ホストクラブはダンスホールから始まった。ダンスホールには休憩のためのスペースが設置されており、そこでダンス講師にチップを支払って、一緒にアルコールを飲むなどの接客行為がなされていた。ダンス講師が後にホストと呼ばれるようになり、ダンスホールも『女性客が楽しむための場所』との性格が重視されるようになった。」と説明しています。

「ホスト」の由来はダンスホールでのダンス講師による接客にあるとの同地裁の説明をみると、所得税法204条が「フロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして…飲食をさせる」という表現で説明される「ホステス」と極めて近接していることがわかります。このように考えると、なるほど、所得税法204条には「ホスト」の表現こそないものの、「その他の者」に読み込んで解釈をすることに問題はなさそうです。

ホストは給与所得者か?

なお、上記東京地裁は、「ホスト」の由来を示した上で、ホストは店の「従業員」ではなく「自営業者」であるとしています。すなわち、「ホストの収入は、報酬並びに指名料及びヘルプの手当で構成されるが…、いずれも売上に応じて決定されるものであり、勤務時間との関連性は薄い…。また、出勤時間はあるが客の都合が優先され、時間的拘束が強いとはいえない」し、「ホストは接客に必要な衣装等を自腹で準備している。また、ホストと従業員である内勤とは異なる扱いをしている。ミーティングは月1回行われているが、報告が主たるものである」などと認定をした上で、「ホストは被告〔筆者注:店側〕から指揮命令を受ける関係にあるとはいえない。ホストは、被告とは独立して自らの才覚・力量で客を獲得しつつ接客して収入を挙げるものであり、被告との一定のルールに従って、本件店舗を利用して接客し、その対価を本件店舗から受け取るにすぎない。そうすると、ホストは自営業者と認めるのが相当である。」と判示しています。この説示は、所得税法上も、給与所得者ではなく事業所得者に該当するとの解釈に合致しているといえるでしょう。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、他7冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ』(中央経済社)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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