世界で最も少子高齢化が進む日本。社会保障費が増し、財政危機が危ぶまれる中、医療・介護・福祉業界も決して順風満帆ではありません。MMPGは、それら業界の経営者に寄り添い支えとなる、頼れる会計人団体です。川原丈貴理事長と青木惠一副理事長にお話を伺いました。

この記事の目次

今回の取材を通して実感したのは、想像以上に医療・介護・福祉業界の先行きが見えづらくなってきている点です。ただ、地域のインフラである医療・介護・福祉業界が今後極端に縮小することが考えづらいのも、また事実でしょう。つまり同業界に強い会計事務所は、今後も堅実な事務所経営が期待できるという意味で、有力な転職先であることに変わりはありません。と同時に、今まで以上に情報収集や学びを怠らず、先を読んだ経営支援が必要となるだろうことも、転職を考える際に知っておいて損はないでしょう。

MMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ)は、我が国の医療・福祉界の健全発展に貢献することを目的として設立された、全国100を超える会計事務所によって構成される、医療・福祉経営コンサルティンググループです。

今回KaikeiZineではMMPGの特集を組み、3回に分けてインタビューをお送りします。第1弾となる今回は、医療・介護・福祉経営の現状と、会計事務所による経営支援、その点でとても頼りになるMMPGについてなどを、MMPGの理事長で、株式会社川原経営総合センターや税理士法人川原経営などからなる川原経営グループの代表でもある川原丈貴先生と、副理事長で、税理士法人青木会計の代表社員でもある青木惠一先生のおふたりに語っていただきました。

川原丈貴(MMPG理事長、川原経営グループ代表、公認会計士/税理士)

■まず、先生のこれまでのプロフィールやキャリアからお聞かせいただけますでしょうか。

川原丈貴(以下川原):川原経営グループの創業者で、MMPGの創設者である川原邦彦の子供として1968年に生まれ、そのあと小中高と暁星に通いました。

■サッカーの古豪ですね!

川原:そうですね。私の次の代が全国ベスト4くらいまで行きました。あと暁星は医学部進学者も多くて、けっこうな数のドクターを輩出しています。実際、MMPGのクライアントにも暁星の先輩や後輩がいます。

私はというと、中央大学の法学部に進学し、4年生のときに公認会計士の2次試験に受かり、現在の有限責任監査法人トーマツに入所します。1997年までトーマツで会計監査などをやり、その後に、2000年から介護保険が導入される前のタイミングで川原経営に戻ります。1999年の11月に当時の厚生省、今の厚生労働省で「指定介護老人福祉施設等会計処理等取扱指導指針」、いわゆる特別養護老人ホーム向けの会計基準を作る話があり、私もそこに参画しました。当時は、下手したら週3ぐらいでセミナーをやっていました(笑)。それが、私が社会保障の世界に入るきっかけですね。

MMPGには、私もいち会員として参加していましたが、その後先代の川原邦彦が亡くなり、株式会社大山会計の大山哲先生が、次に株式会社佐々木総研の佐々木直隆先生が、さらに税理士法人青木会計の青木惠一先生がMMPGの理事長になり、2015年に私が就任しました。また公職では、厚生労働省の中医協(中央社会保険医療協議会)の消費税分科会の委員を拝命したり、他にも日本医業経営コンサルタント協会の会長や、日本医師会や病院団体の委員を担ったりしています。

■お父様の川原邦彦先生がどういう経緯でMMPGを設立されたかについても、聞かせていただけますでしょうか?

川原:昔の医療機関は、とにかく経営状況が良かったです。かつては診療報酬が年に2回、しかも2桁アップという時代がありました。その中で先代が「医療にも経営が必要」と言い始めるのですが、でも当時は、厚生省や医師会からはそんなものは必要ない、「医療は算術ではなく仁術なんだ」と言われたそうです。その中で先代は、ゴッドハンドと呼ばれ、『白い巨塔』にもモデルにした人物が登場する、東京女子医大の消化器系の中山恒明という大先生にお会いをし、「川原くん、なかなか医療を分かってくれる会計の人っていないね…」と言われ、それがきっかけになり、医療への特化を目指そうと決めたと聞いています。昭和40年代の話だと思います。

医療機関の持続可能性を考えていかなければならないとなると、自分1人の力では限界があると考え、14名の有志を集めて、1985年にMMPGを設立します。

■当時は、医療特化の会計事務所はまだ少なかったのでしょうか?

川原:特化してやっていたところは、たぶん当時はなかったと思います。ちなみに、2000年に介護保険制度ができた時も同じように、先代が「社会福祉法人にも経営が必要だ」と言い始めました。

今の医療・介護・福祉の経営課題への向き合い方

■そうして、介護・福祉分野にも進出されるのですね。すでに歴史のあるMMPGですが、当時と今とではどんなところが変わったのでしょうか?

川原:最初にお話しした、MMPG設立当時の医療機関の経営が良好だった時代に比べると、いまは利益率がほぼ0に近いぐらいの病院や、診療所でも利益率が数%という、経営的に厳しいところが多くなってきています。ご存知のように国家財政も大きな赤字を抱えていて、 今後社会保障給付費はさらに大きくなっていく。

2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)-概要-(内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省 平成30年5月21日) より

この表を見ると、2018年から2025年までに社会保障給付費が医療は1. 2倍に伸びて、その後の2025年から2040年までに1. 4倍に伸びる。介護についても、2018年から2025年が1. 4倍に、2025年から2040年までに1. 7倍という形で、さらに大きくなる見通しです。ほかの産業と比べても、これだけ伸びるのはたぶん医療と介護ぐらいだと思います。高齢化がさらに進むとなると、国家財政の観点からもこの社会保障給付費をいかに減らしていくかということで、診療報酬本体をマイナス改定すべきと財務省は主張していますし、医療機関が置かれている環境が大きく変わってきていると思っています。

■そうした厳しい現実の中で、MMPGとしては医療機関や介護施設がどう将来設計をしていくべきと考えているのでしょうか?

川原:MMPG の会員の先生方が関与している医療機関や介護施設には、どちらかというと良好な経営状態のクライアントが多いと思います。

医療機関や介護施設は地域にはなくてはならない存在なので、我々がいかに持続可能性をもたらすことができるのか?私は、アドバイスとか指導といった言い方ではなく、「寄り添う」という言葉が好きなのですが、我々が病院や診療所、介護施設などにきちんと寄り添い、地域の特性なども見ながら、どうやって経営を継続していくかの解決策を一緒に考えていきましょう、乗り越えていきましょうという風に考えています。

現在の全国の医療機関などにおけるMMPG 会員の顧客の割合は、およそ15%になります。それくらいの割合で、MMPGが会計なりコンサルなりの形で関与させていただいていることになります。

■ここ数年で言うと、コロナはどんな影響がありましたか?

川原:まずひとつは、クライアントの側面ですね。医療・介護・福祉業界への影響は言うまでもなく大きくて、患者さんが受診する、いわゆる「受療行動」が大きく変化しました。診療所は戻ってきている部分がありますが、難しいのが病院です。特に入院の稼働率がなかなか戻りきっていない。病院がいかに生き残っていくかは、我々が積極的に関与していかなければならない部分です。また2024年の4月から、運輸、建設、医療の働き方改革、上限規制が適用されます。そこで医療機関、特にこれも病院になりますが、経営のあり方などを変えていかないといけない。その部分でも、やはり我々のニーズが高まると思っています。

もうひとつは、会計事務所もDXやRPAといった部分で変わっていかなければいけない、そういう経営環境下にあります。その意味では、MMPGもRPA に強い山形・仙台の税理士法人あさひ会計の先導でDX 委員会を設けて、みんなで切磋琢磨しながら、さらなる高みを目指そうとしています。ちなみに、かつてMMPGであさひ会計に視察に行ったのですが、その様子を見たあさひ会計の田牧先生が、「これはビジネスになりそうだ」ということでRPAに本格的に参入したと聞いています。

MMPGのメリットとは?

■MMPGの会員になることで、会計事務所はどんなメリットを得られるのでしょうか?

川原:私は、医療や介護は規制業種だと思っています。ある程度の規制、医療法や療養担当規則などがありますが、それらに反するようなコンサルティングなどをしてしまったら、クライアントに迷惑かけてしまいます。その意味で、厚生労働省などがそうした規制や法律を検討している段階から情報を入手し、ノウハウや知識を得ているというのは、MMPGのすごく大きなメリットだと思います。たとえば、厚生労働省でいうと診療報酬改定の中心人物である厚生労働省保険局長の伊原和人氏や医療課長の眞鍋馨氏との協力・連携により、MMPG会員向けの情報提供や、医療機関・介護施設向けの情報提供をいただきました。4月11日に開催した MMPG の全体会では、厚生労働省の担当官より診療報酬改定の話などをしてもらい、YouTubeでもその模様を公開しています。そういうルートから、最新の情報に触れることができるんです。財務省についても、主計局や主税局の幹部の方々との信頼関係を構築しています。MMPGに入っていると、スタッフレベルでもそうした情報に接することができるのも大きなメリットだと思います。それにより、間違うことを恐れず、安心してクライアントに寄り添うことができます。

他にも、若手の勉強会や資格認定試験、また始まったばかりですが、新入職員の育成プログラムもやり始めていて、いち早く現場に出られるスタッフ育成しようとしています。詳しくは 、MMPGのWebページを見てみてください。

https://www.mmpg.gr.jp/

■会員交流の場についても聞かせてください。

川原:先ほどの全体会が年に4回ほどあり、他には海外研修もあります。海外研修は2、30人ぐらいで行き、 10日弱ぐらい飲食を共にして語り合い、交流することで先生同士がかなり仲良くなります。そうした人間関係が構築できるのも、海外研修の良いところですね。

■海外ではどんな研修を受けるのでしょうか?

川原:医療機関を見に行き、むこうの医療事情について話を聞いたり、役所を視察に行ったりなどですね。去年、エストニアとフィンランドに行ってきたのですが、行政のDXで知られているエストニアでは、大使にお会いし、「確定申告ってどんな感じで進められるのですか?」「3つボタンをクリックするだけだよ」といった話を聞いたりしました。

■団体運営の難しさを感じられている部分もありますか?

川原:地方によっては医療系のクライアントが減ってきている、さらに会計事務所の承継もあり、「医療に興味がなくなったので会員をやめます」という事例などもあります。実際、 MMPG設立時のチャーターメンバーやその後に入会した先生方も、事業承継のタイミングに入ってきているので、うまい事業承継への取り組みもあらたにスタートさせています。事業承継は課題のひとつですね。

ちなみにMMPGは会費もそれなりにいただくので、すぐに入会というのが難しい方には準会員の制度もあります。準会員としてMMPGの持つ情報にふれて、さらに上を目指したいので会員になろうといかに思ってもらえるかも、課題ですね。

■先生が代表を務める川原経営グループでも、医療・介護・福祉の税務会計やコンサルティングを手がけられていますが、どんなところに面白さや社会的意義を感じていますか?

川原:「お客様に貢献し、以て会社と社員の繁栄を実現する」が、川原経営の経営理念です。まずはお客様に物心両面で豊かになっていただき、当社や社員のみんなも良くなっていく。品質方針も5つあり、その筆頭に「お客様への貢献を通じて、 医療・福祉界の健全な発展に資する」というのがあります。要は、我々のターゲットは医療・介護・福祉業界で、我々が関与することで経営が安定し、それにより医療・介護・福祉界の発展にも貢献したいというものです。これはよく社員のみんなに言っているのですが、例えば自分の会計担当が20件あったら、それぞれの医療機関に患者さんがどれくらいいて、さらにその背景に何かあればその先生にかかる地域住民がどれくらいいるかを考えると、やっぱり我々の仕事は非常に意義がある。またこれは職業会計人にも言えますが(笑)、ドクターは一筋縄ではいかない方もいらっしゃるので、決して楽しいことばかりではありません。でも当社の社員は、欠くことのできない裏方として日本の社会保障を支えているという誇りを持ちながら、仕事をしてくれています。

川原経営グループの人材採用について

■続いて川原経営グループの人材採用についても聞かせてください。ズバリ、転職者にとって川原経営で働くメリットはどこにありますか?

川原:まずは、コンサル部門がある点ですね。解決するのが難しい問題に直面したとしても、経営コンサルティング部門に、この人事の問題はどうなのか?この診療報酬はどうやって解釈するのか?といった話をすぐ聞ける環境にあります。

またもし医療に関する知識がゼロの状態で入社したとしても、新人研修はしっかりやりますし、川原経営はもちろん、MMPGのツールも活用できます。取り組みとしては、テレワークを導入していますし、資格取得支援、大学院の学費補助もやっています。安心して入社して欲しいですね。

■大学院の学費補助制度は珍しいですよね。

川原:あまり聞かないですよね。大学院で教員を務めている税理士の先生にうちのパートナー社員になってもらっているのもあり、大学院に通う場合の補助を出しています。最後の1、2科目が通らない人って、意外と多いものなので。

■川原経営やMMPGとして、こういう方をぜひ採用したいというのはありますか?

川原:斜めから何か物事を見るんじゃなく、仕事やお客様にきちんと向き合う人に来てもらいたいと思います。医療などを通じて自己実現ができる職場ですので、ぜひ仲間に入ってもらいたいと思っています。

■中途だけでなく、新卒採用もされていますか?

川原:毎年4人ずつ定期的に採用しています。今年も4月1日に、若者が希望に目を輝かせながら入社してくれました。それに、他の同業者と同じで当社も人材不足なので、即戦力も喉から手が出るほど欲しいです。

■では最後に、これから医療・介護・福祉分野を手がけてみたいと考えている方にぜひ一言お願いいたします。

川原:キャリアプランを考える上で、医療・介護・福祉のノウハウを持っているのは心強い、独立したいという夢を持っているなら、医療のクライアントを持つことは安定につながると思います。独立開業をしてから医療の勉強をするのは難しいでしょうが、MMPGには学べる環境、スキルアップできる環境があります。さらに先ほど申し上げたように、裏方として社会保障に貢献しているという誇りが持てるのも、素晴らしい点だと思います。他社と合同で新卒や中途向けの説明会もやっていますが、たとえ最終的には当社で働かないとしても、会計業界を志したホープにはぜひ初心を忘れずに仕事をしてもらいたいです。いや、本音としてはできれば川原経営で一緒に働いて欲しいと思っていますが(笑)。 医療業界と会計業界を盛り上げていくため、ぜひ一緒にがんばりましょう!

MMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ)

●設立
1985年4月
●所在地
〒140-0001
東京都品川区北品川4-7-35 御殿山トラストタワー4階
●会社HP
https://www.mmpg.gr.jp/

 

川原経営グループ

●設立
1967年12月
●所在地
〒140-0001
東京都品川区北品川4-7-35 御殿山トラストタワー 9階(総合受付)
●会社HP
https://www.kawahara-group.co.jp/