特集の第1弾では、医療・介護・福祉業界に強い会計事務所の将来性や働く意義などをお伝えしました。今回は、「地方で」同業界の経営者を支えるMASHUP税理士法人の増山良裕先生と税理士法人あさひ会計の田牧大祐先生にお話を伺います。
この記事の目次
全国100超の会計事務所で構成される、医療・福祉経営コンサルティンググループのMMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ)。その特集の第2弾となる今回は、長年地方で医療・介護・福祉の経営者を支え続けている埼玉のMASHUP税理士法人代表の増山良裕先生と、仙台・山形の税理士法人あさひ会計の統括代表社員の田牧大祐先生にご登場いただきます。増山先生は専務理事を務め、田牧先生は常務理事と地域会会長を務め、MMPGを支えているおふたり。また増山先生は東京の医療状況をふまえて戦略的に動き、田牧先生はRPAという武器も磨き、共に経営者をサポートし続けています。
医療・介護・福祉の税務会計とMMPGについて知るきっかけになる、また転職を考える会計人材の選択肢に地方事務所が加わるきっかけになるかもしれないお話しを語っていただきました。

■まずは増山先生のキャリアや事務所についてお聞かせください。
増山良裕(以下増山):職歴で言うと、独立の前まで勤務していた公認会計士長隆事務所は、現在の東日本税理士法人ですね。当時の事務所の所長が執筆していた本をお手伝いしたのがきっかけで医療に深く入りこみ、そこで3年ほど勤務しました。
■税理士試験合格後には、大原簿記学校で講師もやられていたのですね。
増山:そうですね。講師も3年ぐらいやったのですが、その後税理士を雇ってくれるところがなかなか無くて。今と違い当時は独立すると顧客を持っていかれるという感覚が強かったので、そう簡単に雇ってくれなかった時代でした。でもたまたま東京税理士会に相談したところ、税理士古家史子事務所の古家先生が税理士を探しているよと聞き、それで入所しました。ちなみに古家先生は81歳の今も現役です。すごいですよね。
■そして1987年に独立開業されるのですね。
増山:そうですね。最初は個人でコツコツとやっていて、法人化したのが2020年の8月です。第三者同士で事務所を経営すると、売上の分配などの問題でトラブルが発生し、事務所が解散することが少なくないと聞いていたので、息子の税理士資格登録のタイミングで法人化をしました。息子なら、まあ自分が退けばいいかなと(笑)。
■拠点はずっと所沢なのでしょうか?
増山:そうです。独立した時からずっと所沢です。
■サービスとしては、医療・介護・福祉分野はどれくらいの比率を占めるものですか?
増山:「MS法人」も入れると大体7割ぐらいですかね。MS法人は「メディカルサービス法人」のことで、大体は理事長や管理者の奥様が代表者になって、例えば人材派遣や設備のリースなどのサ-ビスを提供する会社です。ただ取引価格に齟齬があると、税務調査の時に金額の根拠や取引金額が高額ではないか、低額ではないかとの指摘が多く、税務トラブルの原因にもなるので、医療法人の場合はなるべく作らないようにアドバイスするのですが、それでも作りたいという先生は多いですね。またちなみに今は、その7割からさらに医療だけに特化していきたいと考えています。
医療・介護・福祉特化の狙い
■それはどうしてですか?
増山:一例を挙げると、一般企業の会計を担当すると、利益が出ている時は決算料を払っていただけますが、経営が一旦厳しくなると少し先送りやお支払いいただけない場合も結構あります。ただこちらとしても懐具合が分かっているだけに、「じゃあ今回は半分でいいですよ」となってしまうケースもあります。でもその点で、ドクターは決算料を払わないことってまず無いんですよね。あと医療は売掛債権先も少ないです。「社保・国保・自由診療」が主なものですから、いろいろな取引先がある一般企業に比べると会計処理も難しくはありません。例えば薬品や診療材料の仕入先を見ても、数社くらいしかありませんからね。
さらに例えば製造業では、特別償却や補助金などが色々あって、税理士賠償責任保険の適用になるかならないか、またそのための添付書類や特別償却自体を失念したという問題が出てくるものですが、医療の特別償却は1種類、500万以上の高額な医療機器を取得した時の特別償却、電子カルテ等のソフトウェアを取得した時の特別償却、税額控除くらいしかないんですよね。だから間違えることも極端に少ないです。
またこれは一般的にあまり知られていないかもしれませんが、医療・介護・福祉で国家予算が大体45兆円ぐらいあるんですよ。37. 7兆の社会保障費は話題に出ることもありますが、それに加えてみなさんが払っている保険料と地方税も入れて、45兆ぐらいの市場になるんです。トヨタ自動車と同規模くらいの市場というわけで、「なんでみなさんここをターゲットにしないの?」と思っています。
■そうしたメリットがある一方で、医療・介護・福祉分野の税務会計を手がける上での課題もありますか?
増山:ドクターは頭脳明晰ですが、中には気難しい方もいます。そうしたドクターたちと渡り合っていくだけの知識は、一生懸命勉強しないとなかなか身に付かないものです。ですので、「自分には手に負えないから」と、他の税理士さんから医療系の顧客を紹介してもらうこともあります。
MMPGについて
■その「一生懸命勉強しないと身に付かない」のが、MMPGの存在意義やメリットにつながってくるのかなと思いますが、そもそもどういったきっかけでMMPGの会員になられたのですか?
増山:確定申告の無料相談で一緒になった際に、所沢の税理士の友達から「増山はMMPGに入らないとダメだろう」と言われ、入会しました。今思うと、その彼に言われなかったら入会していなかったかもしれないです。
■MMPGの会員になるメリットは、どんなところに感じられていますか?
増山:厚労省や財務省の方々が、講演で我々会員に最新情報を提供してくれます。税制改正や最近のような診療報酬改定があると、担当の政策局の課長が来て、MMPGの全体会で講演をしくれるわけです。それを、「厚労省や財務省はこんなこと考えていますよ」という感じでそのまま顧客営業の際に使えるんですね。
もう一つは、MMPGの理事長の川原先生が主体的にやっている「医療経済フォーラム・ジャパン」というものがありまして。厚労省の元次官の方などの医療の有識者が30人ぐらいいらっしゃって、その中の1名の方がタイミングに合ったテーマで説明会をやられます。それに対してやはり有識者が質問をしたりして、かなりレベルの高い話が聞けるので、見聞きしているだけで貴重な情報が得られます。
■その医療経済フォーラム・ジャパンでは、どんな内容が聞けるのでしょうか?
増山:例えば、東京大学の経済学部の吉川先生の講演では、日本の債務がなぜずっと残ってきたのかをグラフなどを使って説明してくれました。我々が「建設国債じゃないの?」と思っているところを、「これは結局全て社会保障費なんです」と説明してくれるのです。
■なるほど。では、今後MMPGでこんな取り組みをやって欲しいという意見はありますか?
増山:これは難しいですね。厚労省、財務省、経済産業省がこういう情報をアップしましたという報告書のメールが週3回ぐらい来るんですが、今はそれを見るだけでもけっこうな時間が必要です。つまりシンクタンクとしてきちんと機能しているので、改善点は特になく、充実していると感じています。
MASHUP税理士法人の人材採用について
■続いて、MASHUP税理士法人さんの人材採用についても聞かせてください。こんな人材を採用したいという希望はありますか?
増山:これからは、会計人材にこだわらずコミュニケーション能力に長けている方を採用したいと思っています。会計処理に関しては、大体3年ぐらいやれば頭に入ると思うんです。税務知識や医療関係の知識も入社してからいくらでも鍛えられるので、その辺はあんまり不安を感じていません。でも、コミュニケーション能力は持って生まれたものもあるので、鍛えるだけではなかなかうまくいかないと思っています。コミュニケーション能力に乏しいと、特にドクターを担当するのは難しいと感じています。
またうちの法人では、僕の方で「こんな記事があったよ」と1ヶ月分の新聞を切り抜きして共有し、ドクターとの会話のネタを提供しています。また、『税務通信』や『速報税理』を各スタッフに1冊ずつ渡して、そこから各自が重要だと思う話題をピックアップして説明し、「こんな細かい改正があるんだ」などと会話をしながら切磋琢磨しています。
■その他にMASHUPさんで働くメリットはありますか?
増山:一番言いたいのは、稼げますよってことですね(笑)。まずは担当顧客をしっかり持ってもらったら、そこからは決算料の歩合などを全部提示して、保険を契約したとかM&Aセンターから手数料が入ったとかで何百万の手数料が入ればその半分を渡すという風に、それぞれが自分達でコーディネートして稼ごうよという形にしています。
ただ転職組に関しては前の事務所と比較されることもよくあるので、その点は難しさも感じています。
■新卒採用はされていますか?
増山:今のところはしていません。1度世の中に出て、社会人はなかなか厳しいぞと実感したくらいのところで来てもらうと一番いいかもしれないですね(笑)。
■スタッフの年齢構成はどんな感じなのでしょうか?
増山: 50代が2人、40代が4人、30代と20代で3人かな。外回りのその9人で顧客を担当し、他にバックヤードで入力作業をしてくれている人もいます。
■税理士さんは何人いらっしゃるんですか?
増山:今は2人で、うちの息子と僕です。ただ外回りのメンバーも、特に資格を持っていなくても書籍を読んだりインターネットで深く調べたりして、我々より税法を知っています。
■なるほど。先ほどの「会計人材にこだわらず」と言うのは、資格にこだわらずに採用していきたいということでしょうか?
増山:そうですね。
■では最後に、これから医療・介護・福祉の税務会計を手がけてみたいという方に一言お願いいたします。
増山:繰り返しになりますが、ドクターとどう付き合っていけるかが重要になってきますよね。半年でもいいから先読みをして、日頃からこの先医療がどうなっていくかを見ていないとダメだと思います。例えば今までは、白内障の手術では短期滞在入院基本料としての診療報酬の請求を27,000円でできたのが、今年に入って13,000円に下げられています。大腸のポリープ手術も同じ値段だけ下げられていますし、生活習慣病の糖尿病・高血圧・高脂血症の3つが、今まで1回の通院ごとに大体2,500円ぐらいを請求できたのが、1ヶ月に1度しか請求ができなくなり、療養計画に署名捺印してもらわないとダメとか、とにかくガラッと変わり始めています。要は単価を下げようという動きが見え始めていて、今後は一つの診療所では大きな利益が出ないようにだんだんとなってきている印象です。こうなると、これからは診療科目をコツコツ横に広げて患者さんを増やしていかないと、なかなか利益は出ないだろうなと思っています。
でもその一方で、埼玉でなら堅実にやればまだまだ大丈夫だとも思います。例えば愛媛は人口10万人あたりの医師の割合が335人、京都は330人と医師が供給過多になっています。それに比べると、埼玉は180人と日本で一番少ないんです。
■東京と埼玉でも違う点はあるものでしょうか?
増山:保険診療に限っては、埼玉の方が収入は絶対に上です。東京は、例えば内科のすぐ近所にまた内科があったりと激戦区で市場を全部取り切れないのですが、埼玉なら取り切ることができます。年収で言うなら、埼玉が1,000万円だとすると東京は 700万円ぐらいのイメージですかね。ただ若いドクターはみなさん東京で開業したいものだったりするのですが、なぜかと言うと、お子さんが学校に通いやすいからです。でも個人的には埼玉で開業し、東京の学校に通わせるぐらいの方がいいのではと思います。
美容外科もまだ大都市でないと難しい面もありますが、例えばさいたま市の美容外科の収入もすでに上がってきていて、銀座とそこまで大きく変わらないとも言えます。我々は埼玉の全県下と東京を見ながら行ったり来たりしていますので、その辺りはよく分かっています。同じ診療科でも、東京と比べると全然違うよねというのが我々法人の率直な意見です。
■東京と埼玉でそこまで違うのですね。現状がよく分かりました。本日はありがとうございました。
MASHUP税理士法人
●設立
2020年8月
●所在地
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