医療・介護・福祉の経営支援などを取り上げてきたMMPG特集第3弾は、会計業界では若い30代で代表を務める、税理士法人総合経営サービスの中川祥瑛先生と小野瀬・木下税理士法人、小野瀬公認会計士事務所の小野瀬貴久先生にお話しを伺いました。
2014年の調査ではありますが、税理士全体の70%以上が50代以上、中でも最も多いのが60代の30%で、30代は10%という調査結果が出ているのを、ご存じの方も少なくないでしょう(日本税理士連合会「第6回税理士実態調査」)。
一方で最近は、若い税理士の先生方が業界を変えようと自ら発信する姿もよく見かけます。また受験資格が緩和され、高校生も税理士試験を受けやすくなり、実際に若い受験者が増えたといううれしいニュースも聞きます。業界の高齢化や事業承継の問題は、指をくわえて見過ごされているわけではないのです。
医療・福祉経営コンサルティンググループのMMPG(メディカル・マネジメント・プランニング・グループ)特集の最後を飾る今回は、38歳で税理士法人総合経営サービスの代表を務める中川祥瑛先生と、37歳で小野瀬・木下税理士法人、小野瀬公認会計士事務所の代表を務める小野瀬貴久先生にお話しを伺いました。おふたりが、会計業界では若い段階で代表社員を務め、またMMPGのような団体で積極的に学ぶ姿は、税理士業界で働く/税理士業界を目指す若手のみなさんの良い刺激にもなりそうです。
中川祥瑛(税理士法人総合経営サービス代表社員、税理士)
■まず、中川先生のこれまでのキャリアや事務所のご紹介からお願いできますでしょうか。
中川祥瑛(以下中川):肩書きとしては、「CFP、税理士、医業経営コンサルタント」となります。役職は「税理士法人総合経営サービス」の代表で、入社から15年経ち、昨年の12月に創業者の山崎と2人代取という形になりました。
弊社のグループはサービスが多岐に渡ります。母体となっているのが税理士法人と社会保険労務士法人で、こちらは顧問業務を軸にしています。さらに司法書士と行政書士のサービスがあり、その4士業をワンストップでやっているのがひとつの特徴になります。
■総合経営さんは他にもグループ会社がありますよね。
中川:そうですね。これまで私自身がやってきたことに絡めてご説明すると、私は税理士法人で仕事をしながら、それ以外の動きとしてここ6~7年は、自社に足りないものやお客様から求められている新たなサービスを新事業として形にしてきました。
それまでも弊社は、法人顧問をメインとして相続税もある程度はやっていました。しかしさらに相続もしっかりやれないと会社としての深みが出ないと考え、まずは7年ぐらい前に生前対策としての家族信託をメインにした事業部を、司法書士の先生と共に作りました。翌年には相続部門として再編成を行い、会社の軸を増やしました。
そのさらに翌年に、社内の「一般社団法人 中小企業成長支援センター」にIT導入補助金に関する部門を創設しました。自社提供の会計DXサービスを必要とするお客様に、IT導入補助金を使用してサービスを提供するパッケージを作りました。IT導入補助金の対象にDXコンサルも含めてよかったことが、この事業の大きな推進力となりました。例えばコンサルサービスが200万であれば、お客様の負担額はその3分の1の60万ぐらいで済み、さらにバックオフィスもIT化できる。それまで紙で対応していた会計の経理業務がIT化されていくわけですから、時間に換算しても、やはり今までかかっていた3分の1くらいに圧縮される事例も出てきました。お客様には非常に喜んでいただいているサービスの1つに成長しています。
3~4年ぐらい前には、「一般社団法人ライフデザイン協会」と「株式会社ゼネラルキャリアサービス」が立ち上がりました。ライフデザイン協会は、東京で家族がいない“おひとり様問題”を解決するために立ち上げました。家族がいないということはつまり保証人がいないので、入院ができない、老人ホームに入れないといった社会的な問題が出てきます。その解決のために、私達が家族の代わりとして身元の保証人となり、入院ができるし老人ホームにも入れる、そのような支援をするために立ち上げた一般社団法人です。
ゼネラルキャリアサービスの方は、老人ホームの紹介事業を中心に行っています。弊社は創業40年の士業グループなので、当時20歳だった社長様が60歳に、30歳だった社長様は70歳になっている。そうすると、お客様のニーズとして「会社を成長させたい」に加えて「終の住家を探したい」という要望も出てきます。ですので医療対応がどれだけ必要か、介護度はどの程度かなどの高齢のお客様のお体の状況に応じて、老人ホームやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)などを選ぶ事業部を作りました。これは今、北海道から沖縄までの5000施設と提携し、全国どこのお客様であってもホームを紹介できる体制が構築できています。
■税務会計に止まらない事業部を立ち上げてきたのには、どういった狙いがあるのでしょうか?
中川:弊社が、“ゆりかごから墓場まで”全てを支援するというスタンスでやっているので、例えば今紹介した以外にも、「株式会社ナショナル・コンサルティング・サービス」という不動産・生命保険・損害保険、さらに最近は金融を行う事業部を何人かで立ち上げています。資産運用や資産形成、今だとNISAやiDeCoを始めとした金融商品の提供もしています。今そのニーズってすごく大きいので、2年ぐらい前にIFA(Independent Financial Advisor、銀行や証券会社など特定の金融機関に所属せず、中立的な立場から資産運用のアドバイスを行う独立系アドバイザー)の事業部も立ち上げて、お客様の資産を増やすアドバイスも始めました。
さらに「株式会社マウンティン」は、セミナー・M&A・事業計画などのコンサルを行う会社です。
■かなり幅広いサービス展開をされていますよね。
中川:弊社には提携の司法書士と社内には行政書士もいます。例えば医療関連のお客様に対しても、税務・労務だけでなく医療手続きも全部含めて弊社だけで完結できるのも強みです。医療に限らず、“ゆりかごから墓場まで”お客様を支援しようとしたときに、こうした形に変化していきました。
あとは、個人としては本を4冊書いています。医療に関係するものは『病医院のための税理士の選び方がわかる本』で、税理士の西岡秀樹先生との共著です。去年の4月に出版して、Amazonの医療部門で1位になっています。また今まさに執筆中なのですが、社労士の今和弘先生との共著となる『基本と実務がよくわかる 小さな会社の給与計算と社会保険』は、ロングセラーとして7月ぐらいに毎年改訂版を出しています。さらに相続の本も2冊出版していますね。
医療・介護・福祉の税務会計について
■そうして幅広くサービス展開をしている中で、医療・介護・福祉分野の税務会計の顧客の割合はどのくらいなのでしょうか?
中川: 40年やってきて、今250社くらいです。全体の顧問先数が1300くらいなので、全体の20%くらいになりますね。医療って、顧客を増やすのがすごく難しいんですね。250社まで来るのもかなり大変だったと聞いています。ただ、おかげさまで今では医療のお客様が毎月のように増えてきています。これも長年の積み重ねなのだと思います。
■業界では若手の部類に入る代表にインタビューさせていただくのがこの記事のコンセプトですが、昨年12月に代表社員になられた時点ではおいくつでしたか?
中川:38歳でした。
■若い世代から見て、現在の医療・介護・福祉の税務会計に感じる課題はありますか?
中川:会計事務所が持っているノウハウが固定化されているというのは感じています。私達もノウハウを持っていますが、それでも医療支援をやっている他の会計事務所の話を聞くと、「そうなの?」ということがまだまだあります。医療の税務に関しては、一部地方税の計算などは変わることもありますが、全国どこに行っても基本は変わらないじゃないですか。それが医療の行政手続きとなると、県や市をまたいだだけでやり方が変わります。例えば東京都ではこういうルールだが、埼玉県に行くとこういうルールになるみたいなことが、医療の行政手続きでは簡単に起こります。それをいかに標準化できるかが課題なので、教育も自然と難易度が上がります。結局は量をこなすみたいなことになってしまうのですが、それでもノウハウを1つ1つ積み上げながら、かつ MMPG などで色々な先生方のお話しも聞きながら、横のコミュニティ作り、そうした課題を解決していかねばと思っています。
MMPGについて
■ MMPGのお話しが出たところで、MMPG の会員になることでどんなメリットを感じられていますか?
中川:医療って、すごく情報がとりにくい業界なんです。その上で、MMPGのメリットのひとつが研修制度だと思います。会員には、かなりの知識をお持ちの先生がたくさんいらっしゃって、その先生方が研修動画を配信してくれたり、セミナーを頻度高くやってくれたりします。弊社の創業者の山崎も言っていますが、ノウハウの部分もそうですし、法改正などの最新事例もスピード感を持って情報共有がされるので、かなり役立っています。
■MMPG の会員でもお若い方だとは思いますが、ベテランの先生方とはどんな感じでお付き合いをしていますか?
中川:創業者の山崎が加入以来築いてきたパイプがあるので、それを私がさらに磨いているところです。自分はまだかわいがっていただける年齢で、業界やMMPGなどのこれまでの経緯、また現在先生方が抱えている課題感なども気兼ねなくお話しいただけるので、そうした部分にもメリットを感じています。
税理士法人総合経営サービスの人材採用について
■続いて、人材採用についても聞かせてください。総合経営さんで働くことのメリットはどんなところにありそうでしょうか?
中川:知識を増やしたり経験を積む、そうやって力を付けるのには最適の職場環境だと思っています。私達は日本一の“CFP会計事務所”を目指しています。要は、税を軸にしたFP業務をやっていこうということですが、それが先ほどお話しした事務所としての全体像につながるわけです。
例えば業界では、「私はずっと税務をやってきたから税のこと以外はやらない」、「私は社労士だからそれ以外を覚えるつもりはない」となることも珍しくないと思います。でもそれって、本当にお客さんのためになるの?とも思います。経営支援のスペシャリストを目指していきたいのならば、広く浅くでいいので、知識や視点を大きく持つことが重要だと思っています。その点で、弊社はMMPGの講座も使いながら、税だけにとどまらない研修を厚くやっています。教材はこちらで全て用意するので、それを一生懸命こなしてもらえれば、新卒でも未経験の転職組でも、3年で一人前になれます。そうした環境を整えているのが、弊社に入社いただくメリットだと思います。
■こんな会計人材を求めているというのも聞かせていただけますか?
中川:先ほどの学ぶ意欲に加えて、上司や周りの方と相談しながらそれをひとつひとつ解決していく根気は、どの業界でも必要だと思います。弊社は常々、成績優秀じゃなくていい、と言っています。それよりも、やはり継続できるかどうかですね。「継続的に努力できる体力のある方」というような人材を求めています。
山本(レックスアドバイザーズの税理士法人総合経営サービス担当):現在、「会計事務所経験が3年以上あり、ある程度1人で回せる方」で募集をかけてはいるのですが、例えば監査法人にずっと勤められている、税務は未経験の会計士さんもご検討はいただけそうでしょうか?
中川:もちろん面接は全然やらせていただきます。資格の勉強をしてきたというバックグランドをお持ちだと思いますので、その努力の証が資格だと思います。その資格取得に費やした時間は決して無駄ではないと思います。ただ、資格取得後に勉強し続けられるかどうかが一番大事ですので、その点を弊社では一番の評価対象としています。ですので資格も大事ですが、資格取得後に勉強をし続ける継続力の方がもっと重要だと思っています。
■では最後に、これから医療・介護・福祉の税務会計を手がけてみたいという方に一言いただけますでしょうか。
中川:医療・介護・福祉を手がけるとなった時に、1件目のお客様を獲得するのは時間がかかるというハードルにぶつかると思います。医療・介護・福祉をひとくくりに捉える方も中にはいらっしゃるのですが、医療のお客様がいるからと言って介護や福祉のお客様は来ない、介護のお客様がいるからと言って医療や福祉のお客様は来ないものです。その上で、事務所の強みを社外・社内双方向に向けて会社全体で打ち出していくことは必要だと感じています。例えば医療分野に強い事務所であれば、「私達は医療のお客様を支援しています」と改めて前面に打ち出していくのが重要なのではと思います。
それから、実際に問い合わせがあった時のために知識も付けておかないといけません。医師や歯科医師のお客様は、実際税理士法人の担当者と話をしていて、自分自身の言いたいことを理解してくれているのか、自分の言ったことを解決してくれそうかはすぐに分かるものです。それは共通言語を持っているかどうかという話で、医師・歯科医師のお客様に限ったことでもありません。例えば毎年の税制改正と同様に、医療の世界では診療報酬改定などの新しい情報もアップデートしてお客様にお伝えしていかなければなりません。税理士法人にとって、医療分野は知識経験不足による間違いや失敗が業務でたくさん起こり得る業界なので、MMPG のような専門組織と連携をしながら自分で解決ができる、もしくは自分では解決できなくても解決できる人とつながっておく必要があると思います。知識面・経験面で問題点を解消できる横のつながりを持っていれば、医療・介護・福祉のお客様は自然と増えていくのではないでしょうか。
税理士法人総合経営サービス(総合経営サービスグループ)
●設立
1984年 山﨑明税理士事務所開業
2004年 税理士法人総合経営サービスとして法人化
●所在地
〒114-0002
東京都北区王子2-12-10 総経ビル
●会社HP
https://www.mountain.co.jp/