米国における白人中間層の貧困化の遠因には、固定資産税の税収に地域間格差があるという指摘があります。固定資産税の税収が地方行政の歳入の格差につながり、ひいては地方行政が担う教育場面での格差を助長するという見解です。地方税収の格差が教育格差を招来するという注目すべき指摘です。

教育への投資促進と税制

伊藤宏之教授によると、教育格差と経済格差の発生原因には、公共教育の制度とそれを支える税制が関係しているといいます(伊藤「『それでもトランプ支持!』が減らない理由」COURRiER JAPON 2017.2.6号)。一般的に、米国では、初・中等教育は州・郡政府の管轄であるとして、連邦政府はあまり関与してこなかったため、その財源も州や郡レベルの消費税や固定資産税に頼る比率が高いというのです。とりわけ、公立の小、中、高の教育予算に占める固定資産税の税収割合が高いようです。

伊藤教授によれば、そこには正負のスパイラルがあるとされます。すなわち、固定資産税の税収が高い地区では質の高い教育を公立学校で提供できるので、そうした学区は他の地域からの転入者を招き、それにより土地や家屋の需要が増加し、地価が上昇する。そして、地価の上昇は固定資産税の税収増につながるため、教育に向けられる財源が増え、さらなる教育の質の向上につながるという循環が生まれる、と。逆に、固定資産税の税収の低い地域では負のスパイラルが生じるというわけです。

もっとも、それは、いわゆるyear1~year12までの日本でいえば、初・中等教育の問題です。とはいえ、住んでいる場所の経済的状況によって、受けることのできる初・中等教育の質が左右されるということは、当然ながら大学進学にも影響を与えることになりましょう。日本においても、親の経済格差が子供の教育格差に伝播することが既に指摘されているところですが、米国の場合、固定資産税の税収がもたらす地方自治体の教育財政への影響がこの格差を生じさせる一因になっているという点は注目すべきでしょう。

伊藤教授の分析によれば、米国では、日本のように中央政府が教育カリキュラムを組むのとは異なり、それぞれの学区に自由裁量が認められているため、財源が豊富な地域は、独自にレベルの高くサービスの行き届いた教育を提供できるといいます。逆に、財源が弱い、あるいは不安定な地域はなかなかいい教育を提供できず、教育的にも経済的にも状況がさらに悪化することになりやすいというのです。