風俗営業規制の影響で、ビルの家賃収入が減ったにも係らず、固定資産税の評価引き下げに反映されないのは納得がいかないと、争われていた裁判がある。「風俗営業」=「高収益事業」であるなら、風俗営業規制は不動産の利用を制限し、ひいては不動産の価格や評価額に影響するのではないか?そんな疑問が頭をかすめる争いに裁判所はどんなジャッジを下したのか。

首都圏のとある駅前繁華街の貸ビル業者が、風俗営業規制の影響で、ビルの家賃収入が減ったことから、固定資産税を3割下げろと、土地を管轄する自治体を相手に争っていた裁判があった。結果的に、裁判所は、「ビルの家賃が下がったことに風俗営業の規制の影響は必ずしも認められないし、規制について固定資産税の土地評価をする上で考慮する必要もない」と、訴えを起こしていた貸ビル業者の請求を棄却した(東京高裁平成28年12月21日、後に最高裁へ上訴)。なるほど、言われてみれば、風俗営業規制の影響で不動産の利用が制限され、ひいてはテナント収入が減ったのであれば、不動産の価格や評価額に影響するかもしれない。裁判所はどんな「論理」で貸ビル業者の言い分を退けたのか探ってみる。
問題の土地を取り巻く状況と評価
問題の土地は、都心に乗り入れる鉄道の駅から徒歩数分のところにある。近くには、量販店や飲食店、事務所等が連なり、典型的な駅前繁華街の一角だ。この土地の隣には、土地評価額の算定の際に参照した公示地もあり、問題の土地を含む一帯は、固定資産税の評価をする上で、「普通商業地区」とされ、問題の土地の前面には幅員の広い地方の道路があり、この通りがこの地区の主要街路とされていた(図1参照)。
<図1>

課税標準額(評価額を一定の調整したもの)×税率1.4%という計算式で税額を求める市町村税。評価額は不動産の金銭価値を固定資産評価基準に基づき評価して求める。
地価公示法に基づく公的な指標となる土地評価を行うために選定された標準地のこと。公示地価は売買実例をもとに不動産鑑定で算定され、毎年3月に国土交通省が1月1日時点の標準地の単位面積当たりの正常な価格として公表する。銀座の土地がどれほどになったかなど、ひとしきり世間をにぎわせる風物詩となっているお馴染みのものだ。
管轄の自治体は、問題の土地が市街地の普通商業地区にあることから、隣の公示地の地価を参考に、その7割の金額を固定資産税の路線価(街路に設定される1㎡当たりの金額)として算出。公示地価に対する固定資産税の評価水準が7割とされているため。その上で問題の土地が角地であることに由来する必要な補正をして、その面積を乗じて評価額を算定していた。
しかし貸ビル業者は、これを不服として最終的に裁判に打って出た。
風俗営業規制により営業活動を制限
「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法という。)」とは、子どもの教育環境上好ましくないものを規制するなどの目的で、キャバレー・パチンコなど、いわゆる風俗営業や性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限することを決めた法律。数年前には、ダンスクラブの深夜営業を同法により規制すべきかどうかで注目されていたのは記憶に新しい。
風俗の営業所設置が規制される区域は、政令で定める基準に従い、都道府県の条例で定める地域(同法4条2項)」とされる。具体的には、「住居集合地域」や「学校、病院などの保全対象施設の周辺で周囲概ね100メートル以内」とされており、行政関与が前提の規制とされる。