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【電卓持って世界一周!】貧しい国はなぜ貧しいのか①~レソトなう~

シンガポールで活躍した現役女性会計士が、電卓片手に、世界各地のNGOで会計士ボランティアをしながら世界一周! 旅の中での発見を、会計士目線で伝えていきます。今回もアフリカ南部に位置する国レソトからお届け! 貧しい国はなぜ貧しいのかについて考えていきます。

牛が活躍する首都マセル

アフリカの小国レソトは、とにかくのどかである。私が働いているNGO「Kick4Life」は、首都マセルの中心部にあるので、レソトのなかでは都会のはずなのだが、それでも会社の庭には牛飼いがよくやってきて、牛に枯草を食べさせたりしている。

日本だったら「私有地につき牛の放牧禁止」みたいな立札が立ったりして大ごとになると思うのだが、そこはマセルなので、牛も問答無用に立ち入りまくりである。会社側もまったく気にしていない。

ゴハンの時間だよ

私個人としては、のどかなマセルが気に入っており、あまり変わってほしくはないのだが、私の生まれ育った東京とは、趣は随分異なる。嗚呼、あの都庁のてっぺんから見た、地平線の果てまで続くビル群よ。

マセルが東京みたいな大都会になるには、一体あと何年かかるんだろうか。とりあえず何年の単位ではなく、何十年の単位であることは間違いない。もしかして何百年かなぁ。あんな巨大な都市を20年くらいで作っちゃった、日本の高度経済成長の勢いって本当にスゴイ!

この国にはお金がない

レソトはインフラの質も日本と全然違う。マセルには信号機がほとんどない。大通りと交差する道路には、合流のタイミングが計れない車がすぐに溜まる。小さな道に10~20台くらいの車が突然列をなし、20分くらい待ちぼうける。そんなわれらを、羊がもの珍し気に見ている。

お母さん、人間って大変だね

道路の質もあまりいいとはいえない。レソトには100km制限の公道がよくあるのだが、そういう道に30cm大の穴が、いきなり開いていたりする。日本だったらすぐに道路公団に連絡がいくだろうし、アメリカだったら州が訴えられると思う。しかしレソトでは、人が穴を除けて進むほか手立てがないのである(笑)。

そんなふうに30cm大の穴をひらりと避けてドライブしていたとき、私の脳裏に、ひとつの考えが雷のようにひらめいた。

それは、
「この国にはお金がない!」
ということだ。

なんてこった! 政府が貧乏なんだ! だから信号機も作らないし、道路に穴が開いても直さないんだ! なんで貧乏かというと、税収がないからである。

レソトの失業率は2016年の時点で27.4%と高い。国民が稼いでいないので、所得税が入らない。企業がたくさんないので、法人税もふるわない。レソトで一番大きな産業は、国際NGO(UNICEFなど)だ。このような組織は企業ではなくNPO(非営利組織)なので、法人税を払わなくていい。

私が働く「Kick4Life」もNPOなので納税義務はないのだが、どさくさに紛れて先日、法人税の督促が届いた。とりあえず国税局で「なにが法人税でいっ!俺っちは税金なんぞビタ一文払わねぇからな!」と、一席ぶってきた。レソトの人々を助けようとやってきたNPOですら、国税局に対して非情な態度なので、勢い税収の増えないレソトである。

「すべての幸福な家庭は互いに似ている。不幸な家庭はそれぞれの流儀で不幸である」

この名言は、トルストイの代表作『アンナ・カレーニナ』の冒頭である。私は、国にも同じことがいえると思っている。先進国の都市(東京・ニューヨーク・シンガポールなど)が比較的似ているのに対し、貧しい国はもっと個性があり、それぞれ異なる理由で「貧乏」である。

なぜ国はお金がないのか?
恒常的に途上なのか?
なんでもっと早いスピードで先進国みたいになっていかないのか?

今日は途上国を途上たらしめる、経済成長が進まない原因について考えてみたい。

①政府が機能していない

貧乏な国が貧乏なわけ、最初の理由は「政府」である。

シンガポールがほかのアジアの国々と比べて圧倒的に成長した理由は、政府の人材登用だ。土地も資源もないシンガポールは、もともと人を育てることでしか、ビジネスの活路を見出せなかった。成長の中核を担う政府にも優秀な人材を集め、賄賂などの汚職を一切禁じた。その結果が、今のシンガポールの発展である。一方で、同じアジアでもフィリピンやインドネシアなど、政府がきちんと機能していない国は、土地や資源を持っているにもかかわらず、いまだに成長面において、シンガポールに遅れをとっている。

大都会シンガポールの夜景。レソトに3カ月も住んでると、この夜景、まぶしいわ~

上記で「レソトはお金がない」と書いたが、それは半分正しく、半分間違っている。政府には一定の税収があるのだが、正しく使われていないのが現状のようだ。レソトの国家予算は4月決算なのだが、4月になるとすべての予算を使い切るべく、さまざまなパーティーが盛大に行われるらしい。「道路に空いている穴をふさいでみよう」とか、「信号機を作ってみよう」とか、そのような用途には使われないのだ。

レソトでは先日、軍の将校が日中銃殺されるという事件があり、国全体がちょっとした騒ぎになった。この国では、昔から権力をめぐって、軍と政府との小競り合いが絶えない。私からすると「こんなに牛と羊ばっかりの小さな国の権力を、武力で奪ってどうするんですか」って気持ちだが、権力闘争を目指す政府の人々はマジで目指している。

政府、資本家、国民の欲しいものが、かみあってない。貧乏の理由その1である。

②産業がない

次の貧乏の理由は、「ビジネスの不活性」である。

たとえば、ジンバブエの失業率は、なんと現在70%だ。70%の大人が無職なのだ。それなのに、義務教育はタダではない。学校に行くのには年間300ドルかかる。とはいえ、たったの300ドルである。それでも仕事がない両親にとっては、授業料を払って子どもを学校に行かせてあげることが非常に難しい。

私がジンバブエを訪れた時、案内をしてくれた地元のガイドさんは、「自身の4人の子どもに加えて、無職の友達の子ども2人の学費を負担している」と言っていた。「子どもにとって教育はとても大切だし、子どもは国の未来だから」と。

ジンバブエのガイドさんと。この川は世界三大瀑布のビクトリア・フォールズにつながっている

私が思うに、貧困層の子どもを学校に行かせたかったら、大事なのはまず、大人の雇用だ。大人に十分な収入があってこそ、子どもは学校に行ける。大人にお金がなければ、大人は子供にも働いてもらうしかない。そして大人の雇用を提供するために、大事なのはもちろん、ビジネスであり、産業である。

レソトの大きなビジネスは、国際NGOと、紡績事業くらいしかない。国際NGOの収益は、他国の寄付から成り立っており、紡績事業を経営している企業の多くは中国資本で、利益は中国の経営者たちの懐へ行ってしまう。

製造業はないに等しく、レソトのスーパーマーケットへ行くと、売られている食品の8割は、南アフリカからの輸入品だ。「すべてがとっても他の国に依存している感じ」のレソトの経済である。

レソトが今後、国として生きていくには、自国内で産業を起こし、雇用を生み出すことが肝要だと思う。ここには雄大な自然や景勝地が山ほどあるので、インフラを整備して交通を行き渡らせたり、観光事業を活性化させたり、産業化に向けてできることは結構あるような気がする。でも、とにかく人がのんびりしているから、急スピードで進化を遂げたりはしないだろうけれど・・・。

③気候・地形などの条件

続いての貧乏の理由は、「気候や地形などの条件」である。

たとえば、アメリカが栄えている理由はいろいろあると思うが、私はそのひとつは地形が比較的平坦だからだと思っている。土地が平らだから、西部開拓時代、人は馬で移動していてもなんとか西側まで到達することができた。鉄道や道路というインフラも比較的短期間で整備することができた。

同じことをネパールでやろうと思ったら、そうはいかない。なんたって平らな土地がほとんどない。その高山の多さたるや、5千メートルを超えた山ではないと、人は「山」と呼ばないくらいだ。(ちなみに、それより低い山は“丘”と呼ぶ。富士山は、ネパール人にとって丘である)

ネパールの山岳地帯。人々は山とともに生きている

人が住んでいる地域が山々に点在しているものだから、鉄道や道路を通すのに、ものすごい時間と労力がかかるし、ひとつひとつの町の人口が少ないから、投資に対する経済的リターンが見込めない。町と町をつなぐ「線」のインフラがなかなか発達しないと、僻地でなにかを作っても、都市や他国に送ることができない。よって、すべてのものが地産地消になる。これでは取引が大きくならない。

気象条件も大きな要因である。アメリカは、場所にもよるけれど、ある程度の雨が降るため農業もできる。アフリカには広大な土地があっても雨が降らないので、作物が育ちづらく、人は飢える。中東もオイルマネーのおかげで潤っているけれど、もし石油がなかったら、国を運営していくのに、これほど大変な土地もないなと想像できる。

④戦争

途上国にとっての戦争は、経済に対する四重苦だと思う。まず、兵器を作るのにも買うのにもお金がかかる。治安が悪いので、他国から人や投資が来なくなる。人が亡くなるので、労働力が供給できない。そして物が破壊されるので、ビジネスをやったり、お金を生んだりする機能(会社や工場)が壊れてしまう。

本来は経済的な理由でいえば戦争なんてやめた方がいいはずなのに、貧しいと人は、恒常的に世の中に対する怒りを感じるので、武器を手に取りやすい。破壊されつくした状態から経済を再興させるのは、信じられないくらい時間がかかる。

⑤病気

病気も国の経済には悪影響である。国民が亡くなってしまうと、労働や消費といった経済活動をしなくなるからだ。生きている限りお金を使い続ける、それが人間だ。

レソトの成人の4人に1人はAIDSで、国民の平均寿命は50歳である。国民の健康状態が、国の発展にも影響していることは間違いないが、私はレソトに来るまで、さぞかしHIV陽性の人は、現状を憂いているのだろうと思った。

しかし、来てみて驚いた。皆普通に暮らしているのだ。たとえば、今日私が行ったスーパーマーケットでは200人くらいの人を見かけたので、そのうちの50人くらいはHIV陽性だったのだと思うのだが、ごく普通にみんな買い物をしており、病気の気配など感じられない。(強いて特徴的なことといえば、町中で80歳を過ぎたお年寄りを見かける可能性が低いことくらいか。大多数の人々の年齢範囲は、子供~中年である)

皆ある程度HIVを受け入れて暮らしているのだろう。「HIVになったら仕方ないし、きっと大丈夫」という人々の達観を感じる。

病気といえば、もう一点。レソトは公立病院の数が極端に少ない。なぜなら医者がいないから。医大を出た学生たちは、いい給与をもらうために、高額な私立病院や南アフリカの病院へ行ってしまう。

レソトで交通事故に巻き込まれた人が重体だったとしても、公立病院は3~4時間待ちで、担架に乗せられたまま待たされるらしい。私立病院に行けるほどの収入を得ている人は、国民のごく一部である。

もっと公立病院がたくさんあれば、国民の寿命も一気に5歳くらい伸びるんじゃないかと思っているんだが・・・。

「Kick4Life」からのお願い

今回は、発展途上国が貧乏な原因を探ってみた。いかがだっただろうか。

お金のない国の筆頭であるレソトの「Kick4Life」から、最後に読者の皆様に、小さなお願いがある。

「Kick4Life」はレソトでフットボールクラブやレストランを経営し、その営業利益を通じて、地元の子どもたちにスポーツ教育を行っている。将来子どもたちがスポーツ特待生となって大学へ行くことができるよう、支援するためだ。

現在8人の子どもたちがトレーニングを受けているのだが、そのうちの2人、JasonとBataungには、聴覚に障害があることが分かった。今は補聴器をつけて学校の授業を受けているのだが、難聴が酷くなっており、だんだん勉強についていけなくなってしまっている。

聴覚に障害のあるJason。竹とんぼをあげたら、とても気に入っていた

弊社では、彼らの聴覚手術代を調達するクラウドファンディングを行っている。

Restore Hearing for Jason and Bataung by Hana Taiji

もし、私の意見に共感してくれる方がいるならば、この募金に協力していただけたらうれしく思う。

私は大人になった今、「教育って本当に大事だったんだな」と日々思っている。私が今日事故にあって、自分の英語の知識も会計の知識もすべて忘れてしまったら、明日からどうやって生計を立てていけばいいのか、途方に暮れるだろう。資本主義のこの世界では、知識は生きていくための力なのだ。そして知識を授けてくれるのが、教育だ。

どうか彼らに、病気にとらわれることなく、自活して生きていくための力を与えてあげて欲しい。そして今回支援を受けた2人が大人になって、今度はレソトの人々を支え、引っ張っていってくれる存在とならんことを、私は心から願っている。

竹とんぼ、子どもたちの間でまさかの大ブーム!(笑)

著者: 石井友里

わんぱく会計士

早稲田大学教育学部卒。米国公認会計士。日本の不動産投資法人等で経理を4年経験した後、単身シンガポールへ。監査法人で法定監査を4年、事業会社で財務部長を1年経験した後、唐突に仕事を辞めて、会計士ボランティアをしながら世界を一周することに。昔から勢いで行動することには定評のある、元気な日本人女性。

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