大企業に対して多額の移転価格課税がなされたという新聞報道を目にすることはよくあると思います。では、税務署所管の中小企業に対しても移転価格調査が行われることはあるのでしょうか。近年では、移転価格調査の対象となる企業も、中堅・中小企業へとシフトしています。税務署所管法人であっても移転価格の調査を受ける可能性があるのです。

1 近年の移転価格調査の状況

下図のグラフは、平成14年以降の移転価格調査により申告漏れのあった件数と、申告漏れ所得金額の推移を示したものです。このグラフから明らかなように申告漏れ所得金額は平成17年をピークに減少傾向を辿り、一方で申告漏れ件数は増加傾向にあります。調査1件当たりの申告漏れ金額(=申告漏れ所得金額/申告漏れ件数)を算出すると、25年度は3億2千万、26年度は7千4百万、27年度は6千3百万と減少しており、事案の小型化が顕著となっています。

これは、国税局所管の大企業のみならず、税務署所管の中堅・中小企業にまで移転価格調査が広がっていることを意味しています。これまで移転価格調査の中心であった大企業は、移転価格課税による経営に与えるインパクトの大きさを認識し、移転価格課税のリスクを回避するために事前確認制度を積極的に利用していることが大型事案減少の背景にあると考えられます。

比較的規模の大きい税務署には、海外事案を担当する「国際税務専門官」が配置されています。近年、国税局で移転価格調査を経験した者が人事交流で税務署の国際税務専門官に配属されており、税務署においても移転価格調査に対応できるようになってきています。また、国際税務専門官が配置されていない中小規模の税務署においては、必要に応じて近隣署の国際税務専門官が調査の支援を行うこともあります。

経済のグローバル化に対応するため、国際課税を担当する調査担当者は増員しており、今後も中堅・中小企業への調査件数は増加傾向が続くと思われます。

【移転価格税制に係る調査の状況】

(出典)国税庁報道発表資料をもとに作成

2 税務署における移転価格調査の特徴

国税局調査部の移転価格調査部門が行う移転価格調査は、移転価格にターゲットを絞って行われるもので、調査期間は長期化し、2年前後に及ぶのが通常です。調査の対象も棚卸取引における販売価格の適否や無形資産取引の対価であるロイヤリティ料率の適否など、検討に時間を要するものが多いと思われます。

一方、税務署で行う移転価格調査は、一般の法人税調査と同時に行われ、調査日数にも制約があることから、調査の中心は海外子会社へ技術支援等を行った場合の対価の回収の適否や、海外子会社へ資金提供した場合の貸付金利の適否など、比較的短期間で終了する調査(「簡易な移転価格調査」)が中心となっています。

実際に多いケースとしては、海外子会社に出張支援したにもかかわらず、対価を全く取っていなかったり、子会社に対する貸付金利が適正金利よりも低かったといったケースがあります。また、対価の回収漏れがあった場合に、海外子会社に経済的利益を供与したものとみなして『国外関連者に対する寄附金』として早期に課税処理されるケースが多いのも特徴です。

移転価格調査は、通常の海外取引の調査とは異なる切り口で展開されるため、提出を求められる書類なども通常の法人税調査とは違ったものになります。そのため、移転価格調査に備えてどのような書類を準備したらよいのか、当局からの指摘に対してどのように反論したらよいのか、など対応に苦慮することが多いといえます。

そのため海外子会社等を有する中堅・中小企業にとっては、移転価格課税や寄附金課税を受けないような対応策が必要となります。