毎日の単調な監査業務に飽きてきた……何か新しいことに挑戦したいけれど何をしたいか分からない……。キャリアに悩む会計人も多いはず。今回は、デロイト トーマツで会計士としてキャリアを開始し、現在はデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社でベンチャー企業の支援をおこなっている、同社事業統括本部長の斎藤祐馬さんにお話を伺いました。

「経営者の参謀」になりたかった
──最近、会計士を目指そうという若者が減ってきていますが、斎藤さんが会計士を目指そうと思ったきっかけは何だったのですか?
中学生のとき、父が脱サラして独立しました。苦労もしていましたが、やりたい仕事をして生きている姿が面白そうでもあり。父のように独立した人を支援したいなという気持ちが漠然と芽生えました。
もうひとつは小学生のときから歴史の本が好きだったことに派生します。中国の歴史とかを読んでいると、優秀な文士が国を支えていることがわかり、そういう文士のような存在への憧れがありました。そんな中、高校1年の頃、図書館で公認会計士の本を読んだときに「経営者の参謀として社長を支える」といったことが書いてあったのです。それがきっかけでしたね。
─結構早い時期に会計士という夢を持たれていたんですね。
そうですね。今になって思うのは、会計士はグローバルで何かを仕掛けるにはすごく適しているなということです。会計士になって大きなコンサルティングファームに入って、そこから世界に羽ばたいていけるのはいいですよね。
─そういう考え方もありますね。色々お声がかかったかと思いますが、そのなかでトーマツを選んだ決め手は何だったのでしょう。
ベンチャーという切り口で言うと、やはりデロイト トーマツが断トツだったというのと、グローバルという目線で考えた時に、社名に「トーマツ」の名前が入るくらいグローバルの中で存在感があった。これが大きな理由ですね。

監査業務やベンチャー支援について
─会計士のキャリアを始めたときは監査業務が中心でしたよね。
どんな仕事でもそうだと思うのですが、新人時代って下積みみたいな時期はありますよね。今思うと、普通では見られないような会社の様々な内部資料を見て、会社の決算を判断していけたのは、すごく貴重な時間だったと思います。もちろんその当時はその意味について理解できなかった部分もありますが、基礎力をつけるという意味でもいい時間だったと思いますね。
─そこからベンチャー支援へ移っていった。人脈はどう広げていったのですか?
最初はベンチャー企業の知り合いが全然いませんでした。そんなとき、会社の先輩が起業することになり、ベンチャーキャピタルの仕事をしている方を紹介してくださったんです。その方をスタートにして色々紹介してもらいながら、自分も紹介をしたり、イベントをやってみたりして、ネットワークを広げていきました。
─イベントも企画されていたんですね。若い会計士の方だと、成果を残したいもののなかなか動けていない人もいるので、何かきっかけがあればと思うのですが……。
まずはイベントでもなんでも飛び込んでみることだと思います。昔はSNSがなかったので、ネットで検索すると趣旨のよくわからない交流会しかなかったんですよ(笑)。今はSNSも普及しているので、クオリティが高くて無料で参加できるイベントもたくさんあります。
「会計士×○○」。自分をタグづけせよ
─イベントなどに参加して、そこからビジネスが生まれることもありますよね。
そうですね。やりたいことをはっきりさせることも大切です。自分に何かしらタグ付けをするんです。
私は、「ビジョン」と「パッション」が起業家に必要な二大要素と考えています。やりたいこと(ビジョン)とそこへの熱量・熱意(パッション)。これがはっきりしていれば自然とネットワークは広がるのではないでしょうか。
「会計士」の人数だけ見ると、決して少なくありません。でも、大勢の会計士がいる中で、それに加えて何かしらの専門家になれば、一気に貴重な人材になれます。
昔は「T型人材」といって、アルファベットのTの字のように、ひとつのことだけ詳しくてあとはジェネラリスト。それでいい時代でした。今は「H型人材」といって、2つの強みを持っていると、そこをつなぐポイントですごくバリューが出やすいとされています。私であれば、「ベンチャー」と「会計士」。Hの縦棒のひとつは会計士で、あともうひとつ何か詳しくなれるといいですよね。
2つの強みを見つけるコツ
─もうひとつの軸はどう決めていけばいいのでしょう。漠然としていて、決めきれない人へアドバイスはありますか?
「will」「must」「can」という3つの軸がある中で、企業が求めてること(must)をこなすためにスキル(can)を身につけ、この2つの軸だけで生きていこうという方は少なくありません。
ですがこれからの時代は、自分自身のやりたいこと(will)を、最低限のmustをこなしながら実現していくということが求められると思うんです。高校、大学とみんなcanは上げに上げてきているわけですから、そろそろwillを実現させるために生きる時代ではないでしょうか。
人生には必ず山と谷がありますよね。その山と谷で自分自身の価値観が出てくると思うんです。あとは、「誰の笑顔を見ていると一番生きている感じがするか」というのも原点になります。こういったポイントをクリアにしていくと、やりたいことが見えてくると思います。

─なるほど……。
多くの成功した人たちを見ていると、いきなりすべてのリスクリターンを計算して選んでいるというよりは、ある程度仮決めで走っていって、まずはがむしゃらに頑張ってみている。そうすると先行集団に入ってきて、ついてくる人もだんだん増えて、使命感をもって頑張る。それでもっと伸びるという構造があるんです。もっと仮決めで動いてみたらいいのではないかなと思いますね。
「ベンチャー」「大企業」「政府」「海外」4つの軸を制覇する
─二番煎じ、三番煎じのほうが安心感があるのでしょうね。
リーダーになるために一番大事なのは、上司がいないところで挑戦するということです。誰もやっていないことに張っておいて、そこに流れが来ればリーダーになれますよね。上司がいるレッドオーシャンではなく、自分のやりたいこと、かつブルーオーシャンを掌握するのがコツかもしれないと思います。
会計士として何かを仕掛けたい場合、一番わかりやすいのは最新のテクノロジー。AI(Artificial Intelligence/人工知能)やIoT(Internet of Things/モノのインターネット:さまざまなモノが通信機能をもち、ネットワークにつながること)など、分野は問いません。「最新テクノロジー 会計士」で検索したら一番上に出てくるのを目指す。
まずその領域に関係するベンチャー企業とつながって、話を聞きに行ったり、知り合いを作る。次は大企業の方々、政府の方々、そして海外。この4つの軸である程度ネットワーキングしていければ、あっという間に日本一になれるんです。
我が社はそこをうまくレバレッジしていて、特定の分野のベンチャー企業を全部押さえられます。その分野をやりたいと思っている大企業のコンサルティング業務に関われますし、政府にも提言ができ、世界中の情報が入ってくるので日本一になれるというロジックです。だからこそ我が社は日本一の人材をどんどん排出できるのです。
※次回「“ベンチャー支援”のモデルを世界に発信していきたい」に続きます。
デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
事業統括本部長 斎藤祐馬(Yuma Saito)
事業統括本部長、公認会計士。 1983年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2006年公認会計士試験合格、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。 2010年より社内ベンチャーとしてデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社の事業を立ち上げ、3年半で全国20の活動拠点・150名体制への拡大に成功する。ベンチャー企業の成長支援を中心に、大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案に至るまで幅広く手掛けている。
――――――――――
■デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社
http://www.deloitte.com/jp/dtvs
――――――――――