国税当局は多額の資産を有する富裕層への監視を強化しています。富裕層の情報を収集するプロジェクトチーム(PT)が全国の国税局に拡大し、スタッフも増員しました。その成果として、隠していた国外財産が発覚する事案も増えています。

以下は、2018年4月4日の読売新聞の記事の一部です。
富裕層 課税きっちり 「本人も忘れた口座まで…」
「顧客や我々も把握していない海外口座まで税務調査で示された。国税の本気度を感じた」。富裕層の顧客を数多く抱える東京都内の大手税理士法人の税理士は驚きを隠さない。
昨年秋、港区に住むIT企業の男性社長に対する税務調査に立ち会った時のことだ。事前に社長から国内外の口座の残高や海外の出資企業からの利子・配当の受領額などを詳細に聞き取っており、準備は万全のはずだった。
しかし、東京国税局の調査官は、社長本人も忘れかけていた出資先や口座などを示してきた。結局、社長は数百万円の申告漏れを指摘され、修正申告に応じた。
国税当局が東京、大阪、名古屋の3国税局に富裕層PTを設置したのは2014年7月。富裕層は国内外に多額の資産を持ち、税理士ら相談して高度な税金対策を講じる例が多い。
東京・築地の東京国税局8階にあるPTでは、国際税務にも精通した30〜40歳代のエース級職員が、富裕層にしぼった情報を収集。家族や関連会社を一つのグループとして管理し、資産や投資活動を分析する。
野村総合研究所の推計によると、日本で金融資産を1億円以上保有する「富裕層」は約121万7000世帯(全体の2.3%)。そのうち5億円以上の「超富裕層」は約7万3000世帯(同0.13%)という。
国税庁は昨年7月以降、PTを全国12の国税局・事務所すべてに拡大し、全国で50人だったメンバーを約200人に増やした。[…]
国税当局は、富裕層の海外資産を把握するため、以下のような様々なツールを導入してきました。これにより、国外財産絡みの申告漏れが発覚するケースも増えています。

【事例1:国外に所在する相続財産の存在を知りながら申告していなかった事例】

資料情報等から被相続人Aは国外に預金口座を保有していたことが想定されたものの、 被相続人Aの相続税の申告には国外の財産が含まれていなかったことから調査を実施した。 調査において、被相続人Aの相続税の申告を行った相続人Bは、相続財産の中に国外の財産はないと説明したため、X国の税務当局に対して、租税条約等に基づく情報交換要請を実施したところ、①相続開始日において、被相続人A名義の預金残高が存在していたこと、 ②相続開始後、相続人Bが当該銀行口座を解約し、その残高を国外のB名義の銀行口座に送金していたことなどを把握した。
【事例2: 国外不動産の贈与を受けていたが贈与税の申告をしていなかった事例】

被相続人Aの相続税調査において、X国に居住する相続人Bが同国に保有する不動産の取得経緯を解明するため、相続人Bに対して贈与税の調査を実施した。 調査の結果、相続人Bは、相続人Cから当該不動産を贈与されていたが、海外不動産であれば日本の申告は不要であると考え、当該不動産について、贈与税の申告をしていなかったことが判明した。
【事例3:国外財産が相続税申告漏れ・相続した国外株式に係る配当所得等が申告漏れとなっていた事例

X国からの自動的情報交換資料により、被相続人AはX国内に株式を保有していた事実を把握したが、被相続人Aに係る相続税の申告には国外の財産が含まれていなかったことから、 調査を実施した。調査において、相続人BはX国財産についてはX国においてのみ申告すればよいとの認識から、相続したX国の株式や預金を日本の相続税の申告に計上していなかったことが判明した。 また、相続したX国の株式について相続後に配当が発生していた事実及び相続したX国の預金について相続後に利子が発生していた事実を把握したが、相続人Bは自らの日本の所得税の申告において、当該配当及び利子の申告をしていなかったことが判明した。
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