海外子会社に対する価格調整金の支払は税務上問題になることが多いと言われています。過去の新聞報道等をみると、価格調整金が子会社に対する資金援助と認定されて寄附金課税を受けたケースが見られます。税務調査で否認されないためには、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。

≪ケース≫


当社は電子部品の製造業で、アジアに設立した販売子会社に製品を輸出しています。今年度は、子会社の業績が下がったため、子会社への販売価格を決算期末で減額調整することとし、当社は減額される金額を価格調整金として子会社に支払うことを検討しています。

価格調整金は税務上問題になることが多いと聞いていますので、どのような点に注意する必要がありますか。


価格調整金とは、実際に行われた国外関連者との取引価格を移転価格上の適正価格(独立企業間価格)に修正するため、実際の取引価格と独立企業間価格との差額を支払うことをいいます。

この価格調整金の取り扱いについては、移転価格事務運営要領3-20において、以下のように規定されています。

移転価格事務運営要領3-20 (価格調整金等がある場合の留意事項)

法人が価格調整金等の名目で、既に行われた国外関連取引に係る対価の額を事後に変更している場合には、当該変更が合理的な理由に基づく取引価格の修正に該当するものかどうかを検討する。
当該変更が国外関連者に対する金銭の支払又は費用等の計上(以下「支払等」という。)により行われている場合には、当該支払等に係る理由事前の取決めの内容算定の方法及び計算根拠、当該支払等を決定した日、当該支払等をした日等を総合的に勘案して検討し、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められるときは、取引価格の修正が行われたものとして取り扱う。
なお、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められない場合には、当該支払等が措置法第66条の4第3項の規定の適用を受けるものであるか等について検討する。

価格調整金を支払う場合には、上記3-20により、「合理的な理由に基づく取引価格の修正」に該当することが必要です。合理的かどうかの検討は、支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠、支払等を決定した日、支払等をした日等を総合的に勘案して検討することとされており、合理的な理由がないと判断された場合には、「国外関連者に対する寄附金」と認定される可能性があります。

 

価格調整金等の支払等が通常合理的なものとは認められないケースとして、

  • 国外関連者に対する財政的支援を目的としている場合
  • 国外関連者との間で取引価格を遡及して改定するための条件があらかじめ定められていない場合
  • 支払額の計算が法定の独立企業間価格の算定方法に基づいていない場合
  • 支払額の具体的な計算根拠がない場合

などが考えられます。

なお、国外関連者との間で事前の取り決めがない場合であっても、非関連者間との類似する取引においても同様の価格変更が行われている場合には、これと同じ条件で国外関連者に支払った価格調整金については、合理的な理由に基づく取引価格の修正として取り扱うこととされています。

 

本件の場合、アジア子会社に対する価格調整金が認められるためには、

○価格調整金を支払う理由が、子会社との実際の取引価格と移転価格上の適正価格(独立企業間価格)との差額を調整するためであること。

○支払が事前の取決めに従ってなされたものであること。すなわち、一定の場合に価格調整金を支払う旨の覚書等を事前に取り交わしていること。

○価格調整金の額が、法定の独立企業間価格の算定方法に基づいて算定されていること。

○支払等を決定した日や支払等をした日等が、合理的であるといえること(例えば、事前の取決めに基づき、子会社が決算期末で減額調整される金額の明細書を当社に送付し、当社では当該金額を価格調整金として計上し、子会社に送金している場合など)

といったことを証明できる必要があるものと思われます。

※移転価格事務運営要領の別冊「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」事例26(価格調整金等の取扱い)に価格調整金の事例が載っていますので、是非一読してください。

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