今回は、1年のうちインドネシアに250日以上滞在していたにも関わらず、客観的に「生活の本拠」は日本にあったとして日本の居住者に該当するとされた裁決事例を紹介します(平成29年1月23日裁決)。

■事実関係

個人Xは、過去に日本法人及びインドネシアに設立された法人の役員を務めていたが、これらを平成16年頃に退職し、その後は特定の職業に就いておらず、平成25年おいては、厚生年金等の公的年金を受給していた。

Xは、日本及びインドネシアに滞在しており、平成25年におけるそれぞれの合計滞在日数は、日本102日、インドネシア259日(このほか、インドネシア以外の外国に4日滞在)であった。

また、Xには生計を一にする妻と共有している土地上に建てた家があり、同所を住民票上の住所(肩書住所地)とするとともに、日本滞在中は本件居宅で起居していた。また、妻は25年中は一度も出国したことはなかった。

課税庁がXの平成25年分の所得税等の確定申告について更正処分を行ったところ、Xは、「インドネシアに住居を有し、年間250日以上インドネシアに滞在していたことから、インドネシアを生活の本拠としており、所得税法上の非居住者に該当する」として処分の取り消しを求めた事案である。

■審判所の判断

審判所は、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいい、ここにいう「住所」とは、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきであると指摘した。

その上で、本件について以下のように判断した。

①Xがインドネシアに滞在するために取得していたビザは、インドネシアにおいて就労を行わないこと、一定額の年金を受給していること、指定された地域において一定額以上の賃料の賃貸物件等を借りることなどを取得条件とする、いわゆるリタイアメントビザであったこと。

②Xは、特定の職業に就くことなく、その収入の大半を、日本の証券会社とのインターネットを利用した有価証券取引によって得ていたこと。

③Xは、妻と共有している土地上に建築した居宅を所有し、同所に住民票上の住所を定めるとともに、日本滞在中は本件居宅において起居していたこと。

④Xの妻は、Xと生計を一にし、25年中は日本から出国したことはなく、本件居宅に居住していたこと。

⑤Xが、インドネシア滞在時に起居していたのは、バリ島所在の長期滞在型ホテルの一室であったこと。

⑥Xは、国外資産はほとんど有していなかったこと。

⑦Xは、肩書住所地を自己の住所として国民健康保険に加入し、また、平成25年分の所得税等の確定申告書でも、自己の住所を肩書住所地と記載していたこと。

などの事情を総合的に考察すれば、客観的に生活の本拠たる実体を有していたのは日本国内であると認定し、Xは日本の居住者と認められると判断した。

 

■コメント

住所や居所が日本国内にあるか否かの判定は課税上大変重要である。

住所とは「各人の生活の本拠」であり、その判定にあたっては、客観的事実、すなわち、その個人の住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等を総合して判定することとされている。

よって、本件のように外国に1年の半分以上滞在していたとしても、日本の居住者となる場合があるので注意が必要である。

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