2018年5月に設立が発表されたマネーフォワードフィナンシャル株式会社(本社:東京・港区、代表取締役社長=神田潤一氏、以下「MFフィナンシャル」)は、2018年夏よりブロックチェーン・仮想通貨の専門メディアを立ち上げ、同年内に仮想通貨交換所の開設を目指している。神田社長から事業の方向性、仮想通貨業界全体の展望について話を聞いた。

神田潤一代表取締役社長

2018年中に実現したい2つのサービス


 

ー このタイミングで「仮想通貨」に参入することを決めた背景を教えてください。

マネーフォワードのユーザーにアンケートを実施した結果、仮想通貨に対する関心が非常に高いということが分かりました。3~5年後を見据えたとき、仮想通貨は大きなビジネスの可能性を秘めていると私どもは考えています。できるだけ早く新しいサービスを提供できるよう、業界のイノベーションをキャッチアップしていきたいと考えています。

― マネーフォワードグループ内におけるMFフィナンシャルの立ち位置を教えてください。

仮想通貨に関するサービスは、既存のサービス内でできること、できないことがあります。例えば、仮想通貨の取引状況を『見える化』することは、既存のサービスで実現しています。すでにいくつかの仮想通貨取引所のデータを扱い、将来的には全ての残高が把握できるようになるでしょう。仮想通貨の損益計算や確定申告のためのデータ整理サービスも考えています。

一方で、既存のサービスの外で新たに行うべき事業があると考えます。ユーザーアンケート結果の中には、仮想通貨に対して「不安がある」や「よく分からない」という声がありました。そこで、ユーザーが抱えている不安や疑問を解消し、規制の動向を伝えるメディアの運営を始めます。さらに、仮想通貨の不安や疑問を解消されたユーザーが仮想通貨取引を始められるよう、仮想通貨交換所を開設します。将来的には、ユーザーが中長期的に仮想通貨を保有し、それを決済に使えるようなサービスも提供したい。これらがMFフィナンシャルの担う役割です。


メディア運営も交換所運営も仮想通貨サービスの入り口


 

― メディア運営を始めるとのことですが、既に世の中には仮想通貨メディアが存在します。それらの中には、自社のPR色の強いメディアもあります。MFフィナンシャルはどのようなメディアを目指していますか。

マネーフォワードグループは『MONEY PLUS』というメディアを運営しています。マネーフォワードのプロダクツに直接は関連しない情報を扱い、中立的な立場で記事を発信していることから、メディアとしてユーザーから高い評価をいただいております。そのような実績に倣い、これからはMFフィナンシャルが新たなメディアを運営し、仮想通貨に関連する中立的な記事を提供していきます。「仮想通貨とは何か」「海外の規制の動向」など、仮想通貨の理解を広げる内容が中心です。その結果、仮想通貨のすそ野を広げることになり、業界全体のためになります。そのことが、中長期的にはマネーフォワードのユーザーが増えることにつながると考えています。まずは、内部だけでなく、外部メディアと連携し、高いクオリティーの記事を提供していきます。

― 金融庁に申請中の仮想通貨交換所は、既存の交換所との差別化についてどのように考えていますか。

交換所はサービスの入り口だと位置づけています。将来的には、残高を管理し、長期保有し、必要なときに送金したり決済したりできるトータルの仕組みを提供していきたい。それがマネーフォワードらしいサービスと考えています。仮想通貨交換所の運営を始めても、単純に手数料競争にならないようにします。私どもの想定する仮想通貨交換所のユーザーは、仮想通貨を短期的に売買する人よりも、中長期的に資産運用したいと考える人たちです。そのようなユーザーが仮想通貨を買いたいと思ったとき、シンプルに価格が提示され納得して売買できる仕組みを提供できることが、私どもの理想とする仮想通貨交換所です。

― コインチェック問題を発端に、交換所認可に対する金融庁の認定基準がかなり厳しくなったと言われています。仮想通貨を取り巻く規制についてどのようにお考えですか。

日本の仮想通貨制度は、2017年に改正資金決済法が施行され、利用者の保護とマネーロンダリング対策が義務付けられるようになりました。各国に先駆けて行われた制度整備は、世界各国から高い評価をいただいています。その結果、世界の取引が日本に集まりました。ユーザーが急速に増え過ぎた側面もありますが、「新しい産業を作る」という視点で見ると、日本は世界より一歩も二歩も前に出た状況と言えるかもしれません。これからは、もっと事業者のレベルを上げ、イノベーションを大切にしながら、自主的な取り組みの中で規制とのバランスをとることが大切だと考えています。

― 仮想通貨で信金調達するICOが一部で注目されています。MFフィナンシャルは、法人向けICO支援に取り組むお考えをお持ちですか。

正直、現在の事業構想にICOは入っていません。MFフィナンシャルの強みは情報を見える化することで、通貨発行をサポートすることではありません。方向性が少し違うと感じています。ただし、将来的には有望な中小企業の資金調達手段などの形でユーザーのニーズが高まる分野かもしれませんので、研究は続けます。そもそも仮想通貨には、ユーザーが自分のお金のあり方や価値を決めていくという特徴があり、そうした将来のイノベーションの可能性は追求していきたいと考えています。


会計事務所にとっての仮想通貨


 

― 仮想通貨の取引額は、平成30年1月現在でBTCは約2兆7千億円、ETHが約1兆3600億円になりました。会計事務所がクライアントの仮想通貨取引に関与するにあたり、注意しておくべきポイントはありますか。

仮想通貨取引にかかる税制については、国税庁から通達が出ています。最低限そこは抑えておく必要があるでしょう。今後は、税制のあり方が見直されていく可能性がありますので、専門家の税理士や公認会計士から正しい情報を発信していくことが求められると思います。

現状の税制では、仮想通貨が投機的な資産とみられていることもあり、高い税率が適用されています。しかし、決済や送金としての利用目的が広がると、それに相応しい税率に変化していくべきではないかと個人的には考えています。

― 税制は仮想通貨の普及に大きく影響すると思いますか。

仮想通貨は、決済や送金における手数料の低さがメリットであり、期待感が高くなっています。ところが、税負担が重くのしかかってくるとそのメリットが失われてしまいます。また、税制が複雑であれば、損益計算が面倒だということになり、仮想通貨の利用は広がらないかもしれません。ユーザーの利用実態に合わせて税制が変化していくことが望ましいと思います。

― 仮想通貨の分野で個人だけでなく、会計事務所や法人をサポートする事業を考えていますか。

現状、ユーザーから税務手続きのお問合せもありますし、一部、税理士や公認会計士からは「お手伝いしたい」という声をいただいております。今のところMFファイナンシャルに、税務手続きの確固たるメソッドやツールがあるわけではなく、当面は会計事務所の取り組みと個別に連携することになりそうです。将来的に、会計事務所から「税務手続きのサポートを強化してほしい」というニーズが高まれば、より積極的に支援していくことになるかもしれません。


マネーフォワードフィナンシャル株式会社
代表執行役社長
神田潤一


 

東京大学経済学部卒。1994年日本銀行に入行、金融機構局で金融機関のモニタリング・考査などを担当。2015年8月から2017年6月まで金融庁に出向し、総務企画局 企画課 信用制度参事官室企画官として、日本の決済制度・インフラの高度化やフィンテックに関連する調査・政策企画に従事。2017年9月から株式会社マネーフォワード執行役員。2018年3月、マネーフォワードフィナンシャル株式会社代表取締役社長。

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マネーフォワードフィナンシャル株式会社
https://corp.mf-financial.jp/