総務省の「ふるさと納税に関する現況調査結果」によると、全国の地方団体に寄せられた、ふるさと納税寄附額は5年連続で過去最高を記録した。一方、返礼品目当ての寄附や一部地方団体の返礼品の大盤振る舞いは依然続いており、この結果、本来住民税として入ってくる税収2500億円近くが他の地方団体に流出している。制度導入の目的の一つである“真の寄附文化の醸成”はまだ道半ばだ。

ふるさと納税は、自分の生まれた故郷や応援したい自治体に対する寄附金のうち2千円を超える部分について、一定の上限まで、原則所得税・個人住民税から全額が控除される制度。平成20年度税制改正で導入され、めでたく10年を迎えた。

しかし、制度導入後6年間は、わが国に寄附文化が根付いていないことや、認知度もそれほど高くなかったことから低迷が続き、存続の危機とすら言われたこともあった。しかし、国が積極的に制度の周知を図るとともに、平成27年4月1日から確定申告が不要な給与所得者等については、ふるさと納税先の自治体数が5団体以内であればふるさと納税を行った各自治体に申請することで、確定申告が不要になる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」を取り入れるなどの法改正が実施されたほか、寄附を受けた地方団体も魅力的な返礼品を続々と登場させたことで、平成26年以降は急上昇で伸びている。

ふるさと納税の受入額及び受入件数(全国計)

7月6日公表 総務省の「ふるさと納税に関する現況調査結果(平成29年度実績)」より引用。 ※ 全地方団体(都道府県及び市区町村)を対象に調査を実施。 ※ 受入額及び受入件数については、各地方団体で「ふるさと納税」と整理しているもの(法人からの寄附を含む地方団体もあり)。 ※ 平成23年東北地方太平洋沖地震に係る義援金等については、含まれないものもある。 ※ 「平成27年度」から「平成29年度」の欄のうち、()内の数値はふるさと納税ワンストップ特例制度の利用実績(把握している限りのデータを回答している地方団体もあり)。

5年連続過去最高を更新中

平成30年3月までの1年間における全国の地方団体が受け付けたふるさと納税の件数は1730万1584件で、その寄附額は3653億1667万円となった。前年度と比べると、それぞれ約1.36倍、約1.28倍になるとともに、件数は制度導入以来増え続け、寄附額は5年連続で過去最高を更新している。

「大阪府泉佐野市」がダントツでトップ

寄附受入額の内訳を見ていくと、後述するが紆余曲折した総務省の返礼品の自粛要請を受け地方団体が独自の判断をした結果、地方団体により受入額が大きく変動した。

都道府県別にみると、北海道が365億300万円(寄附件数220.3万件)で最も多く、以下、佐賀県315億4700万円(同171.2万件)、宮崎県249億300万円(同155.3万件)と続いている。

ちなみに、前年度よりも寄附額が減っている地方団体は、埼玉県・千葉県・富山県・長野県・三重県・島根県・広島県・愛媛県・熊本県の9県。

地方団体別では、トップが大阪府泉佐野市の135億3300万円(寄附件数86.2万件)で唯一100億円を超え、2位は「宮崎県都農町」の79億1500万円(同43万件)、3位は前年1位だった「宮崎県都城市」の74億7400万円(同52.3万件)で、泉佐野市は2位以下を大きく引き離してダントツ1位となった。

34%の地方団体は寄附金の活用状況を公表せず

ふるさと納税を募集する際の使途(ふるさと納税を財源として実施する事業等)を選択できる地方団体は全体の94.5%で、そのうち具体的な事業が選べるのは14.3%。使途として明示しているものとして多いのは、「観光・交流・定住促進」「スポーツ・文化振興」「教育・人づくり」などで、具体的な事業としては、例えば、福井県坂井市の「みんなでこどもの安全見守りたい」、岐阜県多治見市の「美濃焼担い手育成」、大阪府吹田市の「おおさか・すいたハウス支援基金」などがある。

これに対して、集めた寄附金の活用状況(事業内容)について公表していない地方団体は減少しているが、それでも29年度で34.4%と3割を超えている。寄附した者としては、自分の寄附がどのように使われたかを知りたいことを考えると、日本の寄附文化を進めていく上でここの辺りは今後の課題と言えるだろう。

 

ふるさと納税経費は総額で寄附額の55.5%

ふるさと納税寄附を得るための募集費用や返礼品等といった経費は、全団体合計で2027億700万円。受入額に占める経費割合をみると、最も多いのは「返礼品の調達費用」で38.5%と約4割となっていて、平均ではあるが未だ総務省が掲げる返礼品割合を超えている。以下、「事務費用等」6.8%、「返礼品の送付費用」6.6%、「決済等費用」2.1%、「広報費用」1.5%となっており、経費全体としては寄附の55.5%にもおよび、寄附の半分以上がこの段階で消えていることになる。

総務大臣の発言に一喜一憂!?

ここ数年来物議を醸しているのが「行き過ぎた返礼品問題」だ。

返礼品自体はあくまで地方団体が寄附をしてくれた人への感謝の気持ちとして送っているもので法律に定められているものではない。このため、制度導入当初はささやかな返礼品も多かったが、外部のアドバイザーから助言を受けて地元の高級物産やギフト券等を取り扱う地方団体が出てくると、マスコミも取り上げるようになり寄附額が増加した。さらに返礼品の紹介や直接寄附の手続まで行えるサイトが次々現れたことから、簡単に寄附を行える環境も整い、寄附を獲得するためさらなる高価な返礼品や、返礼割合が7~8割といった返礼品が次々用意され、寄附金獲得のための返礼品競争が激化した。

この結果、もともと(住民税の)税収の少ない地方団体からは、住民が他の地方団体へふるさと納税を行うことでさらに減収につながり財政が逼迫するとともに、これに伴い地方行政のサービスの低下にも繋がっているとの声が大きくなった。この様な状況等が問題視され、当時総務大臣だった高市早苗衆議院議員が行き過ぎた返礼品の自粛を求める通知を行ったが、効果はあまりあらわれなかった。そのため、昨年4月1日、以下の返礼品については、“換金性や地域への経済効果等の如何にかかわらずふるさと納税の返礼品としてはふさわしくない”とより具体的に自粛をもとめる通知を行った。

・プリペイドカードや商品券などの金銭類似性の高いもの

・電子機器・貴金属・宝飾品・カメラ等の資 産性の高いもの

・価格が高額なもの

・寄附額に対する返礼品の価格の割合(返礼割合)の高いもの

また 通知では、返礼品割合が3割を超える地方団体は、速やかに3 割以下とすることや、行き過ぎた返礼品を送っていると考えられる地方団体に対しては、同省が直接見直しの要請を行うことも決めるなど、返礼品の適正化に向け本腰を入れた。

これを受けた前年度寄附受入額1位の宮崎県都城市をはじめ地方団体は見直しに着手。一部の地方団体を除き家電製品や商品券などはほとんど姿を消し、また返礼品の量を減らすこと等で返礼品割合を下げた。

ところが、3か月後の昨年7月に総務大臣となった野田聖子大臣は、就任直後、「ふるさと納税は 地方団体にお任せするのが当然。ふるさとへの寄附を直接、自分の意志で出来るという仕組みや、脆弱な財政の地方が必要なことをふるさと納税で自由にできるという流れが大事であり、いたずらに(返礼品を)止めることがあってはならない」とのスタンスを明らかにした。その上で、返礼品の選択を地方団体の裁量に任せることとし、「平成30 年度は通知を出さない方向で検討する」と発言。

この発言がどのくらい影響したかは定かではないが、見直しを検討していた地方団体の中には、急きょ微調整で済ませたり、現状維持を選択したところもあり、結果的に地方団体により対応に大きな差が出た。

ところが、野田大臣は今年4月、出さないとしていた返礼品の送付等についての通知を行った。これは、地場産業の品が全く入っていないカタログギフトや他県の名産品を謳った品、海外産のワインや輸入品の調理道具などを返礼品としている地方団体が見受けられるためで、ふるさと納税の重要な役割の一つ「地域資源を活用し、地域の活性化を図ること」から見て、是正が必要との判断からだ。

通知では、①ふるさと納税のさらなる活用に向けた取組の推進、②返礼品の送付に関しては平成29 年4 月の通知に沿った対応を、③各団体が見直しを進める中、返礼割合が3 割超の団体には良識のある対応の徹底の3 点に加えて、④地方団体の区域内で生産されたものや提供されるサービスとすることが適切であり、地場産品以外の送付については良識のある対応をすることの要請を追加した。

地方団体の反応

この総務大臣名による今年4月の自粛要請の通知に対する地方団体の対応だが、今年8月までに見直す意向はないと総務省に回答した地方団体も少なくなかった。このため、総務省は今回、寄附受入額が10億円以上で自粛要請を受けても返礼品を見直す意思がない地方団体名を明らかにした(カッコ内は受入額)。

茨城県境町(受入額21.6億円)、岐阜県関市(同14.1億円)、静岡県小山町(同27.4億円)、滋賀県近江八幡市(同17.7億円)、大阪府泉佐野市(同135.3億円)、福岡県宗像市(同15.6億円)・上毛町(同12.1億円)、佐賀県唐津市(同43.9億円)・嬉野市(同26.7億円)・基山町(同10.9億円)・みやき町(同72.2億円)、大分県佐伯市(同13.5億円)

ただし、通知には強制力がないことから、これら地方団体では8月以降も見直す予定はないようだ。

 

住民税控除額は2千億円を突破

一方、平成30 年度の個人住民税におけるふるさと納税に係る寄附金税額控除適用者数は、295万9千人と70万人近くも増え、その寄附額は3481億9千万円と前年度に比べ35.7%増加した。これに係る住民税控除額は前年度分に比べて37.3%多い2447億7千万円に達して、初めて2千億円を超えている。

控除適用者を都道府県別でみると、依然として大都市部からの地方都市への“税流出”傾向が続いており、東京都が適用者数63万8405人(納税額931億1100万円・控除額645億7600万円)でトップ。以下、神奈川県が31万6128人(納税額354億1900万円・控除額257億2100万円)、大阪府が27万2,355人(納税額292億8,000万円・控除額211億9,200万円)と続く。

「ふるさと納税に係る住民税控除額等の推移(全国計)」

7月27日公表 総務省の「ふるさと納税に関する現況調査結果 (平成30年度課税における住民税控除額の実績等)」より引用。 ※ 各年度の計数は、前年中(例えば、平成30年度については、平成29年1月1日~12月31日の間)のふるさと納税に係る各年度における控除の適用状況。 ※ 平成21年度から平成29年度までにおけるふるさと納税額、住民税控除額及び控除適用者数は、各年度の「市町村税課税状況等の調」をもとに算出した計数。 ※ 平成28年度から平成30年度までの欄のうち、( )内の数値は、ふるさと納税ワンストップ特例制度の適用実績。

ふるさと納税を活用した災害支援

ふるさと納税については、前出のように「行き過ぎた返礼品競争」がクローズアップされているが、ふるさと納税を活用した地方団体・民間がクラウドファンディング型の新たな取組みや、起業家支援も行われるようになってきたほか、東日本大震災以降、災害発生時にはふるさと納税を利用しての返礼品のない支援寄附にも多数の人から寄附が寄せられており、ふるさと納税の導入は国民が寄附しやすい環境を整えていることもまた事実だ。

今後は“世界にも誇れるふるさと納税”となるように制度設計の見直し等が行われることを期待したい。