「誰でも・カンタンに・素早く」ウェブページを作成できるサービス『ペライチ』。同事業を日本全国に広めているのが創業者である山下翔一氏だ。ペライチは、同事業を都市部よりも、地方の企業への普及により力を入れている。そのため山下氏は、地方に足を運び、企業の経営者や個人の人々と対面の交流に多くの時間を費やす。スタートアップ企業や会計事務所でも多く利用されているペライチ。創業の想いや戦略、なぜ今あえて地方に目を向けるのかなどについて話を聞いた。
──「ペライチ」のサービスについてお聞かせください。

ペライチは「誰でも・簡単に・最短10分で」、集客力が高くスマートフォン対応のホームページを作成できるWebサービスです。「ペライチ」という名の通り、基本的には縦長の1ページに、すべての情報を掲載するのが特徴で、とくに専門知識がなくても高品質なオリジナルページを作ることが可能です。無料から利用でき、2015年のサービス開始以来10万ユーザーを突破しました。
──創業の経緯について教えてください。
橋田、香月、そして私山下の3名で創業しました。創業当時の役割としては橋田と香月がエンジニアとしてペライチの開発をやってくれていて、私はペライチのマーケティングやPRやユーザーサポート、会社の資金をコンサル等で稼ぐなど、開発以外の全てを担当していました。私は佐賀県出身なのですが、創業からの想いとして「地方から日本を元気にしたい」ということがありました。
日本にインターネットが登場して20年以上が経ちますが、とくに地方の小さな法人や個人・個人事業主はほとんどITを有効活用できていませんでした。今でも私は月の半分以上は地方を飛び回っていますが、現時点でも10%も活用できていないと感じています。これまでは「売り方」が上手い企業がどんどん売上を伸ばしていきました。ITの活用を通してプロモーションを民主化することで、全国の事業者が会社の規模の大小問わずに「価値ある商品やサービスで勝負できる世界」を実現できると思い、その「はじめの一歩のサービス」として「ペライチ」が生まれました。
──検討の末に、「簡易なホームページ作成サービスが第一歩」という結果に至った経緯を説明してください。ホームページ作成なら、世界中で多くの企業・個人が提供しています。
ホームページやネットショップというのは、ビジネスにおけるネット利活用の第一歩となりうるものです。なぜならば、地方の若者からお年寄りまで名前と概念はほとんどの人が知っています。それでいて活用できれば世界をマーケットに勝負ができるツールです。
一方で、ホームページやネットショップの作成は、意外と導入ハードルが高いため所有率が低く、かつ制作できたとしてもそのほとんどが有効活用できておらず、更新すらされていないケースがほとんどです。
また、リリース当時にも世界を見渡せばホームページやネットショップの作成サービスはありましたが、いくつかの課題がありました。1つ目は、多層構造型のサイトが主流だったこと。スマホからのアクセスが大多数をしめる現代において、クリックをして他のページに遷移する従来の多層構造型のホームページでは離脱が多く、スクロール型のページが求められていました。2つ目は、当時のサービスでは「簡単」といっても、日本の地方にいるご高齢の方や主婦の方々には難しすぎて、つくろうとさえ思われておらず、つくろうとしてもほとんどがページ公開までいきつかずに途中で断念されていました。3つ目は、ページをつくったとしても「成果がでない」というものです。いくらページ作成に時間とお金をつぎこもうと、成果がでなければそのページの価値は無いと前職の広告代理店時代から考えていました。
そのため、IT活用のはじめの一歩として「売れるホームページ」や「売れるネットショップ」が相応しいのではないかと考えました。基本無料、有料プランでも安価でご提供しているのは「私達が救いたい方々が費用をあまりかけられない」という事実と「販売促進にお金と時間を使うのではく、商品やサービスの価値を高めることに投資をして欲しい」という我々の想いからです。
現在は、資本力のある企業が多大な広告をうち、新規顧客を開拓して売り上げを伸ばしています。その利益でさらに広告を打つ、というスパイラルが続いていますが、本来ならば販促云々でなく、優れた商品や優れたサービスを生み出している企業こそ評価されるべきと考えています。資本力やプロモーションの巧拙でなく、本質的な商品やサービスの価値で勝負できるような世の中になればとの思いがあり、その土台として「ペライチ」というプラットホームを用意したわけです。
――IT以外にも地方が抱える「課題」は色々ありますが、ホームページ作成以外にも地域創生の取り組みをされていますよね。
はい。一般財団法人 カブジチコンソーシアム(東京・新宿区)を立ち上げ、代表理事として、地域活性化のお手伝いを行っています。その法人以外にも、2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に全国の小さな自治体を世界にPRしようという「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合(会長:三条市長 國定勇人さん)」という団体の自治体をバックアップする企業側の代表を務めております。こちらは経済産業省と連携して進めています。また「一般社団法人 中小・地方・成長企業のためのネット利活用による販路開拓協議会(発起人:ソウルドアウト株式会社代表取締役社長CEO 荻原 猛さん|名誉理事:前・内閣府副大臣(地方創生、国家戦略特区、クールジャ パン戦略などを担当)平 将明さん)」という法人でも委員長を務めています。
活動元は違うものの、月の半分は全国の地域を訪れ、地域活性化のお手伝いをさせていただいております。
――IT企業の経営者とは思えない、昔ながらの泥臭い活動ですね。
IT企業の人なら、ITを活用すれば、もっと効率的に地方とのネットワークを構築することを考えるでしょうが、私は対面で心を通わせない限り、特に地方においては本当のネットワークは構築できないと考えています。自ら実際に足を運び、地域での交流に力を入れることで、このネットワークから本当にその地域が抱えている課題が見えてくるものと確信しています。課題が分かれば、その課題解決のためにITで解決できる部分は利用していけば良いわけです。
たとえば、私が生まれ育った佐賀県にある人口2万人ほどの町ですが、ここは日本の未来の縮図です。急速に進む少子高齢化で、都市部以上に独居老人が増え、孤独死が増えているのです。それらの課題解決のために、とあるITデバイスを地域のご老人にお配りしました。そしてそのデバイスを押すとその街に常駐する弊団体のスタッフと通信が可能になり、悩み相談が受けられたり、ご自宅までお伺いしてワンコインで御用聞きサービスを受けられたりしています。
このようなサービスを通して、オンラインだけでなく直接的なコミュニケーションを重ねることで、情報収集だけでなく、引きこもりがちな高齢者と外部とのコミュニケーションを図るお手伝いもしています。直接的なコミュニケーションが増えると、気分がのって外出する方々も増え、その先にその高齢者が地域でできることは何かないか考え、自治体と力を合わせて仕事を依頼することもします。こうなると、高齢者もさらに社会との接点が強くなり、自ずと元気な独居老人も増えていくのです。
地方創生において本当に大切なのはITなどの「仕組み」ではなくではなく、人々の意識や心がけだと思っています。人々の意識を変えていくのは決して簡単なことではありませんが、アナログとデジタルを融合して課題解決にあたることが、大切だと考えています。