最近では、中堅・中小企業に対する移転価格調査も積極的に行われており、海外子会社への貸付金の利息の適否が問題となるケースもよく見受けられます。今回紹介する裁決では、利息の独立企業間価格の算定に当たり、「米国債の利率による方法」が相当と判断されました(平成29年9月26日裁決)。

■事実関係

日本法人であるX社は、海外子会社であるY社に対して、米ドルの貸付(「貸付1」及び「貸付2」)を行い利息を収受していた。

これに対し国税当局は、当該利息が「貸手の銀行調達金利による方法」により算定した独立企業間価格(米ドルのスワップレートにスプレッドを加えた利率)に満たないとして、独立企業間価格との差額を課税した。課税処分を不服としたX社は、課税処分の取消を求めて審査請求した。

■審判所の判断

 金銭の貸借取引について、移転価格事務運営指針に基づいて独立企業間価格を算定する場合、まず、「借り手の銀行調達利率による方法」を用いることで、借り手が所在する国内における金融市場の取引状況を最も直接的に反映させることができる。

また、仮に「借り手の銀行調達利率による方法」を用いることができない場合には、「貸手の銀行調達利率による方法」を用いることで、貸手が所在する国内における金融市場の取引状況を反映させ、借り手の銀行調達利率に近似した利率を算定することが可能となる。

さらに、「借り手の銀行調達利率による方法」及び「貸手の銀行調達利率による方法」のいずれも用いることができない場合には、借り手又は貸手の信用力等に基づいて金融機関等により付される利率を直接反映して独立企業間価格を算定することはできないものの、国に対する金銭の貸付けであり、金融取引の中でも極めて安定性の高い「国債等の運用利率による方法」を用いることで、一般的な金融取引における市場金利を反映させることができる。

このように、移転価格事務運営指針では算定方法の優先順位を設けており、この優先順位に従って各算定方法の適用の可否について検討すると次のようになる。

  

(1)「借り手の銀行調達利率による方法」について

Y社は、非関連者である銀行等からの借入れの実績がないことから、借り手の銀行調達利率による方法を採用することはできない。

(2)「貸手の銀行調達利率による方法」について

国税当局は、米ドルのスワップレートに、X社の関与税理士法人を通じて、主要取引銀行の担当者から回答を得たスプレッドを加算した利率を用いて、各貸付けに係る独立企業間価格を算定したが、この回答は主要取引銀行による正式な回答ではなく、その根拠についても記録が残されていない。よって、国税当局が用いたスプレッドは、X社が各貸付けと同様の状況で銀行等から借り入れた場合のスプレッドとして正確性を有するとは認められず、これを採用することは相当でない。

したがって、貸手の銀行調達利率による方法を採用することはできない。

(3)「国債等の運用利率による方法」について

本件各貸付には、以下の通り、発行日が貸付開始日に近接し、発行日から満期償還日までの期間が貸付期間に近似する米国債が存在することが認められた。

このように、各米国債の利率は、各貸付けに係る資金を通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用した場合に得られるであろう利率に当たると認められることから、各米国債の運用利率による方法を採用することが相当というべきである。

■その他の争点

イ 会社側は、本件各貸付けは、子会社に対する支援のために行われたものであり、法基通9-4-2の「子会社等を再建する場合の無利息貸付け等」に該当することから、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱われるべきであると主張した。これに対し、審判所は、本件各貸付けは、子会社の設立日の直後から行われており、子会社は貸付けを受けた金銭を土地購入、設備投資及び運転資金といった事業用資金に供していることから、本件各貸付けは、子会社の設立に伴って必要となる資金を調達するために行われたものというべきであり、子会社を再建するための無利息貸付け等には該当しないと判断した。

ロ 会社側は、本件各貸付けにおいて適用した2.00%の貸付利率は、K国課税当局の税務調査を受けた際の指摘に基づくもので、適正な利率である旨主張した。これに対し、審判所は、仮に2.00%の貸付利率がK国課税当局の税務調査を受けた際の指摘に基づくものであったとしても、かかる事情をもって本件各貸付けに係る利息の額が独立企業間価格で行われたものと認めることはできないと判断した。

**********************
多田税理士への講演依頼・問い合わせは下記まで。
**********************

租税調査研究会事務局
tax@zeimusoudan.biz