海外の中古不動産の減価償却を用いた節税策が富裕層の間で流行しています。この節税策については、会計検査院が発表した報告書の中で問題視しており、今後税制改正に反映される可能性があります。

国の財政の執行を監視し検査する行政機関である会計検査院は、国外に所在する建物を取得し、多額の減価償却費を計上して不動産所得に損失が生じている納税者が見られたことから、国外に所在する建物に係る減価償却費の算定方法は建物の現状に適合しているかなどに着眼して検査を行った。

・検査の対象期間:平成23年〜25年分
・検査の対象税務署:麹町税務署等10税務署

検査結果の報告の概要は次の通りである。

会計検査院による報告の概要

■耐用年数の状況

中古建物について、耐用年数ごとの件数の割合を国内国外別にみると、国内に所在する中古建物は、耐用年数が11年以上となっているものが過半を占めていた。

一方、国外に所在する中古等建物は耐用年数が4年、7年又は9年となっているものが著しく多くなっており、とりわけ4年となっているものが国外に所在する中古等建物全体の約半数を占めていた。

 

■賃貸料収入に対する減価償却費の状況

減価償却費を賃貸料収入と比較すると、国内に所在する中古建物については90.1%が、賃貸料収入の半分以下となっていた。

一方、国外に所在する中古建物については、83.2%が賃貸料収入を上回る状況となっていた。

 

■問題となった事例

中古建物に係る減価償却費を計上して所得税額が減少した後、当該建物を長期間にわたって事業の用に供し続ければ、将来的には減価償却費を計上できなくなることから、不動産所得が増加し、所得税額が増加することになる。しかし、国外に所在する中古建物を譲渡したり、日本から出国して非居住者となり、日本の所得税法の適用を受けない者になれば、将来的に増加することになる所得税額の一部を負担しないことができる。

こうして将来的に発生する所得税を回避していた事例が、以下の通り見られた。

 

 

【事例1:減価償却終了後に中古建物を譲渡していた事例】


納税者Aは、平成17年7月に国外に所在する土地及び中古建物を1億9450万余円で取得し不動産事業の用に供していた。そして、この中古建物に係る耐用年数を6年として23年までの間に減価償却費計1億5171万余円を不動産所得の必要経費に計上し、これにより発生した不動産所得の損失を、各年分の給与所得等と損益通算を行っていた。

そして、Aは25年1月に当該土地及び中古建物を1億9088万余円で譲渡していた。この譲渡所得の金額の計算に当たり、総合課税の税率に比べて低い長期譲渡所得の税率が適用されたため、全体としては所得税額の負担が減少することとなった。

更に、Aは、同年11月に新たに国外に所在する土地及び中古建物を2億5165万余円で取得し、不動産事業の用に供していた。


 

【事例2:減価償却終了後に日本を出国し、非居住者となっていた事例】


納税者Bは、平成17年4月に国外に所在する中古建物を4億177万余円で取得し、不動産事業の用に供していた。そして、この中古建物に係る耐用年数を7年として減価償却費を不動産所得の必要経費に計上し、これにより発生した不動産所得の損失を、給与所得等と損益通算を行っていた。

Bは、24年12月に日本から出国して非居住者となり日本の所得税法の適用を受けない者になっていた。


 

■会計検査院の所見

こうした検査結果を受け、会計検査院から、次のような所見が出された。

国外に所在する中古等建物については、簡便法により算定された耐用年数が建物の実際の使用期間に適合していないおそれがあると認められる。そして、賃貸料収入を上回る減価償却費を計上することにより、不動産所得の金額が減少して損失が生ずることになり、損益通算を行って所得税額が減少することになる。

したがって、本院の検査によって明らかになった状況を踏まえて、今後、財務省において、国外に所在する中古の建物に係る減価償却費の在り方について、様々な視点から有効性及び公平性を高めるよう検討を行っていくことが肝要である。

本院としては、中古の建物に係る減価償却費について、引き続き注視していくこととする。』

今後の税制改正の動向に注意!

会計検査院から指摘がなされた場合、将来的に税制改正が行われ、こうした節税手法が使えなくなる可能性が高いといえる。改正の方向性は明らかではないが、『海外の中古資産に係る簡便法の適用が制限されるのではないか。』『中古資産用の法定耐用年数が新たに設けられるのではないか』などが噂されている。海外不動産を用いた節税を考えている者は、今後の税制改正の行方に注意を払う必要があるだろう。

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