平成30年3月末までの1年間に発生した国税の新規滞納割合は、徴収決定済額の1%程度になることが分かった。これは、国税庁の平成29年度滞納整理状況で明らかになったもの。滞納残高もピーク時の3割程度まで減っている。国税当局の滞納処理の未然防止策や各種施策から今回の結果について分析してみる。

新規滞納発生額は6155億円

平成29年4月から1年間で国税が納期限までに納付されず国税当局が督促状を発付した新規滞納額は、前年より66億円減少の6155億円と2年連続して減少し、平成4年のピーク時(1兆8903億円)の3分の1程度にまで減少した。税目別の新規発生滞納額をみると、「消費税」が3633億円と全体の半分以上を占めており、以下、「申告所得税」1176億円、「法人税」653億円、「源泉所得税」341億円、「相続税」314億円となっている。前年と比べると「申告所得税」や「法人税」が増えているが、滞納発生割合をみると、徴収決定済額も増えているため、申告所得税や源泉所得税、法人税はこれまでの最低値を記録している。

 

平成29年度 国税の滞納状況(単位:億円)

(注)この表は国税庁データを参考にまとめたもの。                                             1 括弧内の数値は、対前年度比です。2 地方消費税を除いています。 3 平成 30 年4月及び5月に督促状を発付した滞納のうち、その国税の所属年度(納 税義務が成立した日の属する年度)が平成 29 年度所属となるものを含んでいます。 4 各々の計数で四捨五入をしているため、合計が一致しない場合があります。

滞納発生の減少要因は、確定申告期における税務署などでの納税相談時の期限内納付の勧奨に加えて、全国の国税局(所)に設置されている新規滞納の整理を主に行っている「集中電話催告センター室(納税コールセンター)」が滞納整理以外の納期限前や督促状発付前に納付指導などの滞納未然防止のアプローチも行っていることも大きく影響しているようだ。

これらの地道な施策の実施により、新規発生滞納額を徴収決定済額(60兆8203億円)で除した滞納発生割合は、前年度の1.08%から0.07ポイント下がり1.01%と国税庁の発足の昭和24年以降で最低となる1%となった。

国税庁「平成29年度租税滞納状況について」より引用。

納税コールセンターでの完納率7割超を維持

前年度までの滞納額に新規滞納額6155億円を加えた要滞納整理額のうち29年度処理(整理)されたものは6595億円と、前年の7024億円と比べると6.1%減少と2年連続して減っている。これは、処理しやすい新規発生分が減少していること、過年度分の要滞納整理事案のうち処理しやすい事案が少なくなり、残っているものが複雑なものや悪質な滞納事案であることも挙げられる。しかし国税局や税務署の徴収担当部署においては、納税者個々の実情を踏まえながら、各種施策を用いながら消費税滞納を含む滞納事案を確実に処理することに重点を置いての滞納の整理促進に努めるとともに、引き続き大口・悪質事案及び処理困難事案に対しても積極的・集中的に取組んでいる。

国税庁「平成29年度租税滞納状況について」より引用。

各種施策をみていくと、まず大きな成果を上げているのが納税コールセンターによる電話催告。同センターは、国税総合管理(KSK)システムから送られてくる滞納情報から集中電話催告システムが自動的に滞納者へ電話を掛ける。そして、滞納者が電話に出ると担当の同センター職員のパソコン画面に電話口の滞納者の滞納状況が映し出され、職員はモニターを見ながら今後の納税方法等の話し合いが行われる。2018年6月までの1年間には、職員が約83万人の滞納者に催告が行われ、7割超に当たる約60万者が完納し、分割払い等の納付誓約した者の約11万者を合わせると実に85%超の者が完納・納付誓約を行っていることになる。そして、整理済額は2622億円に達し、滞納整理した約4割を占めている。

退職金支払に仮装して納税を拒む飲食店主を脱税免脱罪で告発

通常の滞納整理方法では処理進展が図れない長期滞納事案や、故意に滞納処分の執行を免れる目的で財産を隠すなどの事案に対しては、法的措置を使うことで対処している。

法的措置としては、国が原告となって訴訟を提起する「原告訴訟」がある。原告訴訟としては、差し押さえている債権の弁済期が到来しているにもかかわらず、弁済を滞納者に対して強制的に取り立てる「差押債権取立訴訟」や、実際には滞納者が所有しているにもかかわらず第三者の名義となっている不動産等を差し押さえるために、その財産の名義を滞納者の名義とすることを求める「名義変更訴訟」などがあるが、29年度でも「差押債権取立訴訟」23件(前年度18件)、「供託金取立等訴訟」9件(6件)、「名義変更詐害行為」4件(5件)、「債権届出などその他」131件(129件)の合計167件(158件)の訴訟を提起しており、ここ3年間では最も高い数字となっている。

また、差し押さえなどの滞納処分を免れる目的で、財産の隠蔽などを行った者へは、国税徴収法にある「滞納処分免脱罪」を適用しているが、29年度は6件(8人)を同罪で告発して7人が起訴され、裁判により4人が懲役刑(うち2人には罰金含む)、3人に罰金刑が言い渡されている。

飲食業を経営している滞納者Aの事例では、店舗が入居しているビルの売却に伴い、貸主から立退き料としてAに2500万円が支払われた。調査でこれを知った徴収職員が調べたところ、Aは、振り込まれた預金口座から従業員であった配偶者Bの口座に1500万円、もう1人の従業員の口座に1千万円を振り込んだ後、同日にこれら口座から滞納者が実質経営する別会社の預金口座に同額が振り込まれていることを把握した。このため、Aに説明を求めたところ、Bらに退職金を支払ったあとにその金銭を別会社の新店舗の改装費として貸し付けてもらったとの話を受けたことからBらに聞いた。その結果、退職金の支払い等の事実を知らなかったり、滞納者に頼まれて金銭を移し替えただけとの証言を受けた。徴収職員は、この行為が滞納処分を免れる目的で行った財産の隠蔽にあたるとして滞納処分免脱罪で告発している。その後、Aには罰金50万円の判決が下されている。

一方、滞納処理に関しては、滞納者が海外に財産を持っていても、租税債権の徴収において自国の領域外で公権力を行使することができないという制約がある。しかし、租税条約を結んでいる諸外国との間で、その国の税務当局が協力して互いの租税を徴収する「徴収共助」の規定が含まれている場合では、要請を行うことで滞納者の財産の差押え等の処理の協力を得ることが可能となる。

29年度でも、滞納者Cは、D国には預金等の財産を持っているが、日本には財産の所有がないことから納付催告を行ったものの納付されなかったため、預金等を差し押さえたが多額の滞納国税が残り、徴収が困難であることが想定された。しかし、日本とD国が徴収共助規定のある租税条約が発効していたことから、これに基づきD国の税務当局に対し徴収共助の要請を行ったところ、D国内のC名義の多額の預金の差し押さえ及び取立てが行われるとともに徴収した金銭が日本に送金され、滞納国税約8億円の全額を徴収している。

また、上記以外にも国税局・税務署等がプロジェクトチームを組んで事案にあたったり、年4回インターネット公売を開催して差押え財産の処理を行うなどの施策も行っている。

滞納残高はピーク時の3分の1まで減少

国税当局のさまざまな施策等により新規滞納が抑制され滞納整理が進んでいることにより、平成30年3月末の滞納整理中の額(滞納残高)は8531 億円と前年より4.9%減少。滞納残高は平成11年から19年連続で減少となり、29年度の滞納残高はピーク時である平成10年度(2兆8149億円)と比べるとの30.3%にまで圧縮されている。

平成31年10月1日からいよいよ消費税率が10%に引き上げられる。前掲のように、消費税の滞納発生率は他の税目に比べて高く、またこれまでも消費税が引き上げられた際には事業者等の滞納が増える傾向があり、今回も増加が懸念されている。消費税は預り金的な性格を持っていることや、適正・公平な課税・納税の観点からも、今後国税当局が他の税目以上に消費税の滞納未然防止に万全な体制を敷くことが想定される。