税理士で業務設計士®を名乗る武内俊介氏(株式会社リベロ・コンサルティング代表)が、会計人に求められる「業務設計」について解説するこの連載。5回目は、「freee会計」の仕組みをひも解き、導入により会計人の業務プロセスがどのように効率化するかについて解説します(協力:board/ヴェルク株式会社)。

武内俊介
株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。
金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。
※この連載は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています
AIの進化が、会計業務の構造そのものを変えようとしています。
ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、「会計人の仕事がAIに置き換えられるのではないか」という声も少なくありません。
しかし、AIが変えるのは「仕事そのもの」ではなく、「仕事の構造」です。
つまり、何をどう処理するかという枠組みそのものが見直されつつあるのです。
その構造変化を読み解くには、freee会計がもたらした変化を例に挙げて考えるのが非常に参考になります。
freee会計は、従来は分断されていた経理業務と会計業務を「取引」という共通の枠組みで統合し、業務全体を一気通貫で処理する仕組みを構築しました。
freee会計の登場は単なるツールの刷新ではなく、業務そのものの設計思想を変えたといえます。
つまり、freee会計がもたらした変化を理解することは、これからの会計実務のあり方を考えるうえで重要なヒントになるのです。
freee会計を使いこなすためには会計人はこれまで以上に「業務の流れ」そのものを理解し、設計することが求められるようになっています。
この記事では、まずfreee会計がどのように経理と会計の境界を変えたのかをひも解き、次回はそれを踏まえて、AI時代に会計人の仕事がどのように変化し、そのなかで「業務設計」がなぜ重要になるのかを掘り下げていきます。
経理業務と会計業務の分断
従来の会計ソフトは、経理業務と会計業務はそれぞれ別に処理する前提で設計されています。
ここでいう経理業務とは、請求書の発行・入金確認、経費精算、支払処理といった、いわゆる「社内のお金に関連する業務」であり、会計ソフトの外側で行う業務のことです。
一方で、会計業務は財務諸表を作成するために仕訳を登録し、残高を確認し、決算をまとめるプロセスを指します。
会計ソフトは、「仕訳を入力して財務諸表を作る」ことに特化したツールであり、経理業務の処理を終えたものを月末や月初にまとめて登録するのが一般的です。
中小企業では経理と会計を1人の担当者が兼任するケースも多く、会計事務所などに記帳代行を委託する企業が少なくありません。
これは簿記の起源から考えれば、至極当然の分割です。
簿記は、もともと中世ヨーロッパの商人たちが商取引の記録を正確に残すために発展させた仕組みであり、「経済活動の記録」を主な目的としてきました。
つまり、簿記とはお金や資産の増減を体系的に整理し、後から検証できるようにするための仕組みなのです。
会計ソフトは「記録」のために存在するものであり、リアルタイム性は求められません。
こうした分断を解消するために登場したのがERPです。
ERPを導入すれば、経理処理から会計記録までを一気通貫で処理することが可能になりますが、それは主に大企業の話です。
コストや運用の複雑さが障壁となり、多くの中小企業では依然として経理と会計の間に明確な壁が存在します。
そして現場では、実際の資金の流れや取引先とのやりとりに直結する経理業務の優先順位が常に高くなります。
請求書の発行・入金管理・支払処理といった業務を遅らせると、企業の信用や資金繰りに直接影響するためです。
一方で、会計業務は過去の取引を整理・記録する性質が強く、即時性は求められません。
経理処理はすべての企業で不可欠ですが、会計処理については年に1回の決算時だけでも最低限は成り立ちます。
日商簿記検定などは「どのように記録するか」という会計処理を問う問題が中心ですが、実際の経理担当者の仕事の多くは、その前段階である経理処理の進め方のほうが重要です。
簿記の知識があることでスムーズな経理処理ができるという面はありますが、簿記の勉強だけでは身につかないのが、経理という仕事の奥深さでもあります。
freee会計がもたらした変化
これに対し、freee会計は「取引」という新しい概念を導入しました。
単なる入力形式ではなく、取引の「発生」とそれに対する「決済」をひとかたまりとして扱うという考え方です。
会計ソフトは一つひとつの仕訳を積み上げて集計して、B/S・P/Lや元帳などを表示する仕組みです。
freee会計も仕訳データは保持していますが、直接仕訳を切るのではなく、あくまでも「取引(発生・決済)」を処理した裏に仕訳が生じます。
これによって、経理と会計が分断されることなく、1つの処理の中でスムーズに連携できるようになりました。
逆のいい方をすれば、経理処理をする段階から会計処理のことを考えて対応する必要があるということです。

経理と会計を分断した従来のやり方では、例えばまずは通帳のコピーを見ながら入出金の処理を行い、その後集まってきた請求書を入力し、最終的に元帳の残高を見ながら間違った処理を修正することも可能でした。
それぞれの仕訳伝票には関連性はなく、あくまでも集計することによって残高の増減を計算し、処理が正しいかどうかを確認するという仕組みです。
一方で、freee会計では発生と決済がワンセットであり、発生したものが決済されるという考え方です。
そのため、まずは取引の発生を登録する必要があり、その取引の入出金が行われたことを決済側に記録することで、取引が完結します。
そのため、通帳の明細データを先に処理することはできません。
この構造を成立させるために、freee会計は「口座」という決済手段(銀行、クレジットカード、現金など)を管理するための概念も持っています。

「口座」も単なる勘定科目ではありません。
銀行やクレジットカードの明細データはそのまま保持したまま、取引の決済とひも付けるなどすることで、裏で仕訳データを発生させるという仕組みです。
最近では、ほとんどの会計ソフトで、銀行やクレジットカードと連携して明細データを取り込むことはできますが、それらはそのまま仕訳に変換されてしまうため、日付や金額を変更したり、削除したりできてしまいます。
一方で、freee会計は明細データを編集することはできないため、会計上の残高と実際の明細の残高に差異があればすぐに分かるようになっています。
freee会計の「取引」とは、経理処理と会計処理を一体化させるための仕組みです。
理論上は非常によくできた仕組みに見えますが、長らく経理と会計を分断してきた業界の慣習とはあまり相性が良くありませんでした。
従来の体制では、経理側は会計処理を意識する必要がほとんどなく、会計側で柔軟に対応することが可能でしたし、分断されているからこそ、会計側には即時性が求められていませんでした。
その前提の上に、記帳代行というビジネスも成り立っていたといえます。
「取引」や「口座」という概念は、発生主義で可能な限りタイムリーに記帳した場合には、入出金管理と記帳が一体化されているため、大幅に会計処理の負荷を下げることを可能にします。
しかし、従来の「仕訳のみを別で登録する」というやり方にあった柔軟さは損なうことになりました。

経理業務と会計業務は別々の処理ではなく、ひとつの連続したプロセスとして認識すればうまくいきますが、これまで通りの分断した処理だと考えてしまうと、freee会計は途端に機能不全に陥ってしまうのです。
このfreee会計の構造は、従来の「仕訳中心の会計ソフト」とは発想そのものが異なります。
従来は、経理担当者が日々の取引をまとめて仕訳として入力し、会計帳簿を更新するという流れでした。
しかしfreee会計では、業務処理の結果が、そのまま会計データを生み出す仕組みになっているのです。
freee会計に対する賛否は会計業界内でも大きく分かれているようです。
特にこれまで、経理業務と会計業務の分断を前提として業務を組み立ててきた企業や会計事務所にとっては、急に「経理と会計を一体化して処理した方が効率が良いので、新しい構造を考えました」といわれても対応はなかなか難しいでしょう。
またfreee会計は、「取引」や「口座」といった新しい概念に加えて、これらを成り立たせるための多くの機能が用意されており、従来の会計ソフトを使い慣れている方ほど混乱してしまうようです。
私から見ても、「あの機能はどこにあるだろう?」と時々迷うこともあるぐらい複雑なUIになってしまっているので、この辺りは今後のfreee側の課題ではあります。
とはいえ普段から、会計処理という「点」ではなく、経理(もしくはそのさらに前段階)から会計に至るまでの「線」として業務プロセス全体を常に考え、業務設計をしている私の感覚からすると、freee会計の構造には全く違和感はありません。
むしろ、きちんと経理処理ができていれば会計処理をわざわざする必要がないというのは、業務効率化の面でも非常にポジティブに受け止めています。
おそらく、ERPを使ったことがある方や、内部統制の観点から業務プロセス全体を見てきた方も同じような感覚だと思います。



