税理士で業務設計士®を名乗る武内俊介氏(株式会社リベロ・コンサルティング代表)が、業務を構造的に見直し、持続可能な仕組みを築くための「業務設計」について解説する新連載。2回目となる今回は、会計・経理部門で起こりがちな属人化やブラックボックス化を改善する糸口を解き明かします(協力:board/ヴェルク株式会社)。

この記事の目次

リベロ・コンサルティング代表・税理士・業務設計士の武内俊介氏

武内俊介

株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。

金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。

※この連載は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

 

業務改善に取り組んでいるのに、なぜか成果が見えにくい。属人化や手作業が残り、どこから手をつければいいのか分からない。
こうした悩みは、多くの会計事務所や企業の経理部門で共通しています。業務のムダや非効率を感じながらも、改善がうまくいかない背景には、「業務の構造」が見えていないという共通の課題があります。

表面的な「やり方」や「日々の作業」だけしか見えていなければ、本質的な業務の改善はできません。
その奥にある、業務の全体像や前後関係、判断の基準といった「構造」を把握できていないと、改善は場当たり的になります。

第2回となる今回は、属人化や非効率の温床となる「業務の構造が見えていない問題」に焦点を当て、その正体と向き合うための視点を整理していきます。

なぜ属人化はなくならないのか

属人化の問題は、多くの現場で繰り返し指摘されているにもかかわらず、なかなか解消されません。
例えば、特定の人にしかわからないExcelのマクロや、ベテラン担当者にしかできない処理といったものです。属人化を解決するために「マニュアルを充実させる」というアプローチを取る企業は多いですが、問題の本質はもう少し深いところにあります。

属人化とは、「業務のやり方やノウハウ」が人にひも付いてしまっている状態です。
マニュアルが整備されていたとしても、内容が現場の実態とズレていたり、判断の余地が多く残っていたりすると、業務は結局「人に依存したまま」になってしまいます。
つまり、「この業務は◯◯さんにしかわからない(できない)」となってしまっている時点で、すでに組織としてのリスクが発生しているのです。

属人化が解消されない背景には、「業務の構造」が見えていないという根本的な課題があります。
全体の流れや前後関係を把握できていないために、表面的な作業の改善に終始し、マニュアル化や自動化といった「手段」に頼りすぎてしまうのです。

AIを活用した処理の自動化は、今後ますます容易に実現できるようになっていくと思いますが、それらを設計し、管理していくのは結局は人間です。
表面的な自動化にばかり注目して、業務全体の効率がおざなりになっているケースも少なくありません。

属人化を本質的に解消するには、業務がどのような構造で成り立っているのかを見極める必要があります。
処理の手順だけでなく、目的や前後のつながり、関わる人との連携まで含めて考える視点が欠かせません。

ブラックボックス化の正体 ── 業務が見えないという問題

業務効率が悪かったり、ミスがよく発生したりする現場であっても、担当者の能力が低いというケースは実はほとんどありません。
問題は、担当者の知識やスキルではなく、多くの業務がブラックボックス化しており、目の前の作業をただこなすだけの状態になっていることです。

ブラックボックス化とは、業務の実態が外から見えなくなっている状態です。
入力や出力は見えていても、そのなかで何が行われているかがわからなければ、問題が発覚しても何をどう改善すればいいかがわかりません。
特定の人にしかわからない処理、他部署との役割分担が曖昧なやりとり、前工程でどのような判断がなされているかを知らずに進む業務……こうしたことの積み重ねが、ミスや非効率の原因となっています。

とくに会計業務においては、目の前の「処理の正確性」だけに注力してしまい、業務全体の流れや背景を把握せずに、その場の判断で対応してしまうことが少なくありません。
部分最適の繰り返しは、少しずつ全体を歪めていきます。全体が見えていない担当者には、「その処理が本当に必要かどうか」「よりよい手段があるか」といった問いを持つことができません。
「いまやっていることを自動化する」というアプローチでは、むしろブラックボックス化された業務が増え、業務の負債が少しずつ蓄積されていくことになりかねません。

自動化に対するハードルが下がっているからこそ、業務の全体像をとらえ、「どこで」「誰が」「何の目的で」「どのような判断をして」処理を進めているのかを明らかにすることが欠かせません。
これらを理解していなければ、業務を改善することはできないのです。

業務を「構造」でとらえるという視点

属人化を解消し、ブラックボックス化された業務を可視化していくためには、業務を「構造」でとらえるという視点が欠かせません。

ここでいう「構造」とは、単なる業務フローや処理手順のことではありません。業務の目的や前後関係、判断の基準、関与する人と役割、インプットとアウトプットの関係性など、業務を取り巻く要素全体のつながりを意味します。

例えば、請求書の発行業務を考えると、「請求書を発行する」という行為だけを見れば単純な処理に見えるかもしれません。
しかし、その前工程には「契約情報の確認」「納品状況のチェック」「取引条件の整理」などの確認や判断があり、後工程には「会計システムへの入力」「売上計上」「入金消込」といった処理がつながっています。
これらの前後工程を考慮せずに「請求書を発行する業務だけ」を自動化しても、ほかの工程で余計な手間が発生してしまえば、自動化による効率化の効果はあっという間に失われてしまうでしょう。

業務の構造をとらえるとは、処理単体を見るのではなく、「何のためにその業務が存在しているのか」「ほかの業務とどうつながっているのか」を理解したうえで、その業務の役割や改善の方向性を考えることです。
実はベテランの担当者は、こうした構造がすべて見えた上で対処しているケースが多いのですが、それをマニュアルなどでほかの担当者に伝えることは容易ではありません。
それを理解せずに、属人化を解消するために処理だけを自動化してしまうと、思うような成果が出なかったり、逆に手間が増えてしまったりするケースも少なくありません。

単純作業に見えても、その多くは業務プロセスのなかの一部の工程です。目の前の処理だけでなく、前後の工程との関係やそのように処理をしている目的をしっかりと理解する必要があります。その際に有効なのが、ベテランに対する「なぜ○○という処理をしているのですか?」といった「WHY?」の質問です。

自動化やAIの活用は、1つの手段にすぎません。全体のなかでその業務はどのような位置づけにあるのか、そのような処理・確認が必要なのはなぜか、といったことを理解して、業務プロセスの構造をきちんと把握することが求められています。

構造が見えれば、改善ができる

業務の属人化やブラックボックス化は、いずれも「業務の構造が見えていないこと」に起因する、現場改善の大きな障壁です。

私たちはつい、「マニュアルを整備する」「ツールを導入する」といった対処法に走りがちですが、それだけでは問題の本質には届きません。
表面的な「やり方」ではなく、業務の構造 ── つまり「なぜその業務が存在し、どのようにほかの業務とつながっているのか」に目を向ける必要があります。

構造が見えれば、改善の糸口は自然と見えてきます。どこがボトルネックになっているのか、どこに判断が集中しているのか、あるいはそもそも不要な業務ではないか。そうした問いを立てられるようになることが、業務設計の出発点です。

この連載では、単なる効率化や自動化にとどまらず、会計人の仕事における「仕組み化」の考え方を深めていきます。
次回は、こうした構造を「見えるかたち」に落とし込むための方法 ── 業務の全体像を描くためのアプローチについてご紹介します。

【前回の記事】
会計人のための仕組み化仕事術①│なぜいま会計業界に「業務設計」が必要なのか? | KaikeiZine

 

株式会社リベロ・コンサルティング

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