人手不足とDXの波が押し寄せている会計業界にいまこそ必要なのが、変化に強い現場をつくるための「業務設計」です。この連載では、業務を構造的に見直し、持続可能な仕組みを築くための実践的ヒントをお伝えします。

この記事の目次

リベロ・コンサルティング代表取締役・業務設計士・税理士の武内俊介氏

武内俊介

株式会社リベロ・コンサルティング代表取締役。業務設計士®、税理士。

金融、会計事務所、スタートアップなどを経て独立。日本で唯一の「業務設計士®」を名乗り、DXプロジェクトなどに際しての業務の整理や最適化、導入システムの選定などを独自のメソッドで支援する業務設計コンサルティングを提供している。また、boardのアンバサダーを務め、中小企業にとって「ちょうどいい」販売管理ツールであるboardの魅力をさまざまなところで発信している。

※この連載は、クラウド型業務・経営管理システム「board」の開発・運営などを行うヴェルク株式会社の協力でお送りしています

 

 「毎月の締めに追われ、日々の問合せにも対応しながら、何とか業務を回している」。
そんな状況に心当たりはありませんか。会計事務所や企業の経理部門で働く会計人は、決算対応や次々と舞い込む相談に追われ、「目の前の仕事をこなすだけで精いっぱい」という状態に陥りがちです。

「このやり方、ちょっと非効率かも」「誰かが休んだらまわらないよな」と感じていても、忙しさに流されるままに毎日が過ぎていく。その状態が続くと、気づかないうちに大きなリスクを抱えることになります。

近年、会計業界では人手不足が深刻化しています。
採用が難しくなる一方で、既存メンバーへの業務の集中が進み、その結果として業務の属人化が加速しています。特定の人にしか分わからない処理や手順が増え、引き継ぎがうまくいかない、システム導入が現場に浸透しないといった問題が起こりやすくなります。
これらはすべて、「仕組みの弱さ」に起因する現象といえるでしょう。

そこでいま、注目すべきなのが「業務設計」という考え方です。

業務を見直し、構造的にとらえ直すことで、担当者に依存せず、変化に対応できる“強い現場”をつくる。
この連載では、会計業界の実情に寄り添いながら、業務設計の考え方とその実践について、いっしょに考えていきたいと思います。

会計業界を取り巻く環境変化 ── 自動化・人材不足・属人化

会計業界を取り巻く環境は、ここ10年で大きく様変わりしています。顕著なのは、テクノロジーの進化と人手不足の深刻化です。

テクノロジーの進化により、会計業務の一部は自動化が進んできました。
例えば、AI-OCRによる証憑読み取りや、会計ソフトと銀行口座・クレジットカードとの連携による仕訳の自動生成など、かつて手作業だった工程がシステム処理に置き換えられつつあるのはいうまでもありません。

すべての業務が自動化できるわけではなく、自動化の「前段階」の整備が追いつかないことで、かえって手間が増える場面もあります。
例えば、業務フローが曖昧なままツールを導入してしまい、社内の承認プロセスが属人的なままだと、結局は手作業による確認や修正が必要になるといった例も多く見られます。

ここに慢性的な人手不足が重なることで、状況はさらに複雑になります。新しい人材を採用することが難しく、既存メンバーに業務が集中し、さまざまなノウハウが担当者の暗黙知(言語化されていない知識)となりやすい状況が生まれています。
その結果、業務の属人化が進み、休暇や退職などの場面で、大きなミスやトラブルが生じやすくなっています。

自動化の波、人材不足、属人化 ── これらは別々の問題に見えるかもしれませんが、実は根本ではつながっています。
個別の課題に対応するだけでなく、「業務そのものの構造」を見直すという視点が、今後ますます重要になってくるでしょう。

「業務設計」とは何か? ── 効率化の前に“設計”が必要

「業務設計」とは、業務の流れや役割分担を整理し、仕組みとして構築することです。ただ目の前の作業を効率化するのではなく、業務の目的・手順・関係性などをいままでのやり方にとらわれず見直し、よりよい形に組み直すアプローチといえます。

例えば、「この作業は誰がやるべきか?」「このフローにムダはないか?」「システムにどう入力すれば他の業務とつながるか?」といった問いを丁寧に積み重ねていくことで、業務全体の仕組みが整理されていきます。こうした問いを通じて、業務の構造や役割の輪郭が少しずつ明らかになります。

業務の全体像を整理するには、業務を構成する要素(目的、手順、担当、使用ツールなど)を分解し、全体のつながりや役割を明確にする必要があります。
例えば「請求書の支払い処理」であれば、インプットは承認済みの請求書、アウトプットは支払データと仕訳です。このような視点で整理することで、前後の業務とどう接続するかが明確になり、
担当者に依存せず、再現性のある業務が実現できます。
結果として、属人化を防ぎやすくなり、ミスや引き継ぎのトラブルも減っていきます。

逆に、設計がきちんとなされていない業務は、担当者の経験や勘に頼る場面が多くなり、業務内容がブラックボックス化しやすくなります。
新しい人に教えにくい、全体が把握できない、改善しようにもどこから手をつけていいか分からない —— こうした状態は、会計業界に限らず、あらゆる現場で共通する課題です。

業務設計とは、業務改善を支える“考える土台”です。やみくもに効率化を追うのではなく、そもそも「何を、どのように、誰がやるのか」を構造的に整理すること。
こうして整理された業務こそが、持続的な改善を可能にする土台になります。

なぜ、会計業界に業務設計が求められるのか?

なぜ、会計業界で「業務設計」が必要なのでしょうか?  

その答えは、私たちの現場に起こっている“当たり前の課題”にあります。ここでは大きく3つの理由をご紹介します。

1つ目の理由は、「業務の変化が頻繁に起こること」です。
法改正や制度変更、クライアントの業態変化や規模拡大、新しい会計ソフトの導入など、会計業務を取り巻く環境は常に変化しています。このような変化に柔軟に対応するためには、業務の流れや仕組みが明確に整えられており、変更しやすい状態を保つことが求められます。
設計がされていない業務は、変更のたびに混乱を生み、非効率を助長してしまうばかりか、時には「変更そのものが不可能」になってしまう場合もあります。

2つ目は、「業務の正確性が強く求められること」です。
会計業務は数字を扱う仕事であり、正確さが求められる世界です。にもかかわらず、設計のない属人的な業務が続くと、確認漏れや処理ミスといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。
インシデントが発生した際の再発防止策として、「教育の徹底」や「チェック体制の強化」といったものがあげられるケースは多いですが、属人的な運用を維持する限り抜本的な改善は困難です。
逆に、業務の設計を行い、役割や手順を明示することで、チェック体制や自動化との接続もスムーズになり、ミスを減らす土台を構築できます。

3つ目は、「人材育成と業務継続の重要性が高いこと」です。
人手不足が慢性化する中で、新人が入ってもすぐに辞めてしまう、ベテランが退職する、といった人の入れ替わりが多く、新人教育や業務の引き継ぎはどの現場でも大きな課題となっています。
あらかじめ業務の型が整っていれば、属人性を減らし、再現性のある業務運用が可能になります。その際のポイントは、何を(What)どのように(How)だけでなく、なぜ(Why)どういう目的(Goal)でそのような処理をしているのかも含めてドキュメント化して、担当者が共通認識としてそれらを理解することです。
特定の人にしかできない仕事を減らすことで、退職や異動によって仕事が回らなくなるリスクも抑えられます。

業務が変化しやすく、正確性が求められ、人材の入れ替わりも多い。そのような会計業界だからこそ、業務設計という考え方は、現場で働く私たち一人ひとりを支える柱になるはずです。

いまこそ「考える力」で、現場に変化を起こすとき

会計業界にとって、業務設計はもはや「余裕があるときにやるべきこと」ではありません。
環境の変化、正確性の要求、人手不足といった構造的な課題に向き合うためには、業務そのものを見直し、構造的にとらえる視点が欠かせません。

今回ご紹介した3つの理由は、どれも現場の「当たり前」の風景に潜むリスクです。これらを放置してしまうと、気がついたときには業務が回らなくなっているという事態にもなりかねません。
そうならないようにするためにも、日々の業務のなかで構造的に業務を見つめ直す視点をもち続けることが大切です。ただ作業をこなすのではなく、「なぜこの業務を行っているのか」「もっとよいやり方はないか」と考える力こそが、現場に変化を起こす第一歩になります。

まずは、目の前の業務を棚卸しし、業務の目的や手順、関わる人、背景などを見直してみることからはじめてみてください。

次回以降の記事では、実際に業務設計をどう進めていくのか、そのプロセスや考え方について、さらに具体的に掘り下げていきます。

 

株式会社リベロ・コンサルティング

●会社HP
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