休業や営業時間の時短要請など、コロナ禍での苦境が続く飲食業界。補助金や助成金など次から次へと導入され、混乱している経営者も少なくないだろう。そんな飲食業界において強い味方になっているのが東京都・江戸川区で飲食業界専門で税務サービスを行っている税理士・渡邉 義道氏だ。オンラインが進む中、あえて毎月訪問をしている渡邉氏。親身なサービスがウリだが、決して経営を代わりに対応するのではなく、煙たがられたとしてもいざというときに数字に強い経営者にしていくことこそが税理士の役目だと話す。今回の実力派会計人では、渡邉氏のこれまでのキャリア、そしてコロナ禍において生き残ることのできる強い飲食経営のポイントについては話を伺った。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)

苦しいときこそ手助けをするのが会計事務所の使命。亡き父の影響で税理士を志す

税理士を志したきっかけについて、教えてください。

渡邉:会計事務所の職員として働いていた父がきっかけでした。

私が高校生のときにバブルが崩壊して中小企業を取り巻く状況が激変し、父が関与していた会社も資金繰りが苦しくなりました。おそらく潰れてしまうだろうという会社で、顧問料が払えなくなる可能性も高かったようです。

当時、父が働いていた会計事務所は、顧問料を支払えるところに注力すべきだという方針でした。しかし父は、「苦しい時こそ助けになるのが会計事務所だ」という考え方。代表の方針に反発して、自宅へ仕事を持ち帰り、夜な夜な社長と話していました。

結局、その会社は不渡りを出す結果となり、経営者とその奥様は夜逃げをしてしまったのですが、その地を去る際に最後に私の父のところにも寄ってくれたのです。そのときに、父に何度も頭を下げ感謝を述べている社長ご夫妻の姿を見て、これが会計事務所の仕事なのだ、自分もこういう仕事に就きたいと考えるようになりました。

そして私は、大学進学に伴い商学部へ進み、中小企業を支えたいという思いから税理士を目指しました。大学卒業後は、元々アルバイトをしていた居酒屋でフリーターをしながら試験勉強を続けようと思っていたのです。

ところが、卒業間際に父が突然亡くなったことで人生は一変してしまいました。

大学卒業時点では、実家に頼りながら試験勉強を続けるつもりだったので就職活動や大学院に行くための準備も全くしていませんでした。どうしようかと思っていた時に、父の元同僚だった方が独立されていて、自分の事務所で働かないか?と声をかけてもらいました。未経験で何も持っておらず路頭に迷っていた私を拾っていただいた師匠との出会いです。

知らぬ間に顧問先が廃業…親身なサポートを目指すきっかけ

独立するまでの8年間、ターニングポイントはありましたか。

渡邉:入社後は、中小企業の様々な業界のクライアントに対して記帳代行から決算業務など師匠を見ながら学んでいきました。その事務所は師匠と事務スタッフさんしかいなかったので教育体制もなく、師匠も職人気質だったので、とにかく見て覚えるのが大変でした(笑)。でも、残業もなく、 試験勉強ができる時間が十分にあったのはありがたかったですね。

おかげ様で税理士の資格も取得ができ、実務も覚え充実した日々を過ごしていたのですが、あるとき担当していたラーメン屋さんが潰れてしまう出来事がありました。そのラーメン屋さんは2000年代初めのラーメンブームに乗って2店舗を経営されていて、繁盛していたのです。しかし公共交通機関ができることになって、そのお店を移転することになりました。

ところが、この社長さんはお店の強みや利益構造を理解していなかったので、味も良かったし売上もあったはずなのに、移転後の物件の家賃が高くお金が残りませんでした。また、移転前にも資金管理ができておらず、帳簿上残っているはずのお金がないため納税するのに金融機関からお金を借りているような状態でした。

そしてあるとき、私から「そろそろ決算です」と声を掛けたときには、すでに廃業していたのです。自分の担当先が知らない間に廃業していた。これはとてもショックでした。社長に対してちゃんとしたサポートをしていなかったというのが申し訳なく、気づけなかった自分が情けなかった。

もともと高校生のときにこの業界を目指し始めたのは、父の姿を見て一番身近な存在として経営者をサポートできるからだったのに。

それなのに結果的には、経営者が一番ピンチのときに私は相手にもしてもらえなかった。

この出来事をきっかけに、私は税理士として独立をして、関与先に常に寄り添うようなサポートをしていこうと思うようになったのです。

しかし、独立開業の準備を始める時点では、勤務時代の事務所で記帳代行の業務が中心だった影響もあり、私の開業後の事務所のイメージは、漠然と関与先の経理事務の手間を引き受ける記帳代行業務が前提にあり、その先にプラスアルファで関与先に寄り添うサポートをできればというものでした。

この価値観を根底から覆し、現在の自身の事務所業務の方向性を決定づけてくれたのが、TKC全国会所属の立川直樹先生との出会いでした。立川先生から、記帳代行業務では付加価値の高い関与先サポートはできない、関与先に寄り添うサポートをしたいのなら、関与先に会計システムを導入して自計化できるよう指導しなさい。そして、そのシステムから得られるリアルタイムの業績をもとに経営者と対話することを通じて黒字経営の実現をサポートする、それを事務所業務の中心に位置づけていけば君も関与先も共に成長できるとアドバイスをうけました。TKCシステムを活用して、まさにそのような事務所を築いている立川先生の事務所の在り方に衝撃をうけました。このことがきっかけで、TKC全国会に入会し、TKCシステムを活用して関与先の黒字化をサポートしていくことが事務所としてのゆるぎない方針ときまり、いよいよ開業を迎えることとなりました。

独立をされて現在で11年目です。現在、飲食に特化した会計事務所でいらっしゃいますが、そのきっかけは何でしたか。

渡邉:こうして8年、お世話になった事務所を去り、開業をしたものの実は独立をして間もなく事故に遭い、右腕を大怪我をしてしまいました。半年くらい動けない時期があり貯金を切り崩していく日々に当時は焦りましたね。その分、2年目からは仕事を増やさなければと交流会に行って名刺交換も積極的にしていました。そういった場で、お会いした方から「得意な分野は?」と聞かれたのです。もちろんTKCシステムで関与先の黒字化を実現するという方針は固まっていましたが、私自身独自の得意と言える分野が何もないことに気が付きました。

では自分が何か特化できる部分は何なのだろうと今までの経験から考えたときに、大学時代に居酒屋でアルバイトしていた経験と、やはりサポートしきれなかったラーメン屋さんのことが頭に浮かびました。

そして、飲食に特化しようと思った時に、ちょうど今の日本フードアカウンティング協会が旗揚げしたばかりで、江戸川区ではまだ一件もなかったときでした。この協会と提携して、飲食に特化した事務所を始めることにしたのです。この時点から、私の事務所のTKC+飲食業特化という明確な差別化戦略がスタートしました。

経理は経営そのもの。渡邉氏が取り組むサポートとは

現在はコロナ禍の中、飲食は非常に厳しいという印象です。どういったサポートをされているのでしょうか。

渡邉:確かに厳しいのですが、当事務所の関与先は、廃業や倒産に至っているところは一件もありません。毎月数字をきちんと見ていて、先を見越して今何をするべきかを常に考えています。場当たり的な経営をしているとみるみる業績が悪くなりますし、去年は日本政策金融公庫も民間の金融機関も忙しくなっていてなかなか融資の結論が出ませんでした。ですから、逼迫した状況になってからお金を借りていたのでは遅いのです。関与先にはもっと早い段階で動いていただきました。

コロナ融資の制度開始早々に資金を調達できたことで、例えば緊急事態宣言に備えてテイクアウトを始めるためのチラシを作って撒くといった対策ができました。そういった対策ができていたので、そこまでの痛手を負っていません。毎月数字を見て、会計事務所の第三者的な立場の意見も聞いていただきながら、資金面も販促面も前もって手を打っていく。その結果、今こういう状況の中でもたくましく経営されています。

当会計事務所の根本的なテーマは、経営者が積極的に経営を考えられる環境を整えること。そういったテーマを持っていたことが、この逆境の中で役に立ちました。「経理が面倒だから丸投げしよう」という考えでは、こういう時に立ち向かえません。自分で積極的に手を打とう、動いていこうというマインドを日頃から培う必要があります。そういう経営者を作っていくことが当事務所の究極的なミッションですね。

大事なことはオーナー自身も数字が分かる状態にすること

渡邉:飲食店は、料理人が社長という場合も多いです。2、30年前まではボールペンを握らず料理一筋という方が多かったです。しかし現代は、皆パソコンを使えますし、お金の管理もしないといけないと漠然と考えていらっしゃる方がほとんどです。だからこちらが細かく社長をサポートすれば「きちんと数字を見ていこう」という意識を持っていただけます。ただ、他の業界と比べればお金に関して大雑把な考え方をされる方は多いでしょうね。

とはいえ「面倒な経理周りは会計事務所に丸投げしてください。そうすれば店舗運営に集中できますよ。」とは言いたくありません。経理とは経営そのものです。会計システムもどんどん進化しているので、手間もかからずスピーディーに数字を作れますが、大事なのはその後。作った数字をオーナー自身がきちんと見て、現在の資金面の状況を把握できる環境を作らなければなりません。オーナーには煙たがられる面もあるかもしれませんが、長期的に見れば経営の役に立つと思っています。

独立前に担当したラーメン屋さんも、私がそうしたことを指導できていれば結果は違っていたのではないかと今でも思います。そういった後悔をしないためにも、自分で考え行動できる経営者になれるよう、我々がサポートしたいと思っています。

コロナ禍の中で、オンライン化が急務となっていますが、私たちは今まで当会計事務所が大切にしてきた丁寧なサポートという面はこだわりを持って変えずにいきたいです。

 

【編集後記】

取材の中では、ご自身の苦い経験を経て、手厚くサポートをしていきたいという熱いお気持ちが伝わりました。渡邉先生、ありがとうございました!

渡邉税務会計事務所

●設立

平成21年8月

●所在地

東京都江戸川区平井3-21-20

●理念

1.私たちは、関与先企業の発展と事務所職員全員の豊かな生活の実現のために知識、人格の向上に努めます

2.私たちは、税理士の使命である適正な納税義務の実現のために法令を遵守し、関与先企業の信用力の向上につながる仕事をします。

3.私たちは、中小企業経営者の財務経営力の向上を指導、実践するための事務所体制を構築し、日本経済を支える中小企業の経営基盤の強化のために活動します

4.私たちは、関与先企業の永続のため、関与先企業のリスクを予測し、防衛する仕組みづくりに積極的に取り組みます

●企業URL

https://www.w-zeimu.com/office

 

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