高齢者向けの在宅ケアビジネスでは例外的に、アービトラージ(裁定取引)が成立するビジネスエリアがある。現場では、住宅を供給する市場と介護の現場に生じる価値形成観の違いから成立するこのビジネスを理解し、適切に運用できる会計人へのニーズが高まっている。そこにはどのようなビジネスチャンスがあるのか?訪問看護ステーションの開業と運営を支援し、このビジネスを高齢者が年金の範囲内で安心して暮らせる低価格の「住まい」を提供するサービスとして形にしたインキュベスク株式会社代表取締役 上村隆幸氏が語る。

在宅ケアの現場では高齢者の「住まい」のニーズが高まっており、私達は関東圏で高齢者が年金の範囲内で安心して暮らせる低価格の「住まい」を提供するビジネスの開業支援を始めた。この「住まい」の調達市場と運用市場の価格形成観が異なることで、そこにアービトラージ(裁定取引)が成立する状況が生じているが、介護業界の人はそこに気づけずにいる。公認会計士や税理士といった会計人だけが、そこにビジネスチャンスを見出し、活躍できる。

アービトラージが成立する在宅ケアビジネスとは

保険によって価格が固定された高齢者向けの在宅ケアビジネスでは、コストの大半が地元で採用したスタッフの人件費ということもあり、仕入れと販売の価格差や、その工夫の余地が少ないことから、アービトラージ(裁定取引)は通常成り立たないと思われている。
しかし、そんな高齢者向けの在宅ケアビジネスの中にも、ビジネスの核の部分に事業投資の考え方が必要になり、投資対象となる固定資産の調達市場と運用市場の価格形成観の違いからアービトラージが成立するビジネスが存在する。今回は、その資産価値の正確な理解ができる公認会計士や税理士といった会計人の需要が高まっていることを紹介したい。

ご存知のとおりアービトラージ(裁定取引)とは、あるところで安く取引される品物を、高く取引される場所で売るなど、価格差や金利差を利用して利ざやを稼ぐ取引のことである。一等地にマンションを建てたり、高級マンションの一室を投資目的で購入し、高く転売することなどがわかりやすい例の一つだ。
こうした価格差による利益を医療介護業界で意識することはあまり無く、理論上、それがあり得そうな、一部の高級有料老人ホームや、同じくサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、マスターズマンション(高齢者向け分譲住宅)においても、現実に事業者がアービトラージを強く意識しているかと言うと、そうではない。

そんな介護業界の中で私達は、アービトラージ(裁定取引)が成立するビジネスとして、小規模な高齢者の「住まい」と、手厚い「介護」とを組み合わせたサービスを提案している。
このビジネスでは、相場のように外的要因で価値が上昇するのを待つのではなく、事業運営として自ら価値を創り出していく。

では一体、何がアービトラージ(裁定取引)となるのか。前述のとおり、一般的な人々が暮らす「住まい」の市場と、それを運用する介護業界との間に、価格形成観の違いがあることでアービトラージ(裁定取引)が生じている。
言うまでもなく、価値や価格の上下は、需要と供給のバランスで起こり、需要過多ならば価格が上がり、供給過多ならば下がる。そういった意味では、高齢者の「住まい」の需要は非常に大きい。高齢者の顧客が「住まい」の市場に殺到していないのは、現役世代中心の「住まい」の価格設定が高齢者の購買力とミスマッチであることや、「住まい」の機能がやはり現役世代向きであることが原因で、決して需要が少ないわけではない。
つまり、高齢者の需要を的確に受け止めた「住まい」を提供するサービスがあれば、十分な需要を背景に高い価値を形成することができる。そこにアービトラージ(裁定取引)が生まれる背景がある。

しかし、医療介護の事業者は、高齢者のニーズを拾うことや「介護」のサービスを加えることは専門でも、「固定資産」である「住まい」の正しい価値を理解することは難しい。そこで、高齢者の「住まい」を「固定資産」として可視化し、長期に渡る回収過程を冷静に分析できる会計人の役割がクローズアップされるのだ。