「人の動かし方」や「時間の使い方」の効率を高めるために、訪問看護ステーションでは「会計」の知識とそれをサポートする専門家の需要が拡大している。現場ではどのように会計情報を用いた効率化がなされているのか?訪問看護ステーションの開業と運営を支援するインキュベクス株式会社 代表取締役 上村隆幸氏が語る。

訪問看護ステーションでは、さらなる成長のために公認会計士や税理士といった、いわゆる会計人の需要が高まっている。ステーションの運営に際して極めて重要な指標であるスタッフの稼働率を構成する「人の動かし方」や「時間の使い方」についての「効率化」が重要であり、そのために会計人の専門性が求められているのだ。訪問看護の現場が求める会計知識と、それを用いて現場を効率化する会計人への期待について触れたい。

成長著しい訪問看護ステーションの時間効率化で活躍する会計人

「訪問看護」は急成長するヘルスケアの分野を代表するビジネスの一つであり、2012年の診療報酬改定を機にその数を大きく伸ばしている。訪問看護ではこれまで、医療保険や介護保険に基づく特殊な請求処理が注目され、いわゆる「会計」の専門知識や専門人材はさほど注目されていなかった。しかし、業界全体の急成長の中で「会計」についてのニーズがにわかに大きくなってきている。

では、訪問看護ステーションが会計人に期待していることとは、いったいどのようなことなのだろうか。簡単に言うと訪問看護ステーションでは、会計の専門家に「時間をもっと有効活用する手助け」を求めているのだ。「時間も含めた限りある資源」というほうが正確かも知れない。

訪問看護ステーションでは2つのことで「時間の効率化」を必要としている。
1つは「人の時間効率を上げたい」ということだ。訪問看護ステーションは、施設・設備ではなく人材が資本となるビジネスである。従業員の稼働率を高めることが売上・利益の拡大につながる。

もう1つが「改善の速度を上げたい」ということである。急成長している分野であるために、PDCAなどによる改善は常に必要となる。特に異業種から訪問看護に参入した経営者にとっては、看護師などの専門職の動きを把握して評価することは難しいため、会計人のアドバイスが心強い。

会計人であれば、業務フローの把握を通じて、スタッフの動き、時間の使い方を「価値」として金額で示すことができるし、経営効率の診断もできる。
会計人は、企業の依頼で月次決算レポートや累積報告を出すことは少なくないと思う。こうした財務の診断を定期的に出してアドバイスを行うだけでも、訪問看護ステーションにとっては大きな意味がある。さらに、対象を絞って週次や日次で会計情報を確認する手伝いや、そうした企業文化の推進を行うことで、PDCAによる改善サイクルを早期化することもできる。

このように「会計」、特に「管理会計」の考え方によって訪問看護ステーションの時間を効率化し、改善を早期化していくことが、「会計」のプロフェッショナルに期待され、新たなビジネスチャンスとなっているのだ。

会計人が分析する社内の動きの価値

では、もう少し詳しく、訪問看護ステーションにおいて会計人が活躍できる場面を見ていこうと思う。

上記でも触れたとおり、「人の価値」、特に従業員の時間の使い方についての良し悪しを判断するのは難しい。まして、これまで医療介護に縁の無かった異業種参入の経営者が、看護師の行動を評価するのはハードルが高いと言える。
そこで、会計人がそうした時間に基づく人の価値を、会計情報によって明らかにすることが非常に役立つ。「標準時間等を用いた差異分析」によって、その仕事の「適正単価×適正時間」を明らかにすることで、冷静かつ公平に社内の動きの価値を割り出し、次回の改善に活かすことができる。

また、訪問看護ステーションにおける業務フローや業務量、業務スピードを明らかにして、常に業務の質と量が見え、素早く改善に取り組める「組織作り」のサポートを行うことも、会計人に求められることの1つと言える。
これは「決算体制」や「会計情報による報告体制」を作るとも言えるかもしれない。会計情報によって訪問看護ステーションに改善のきっかけを与えるだけでなく、その後も継続的に会計情報を活用できる体制を作るためのアドバイスをすることも、会計人には求められている。

会計情報は、専門家や一部の経営者や経理だけが握る情報ではなく、必要な人に必要な情報が必要なタイミングで共有される体制を作らなければ意味がない。経営者も従業員も社員全員が共通のモノサシで、お互いの業務を含む会社全体を会計情報で捉えていくことで、問題点や改善のヒントを全社で考える土壌が出来上がる。
また、会計情報は“なまもの”のようなものであり、鮮度が重要で新しければ新しいほど良いため、その共有は、タイムリーかつスピーディーに行われることで価値はさらに高まる。あまり古い会計情報を元に業務改善を行おうとしても、現実からずれが生まれ、正しい施策ではなくなってしまうのだ。