マルサの捜査には裁判所からの令状が必要ですが、滞納処分には、徴収職員の判断だけでできる「捜索」があります。その捜索について、元国税徴収官が分かり易く説明します。
滞納処分における徴収職員の権限
徴収職員には、滞納処分のために次の3つの権限が与えられています。
1.任意調査としての質問及び検査(国税徴収法第141条)
2.強制調査としての捜索(国税徴収法第142条)
3.出入禁止(国税徴収法第145条)
なお、これらの権限は、犯罪捜査のために認められたものではありません(国税徴収法第147条2項)。
捜索は強制調査
質問及び検査は任意調査です。ただし、徴収職員の質問に対して答弁をしなかったり、嘘の回答をしたりした場合には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金といった罰則規定があります(国税徴収法第188条、同法第190条)。
一方、捜索は、捜索を受ける者の意思に拘束されない強制調査です。
国税徴収法第142条【捜索の権限及び方法】
徴収職員は、滞納処分のため必要があるときは、滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる。
2 徴収職員は、滞納処分のため必要がある場合には、次の各号の一に該当するときに限り、第三者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる。
一 滞納者の財産を所持する第三者がその引渡をしないとき。
二 滞納者の親族その他の特殊関係者が滞納者の財産を所持すると認めるに足りる相当の理由がある場合において、その引渡をしないとき。
3 徴収職員は、前二項の捜索に際し必要があるときは、滞納者若しくは第三者に戸若しくは金庫その他の容器の類を開かせ、又は自らこれらを開くため必要な処分をすることができる。
ここでポイントなのは、主語が「徴収職員は」となっていることです。
税法では通常、主語は「税務署長は」となっていますが、滞納処分に関しては、現場に居る徴収職員の判断だけでできる権限が与えられています。
そのため、捜索は裁判所の捜索令状も必要とせずにできる強制調査です。
捜索をされる場合
徴収職員が滞納処分のために必要があるとき(差し押さえるべき財産の発見又は差し押さえた財産の搬出等)は、滞納者の物又は住居等の捜索がされます。
また、滞納者の財産を持っている第三者(滞納者の親族その他の特殊関係者が滞納者の財産を持っていると認められる場合を含みます。)が、その滞納者の財産の引渡しをしないときは、第三者の物又は住居その他の場所の捜索がされます。
(注)親族その他の特殊関係者とは、滞納者の親族その他滞納者と特殊な関係のある個人又は同族会社をいいます。