会計上で見る、IT導入の価値とは?
介護現場でのIT導入で失敗しないための「導入時」のチェックポイントを「管理会計」の視点でご紹介したが、それだけではなく「導入後」も定期的にチェックする指標が必要だ。なぜならば、会計上のITの価値は、導入後も絶えず変化するからである。
会計上、介護現場で導入したITの効果を数値的に見る場合には、費用削減であれ収益獲得であれ、その時点でのROI(投資対効果)の変化を指標として、導入前に予測した効果の実測値を常に追っていくことが重要となるが、ROI以外にも「管理会計」の視点による重要な指標がいくつかあるので紹介したい。
まず、「管理会計」にも関連している「情報セキュリティ」の分野から紹介しよう。「情報セキュリティ」を定義する「機密性」「完全性」「可用性」の3要素が、介護現場へのIT導入でもチェックの指標となる。つまり、情報が外部に漏れることなく、不完全ではない正しい情報を、常に便利に使えるかどうかが、介護現場のITでも問われている。
「管理会計」分野の指標もご紹介しよう。監査人が会計事象の正しさを確認する際に用いる「監査要点(アサーション)」がそのまま介護現場のIT導入の指標になる。「監査要点」には、「実在性」「網羅性」「権利と義務の帰属」「評価の妥当性」「期間配分の適切性」「表示の妥当性」などがある。本来の「監査要点」とは異なるが、介護のIT導入においては、カタログスペック通り・事前の想定通りのITであるか、必要なデータがすべて揃うのか、そのITやデータは誰のものなのか、価格・費用は適正なのか、活用や支払いの期間は適切か、情報公開は適切か、などを常々チェックしていくことになる。
同じ「管理会計」分野でも、意思決定に関する内容もある。一つは「リソースの分配とアクティブ化」である。コンピューターにおける話と似ているが、介護でのIT導入では、ITを活用する担当を明確にし、タスクや手順を分類し、その活用の時間を盛り込み、使う環境を整える一連の作業を指している。もう一つは、「再投資率の決定」である。今回の介護現場へのIT導入というテーマ自体が「管理会計」で言うところの「設備投資意思決定」の話だが、初期投資(イニシャルコスト)だけでなく「再投資」も検討する必要がある。最初にいくらを投資し、その結果、いくらの売上や利益が見込まれ、そこからさらにいくらを「再投資」するのか、いくらを「内部留保」するのかを前もって計画立てておくことが重要である。
こうした指標によって、導入時に想定したITの価値、現在の価値、今後想定される価値を常々チェックしていくことで、介護現場に導入されたITを無駄にすることなく、その価値を十二分に活用することができる。
失敗しない介護現場のIT導入
介護現場へのIT導入について、「管理会計」の視点からチェックポイントなどを紹介してきた。内容を改めて確認してみても、特段珍しいものはないと思う。大企業などでは当たり前のことも多いのではないだろうか。こうした視点がまだまだ浸透していない介護現場では、少し「管理会計」の視点でのチェックを強化しただけでも、導入失敗は少なくできるだろう。
最後に、実際にITを導入する介護現場へのアドバイスを少し付け加えたい。まずは、導入するITの種類の違いと、その価格に注意してほしい。ITと言っても数千万円のシステム開発から月額数百円のクラウドサービスまでさまざまで、種類によってP/L(損益計算書)に与えるインパクトがまったく異なる。しかし、単に高い安いだけで判断するのではなく、上述のチェックポイントに気をつけて、正しい評価を目指してほしい。
また、介護現場に限らず、実際に何かしらのITを導入したところ、人力によるオペレーションのほうが便利だったり、精度が高かったりした経験はないだろうか。そうしたことを防ぐためにも、IT導入の検討時点から人間(人力)との比較は行っておくべきだろう。ITで人の動きを補うことも大事であるが、人の優位性とITの優位性のどちらかに偏るのではなく、両者のバランスを上手く取ることを目指すことが重要となる。
介護分野は人の手による部分を簡単には外すことが難しい分野でもある。介護分野へのIT導入においては、人の手の重要性を導入しない言い訳や、単なる脅威とせず、逆に駆逐すべき壁のようにも捉えず、両者の効果を活かし合う環境を作るべきだろう。そのためにも、冷静な「分析の目」として、「管理会計」の視点を活用していきたい。


