成功する所長の条件 ── 書籍が示す会計事務所M&Aの法則

■本書では「成功の法則」という言葉が使われています。会計事務所M&Aにおける成功とは、どこがゴールになるのでしょうか。

森下:大前提として、成功の定義は所長によって違います。リタイアしたいのか、事務所を残したいのか、職員の雇用を守りたいのか、顧問先をしっかり引き継ぎたいのか ── 目的が違えば、成功の形も変わります。自分は何を優先したいのか、を最初に整理することが本当に大事です。ここを曖昧にしたまま進めると、途中で何か違うぞとなってしまう。

■目的の整理が成功の第一歩ということですね。

森下:実際、成功する所長は目的が明確です。優先順位もはっきりしています。逆につまずいてしまう所長は

・目的が曖昧
・条件だけにこだわる
・情報開示が不十分

という傾向があります。情報開示は重要で、顧問先の実態やリスクを正確に伝えないと、後でトラブルになります。書籍にも書きましたが、隠してもバレるんですよ。最初から正直に話してくれる所長は、結果的にうまくいくと思います。

■規模によっても成功のポイントは変わりますか?

森下:変わりますね。特に小規模事務所は属人性が強いので、そこをどう整理するかが鍵になります。この顧問先は自分でないとダメだ、という状態だと、引き継ぎが難しい。10〜20名規模の事務所というのは、現在の変化の波のなかで壁にぶつかることも多いです。採用も育成もIT投資も中途半端になりやすく、変化に対応しきれない。小規模の事務所はM&Aを選択肢として考えるケースが増えてくると思います。

■M&Aに成功するポイントはほかにもありますか?

森下:早めに動く、というのも重要ですね。70歳を過ぎてから、そろそろ…と考えだしても、体力的にも精神的にも負担が大きい。職員も顧問先も不安になります。早めに考えて動き出すのも大事です。

上夷:成功する所長は、相手に合わせる柔軟性もあります。「うちのやり方に合わせろ」ではなく、「どうすればうまくいくか」を一緒に考えられる人。逆に、つまずく所長は「自分のやり方を変えたくない」「相手が合わせるべき」というスタンスが強い印象です。

■今まさに悩みに直面している会計事務所の読者もいると思います。本書でとくに伝えたいポイントはどこでしょうか?

森下:成功の法則は、それぞれの事務所の状況によって違うという点です。一つの正解があるわけではありません。自分の事務所の現在地を正しく把握することを第一歩にしてほしい。

上夷:M&Aは最後の手段ではなく、事務所の未来を考えるための選択肢の一つだということですね。その視点を持ってもらえると、書籍の価値がより伝わると思います。

会計事務所M&Aの未来 ── 二極化・人材難・DXがもたらす構造変化

■ここからは、今後の会計事務所M&Aの展望について伺います。M&Aが増えるということは、会計事務所数は減っていくのでしょうか。

森下:現在は全国に約3万の会計事務所がありますが、将来的には2万くらいになるのかなと考えています。ただしこれは単なる減少ではなくて、個人で1人でやるような先生はむしろ増えると思います。リモートで仕事ができるようになったので、独立開業のハードルが下がっています。先ほども話しましたが、10〜20人の小規模事務所は減少していくのではないでしょうか。採用、育成、IT投資が中途半端になりやすく、所長自身が現場も管理も全部見なければいけない。どうしても変化に取り残されてしまうケースが増えています。

■個人型は増え、小規模事務所は統合によって中規模になるイメージでしょうか。

森下:そうですね。小規模事務所にとってM&Aが選択肢として自然に出てくるようになってきています。個人型との二極化が進むのではないでしょうか。

■税理士法の影響についてもお聞きしたいです。業界の構造変化にどの程度影響するのでしょうか?

上夷:これは大きいですね。税理士法が変わらない限り、事務所の大型化は一気には進まないでしょう。大規模化を促すような制度変更はあまりないでしょうから、アメリカのように巨大ファームがどんどん生まれる、という未来はすぐには来ない。ただし現場レベルでは確実に変化が起きているので、M&Aは増え続けると思います。

■AIやクラウド化、人材市場の変化は、今後のM&Aにどのような影響がありますか。

上夷:AIやクラウドの普及で、作業だけ、ルーティンの法人顧問だけの事務所は本当に厳しくなります。月次・記帳・申告だけでは差別化できない。

・経営支援
・財務コンサル
・事業承継

など、付加価値の高いサービスを提供できる体制が必要になります。そのためには、「採用・育成・IT投資・組織づくり」が欠かせません。すべてを整えるのは難しいので、どこかと組むという選択肢が出てきます。

森下:人材市場も厳しいですよね。どの事務所も、若手でコミュニケーション能力が高く、ITにも強い人を採用したいとさまざまな手段を講じますが、そういった人材は引く手あまたです。魅力のない事務所には来てくれない。採用力を上げるためにM&Aを使うというケースも増えています。

■次世代の所長に必要な視点はありますか?

森下:先生業からサービス業への意識転換だと思います。ひと昔前は、税務をしっかりやっていればOKだったかもしれませんが、今は顧問先のニーズが複雑化していて、経営の伴走者としての役割が求められていますから。

上夷:組織化・分業化の理解も必要です。自分が全部やる、ではなく、チームでどのような価値を提供するかを考えられる所長が伸びていくでしょう。

■今後数年の会計事務所のM&A市場はどう動くと見ていますか?

上夷:これまでは、大手事務所が買うという構図がありましたが、これからは1対1のマッチングも多くなってくるでしょう。規模の大小ではなく、価値観が合うか、サービスが補完し合えるかという視点でのM&Aが増えていく。これは業界にとっても良い流れだと思います。

会計事務所の未来を考えるために

■最後に、KaikeiZineの読者である会計士・税理士のみなさんへメッセージをお願いできますか。

森下:まずお伝えしたいのは、M&Aは最後の手段ではないということです。後継者がいないから仕方なく、ではなく

・事務所の未来をどうしたいか
・顧問先にどんな価値を提供したいか
・職員にどんな環境を残したいか

といった前向きな選択肢として考えていただきたいです。実際、最近は「もっと良いサービスを提供したい」「採用力を強化したい」という理由での相談も多くなってきています。 事務所の未来を考えるうえで、M&Aを選択肢のひとつとして考えてほしいです。

上夷:そして早めに情報収集をしてほしいですね。「そろそろ引退を考え始めたから」「職員が辞めそうだから」というタイミングになると、どうしても選択肢が狭くなってしまいます。事務所の規模・顧問先の構成・職員の状況など、事務所の現在地を正しく把握し、どんな未来を描けるのかを考える時間を持っていただきたいです。

森下:本書は、会計事務所M&Aのリアルを、できるだけ誤解なく、現場の視点でまとめました。未来を考えるための材料として使っていただければうれしいです。

上夷:事務所の未来をどうするかは、所長の意思で大きく変わります。変化が激しい時代だからこそ一人で抱え込まず、情報収集していただければと思います。

著者紹介

コンサルタント戦略営業部の森下靖永氏とコンサルタント戦略営業部統括部長・執行役員の上夷聡史氏

左から森下靖永氏、上夷聡史氏

森下靖永

会計事務所提携部 M&Aコンサルタント
兵庫県出身。特化系大手人材紹介会社にて会計士・税理士・弁護士といった専門職人材のキャリア支援に従事し、IPO準備企業への人材支援なども行った後に、2021年に日本M&Aセンターに入社。経営者の「次の一手」を共に描く伴走型の支援を信条とし、提携先である会計事務所とともに承継問題・成長戦略実現の支援を実施。会計事務所業界の存続と発展に寄与すべく、外部専門家との提携プロジェクトを立ち上げるなど協業強化も進めている。

上夷聡史

執行役員 会計チャネル部長
行政書士。2002年青山学院大学法学部卒業後、法律事務所MIRAIO入所。会社倒産・民事再生申立、債権回収、企業法務、企業再生、中国ビジネス(進出・M&A・撤退)、経営コンサル業務などを行う。2010年行政書士事務所開設、BrandNewConsulting株式会社を設立し、アパレルブランド立ち上げに関わる。その後2011年日本M&Aセンターへ入社、譲渡案件の開拓業務を中心に携わり現職に至る。M&Aの成約実績は100件を超える。

日本M&Aセンターによる会計事務所のためのM&A情報プラットフォーム、MARINA

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