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争続と税金の2大トラブルに備えるためのコラム ② 基礎からわかる「相続」「贈与」~争続編~

人それぞれ感覚は異なり、正義や公平の捉え方も違います。今は仲の良い兄弟でも、立場や状況が変わることで考え方も変わってきます。それ故、相続にはトラブルがつきものですが、実際に「争続」に巻き込まれてしまった当事者の精神的苦痛と経済的損失は計り知れないものがあります。“争続”でありがちな失敗例をご紹介いたします。今回は相続放棄にまつわる話です。

相続放棄が争続の火種に?

『父が亡くなり、母と私(子)の2人が相続人です。遺産は時価7千万円の自宅と1千万円の預貯金のみです。私はすでに自立しており、持ち家もあります。配偶者である母がすべて相続すれば相続税はかからないと聞きました。私は母に遺産をすべて相続してもらうため、相続放棄の手続きをしました。

いざ相続の名義変更手続きをしようとしたところ、母と父の兄弟である叔父達との遺産分割協議書の提出が必要だと言われました。

父方の叔父は2人いますが、そのうちの1人から法定相続分(1/8)の財産を相続したい旨の申し出があり困っています。』

良かれと思っての行動が裏目に出てしまった遣り切れない事例です。

本件はどこに問題があったのか確認していきましょう。

民法では、相続人の範囲と法定相続分の割合が定められています。
死亡した人の配偶者は、常に相続人となりますが、それ以外の人は以下の順序で配偶者と共に相続人になります。

第1順位:子
配偶者1/2 子供1/2
第2順位:直系尊属
配偶者2/3 直系尊属1/3
第3順位:兄弟姉妹
配偶者3/4 兄弟姉妹1/4

本来の相続人は妻と子の2人だけでしたが、子の相続放棄により、配偶者と共に相続人となる人の順位が変動しました。父の両親はすでに他界しており、その下の順位の兄弟が相続人となったことで要らぬ問題が引き起こったのです。

相続放棄の意味と効果

遺産を相続しない=相続放棄の手続きが必要という認識は誤りです。
相続放棄は遺産の相続を放棄するだけでなく、相続人たる地位を放棄するもので、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったことになります。

では、どうすればよかったのでしょうか。
相続人の地位はそのままに、他の相続人に「財産を相続しない」意志表示をするだけでOKでした。

具体的には、相続人全員が署名押印する、遺産分割協議書においてその旨を明記します。遺産分割は、仮に遺言書があったとしても、相続人全員の同意があれば、法定相続分を無視した分割が可能です。

相続税額計算への影響

まず、相続税の計算は、実際の遺産分割状況に関係なく、正味遺産額の評価額全体をいったん各相続人が法定相続分で分割したものとします。分割したそれぞれの金額に応じて、税率を当てはめ計算した税額を合算します。これを相続税の総額といいます。

次に、相続税の総額を各相続人の実際の遺産取得割合に応じて配分(※)します。そのため、実際の遺産取得割合が0の相続人は相続税の負担もありません。

なお、配偶者は配分された税額から配偶者の税額軽減が適用されます。1億6千万円または法定相続分までの相続であれば相続税はかからない制度です。

相続放棄があった場合でも、相続税計算上の「法定相続人の数」は相続放棄がなかったものと見做してカウントされます。

事例のケースでは、民法上の相続人は2名(妻・子)から3名(妻・弟2名)となりましたが、相続税計算上は2名のままです。

したがって、放棄があろうがなかろうが、相続税の総額は変わりません。

(※)兄弟姉妹など、一親等の血族及び配偶者以外の人が財産を取得した場合には、相続税額の2割加算の規定あり。

生前の相続放棄は可能?

『ギャンブル好きな長男にはこれまでさんざん借金の肩代わりをさせられてきました。私の残りの財産は全て長女に相続してもらいたいので、私が生きているうちに長男には相続放棄の手続きをしてもらいたい。』

被相続人となる人が亡くなる前に相続の放棄をすることはできません。しかしながら、遺留分の放棄は可能です。遺留分を放棄しても相続人としての地位は残ります。

遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可が必要です。そもそも遺留分は相続人保護の制度であり、強要による遺留分放棄を防止するため、放棄の際は合理的な理由が求められます。
放棄する者の意志と放棄する者に対して、それなりの援助がすでになされているかどうかがポイントとなります。

ご相談のケースでは、過去の経済的援助が十分な理由になると考えられ、遺言書と遺留分放棄の合わせ技で長女が長男からの遺留分減殺請求を心配することなく財産を相続できるでしょう。
ちなみに、長男が相談者よりも先に他界した場合、長男の子どもが代襲相続人となりますが、代襲相続人は遺留分の放棄も引き継ぎます。

また、相続人が複数いる場合、そのうちの1人がした遺留分放棄により、他の相続人の遺留分が増加することはありません。

著者: 押渡部優子

押渡部優子税理士事務所・代表

新日本アーンストアンドヤング税理士法人(現:EY税理士法人)にて主に国内・国外の金融機関に対する税務サービスに従事。その後、税理士法人タクトコンサルティング等の資産税専門特化型の税理士法人にて相続・事業承継対策関連業務の経験を経て2014年船橋市で税理士事務所を開業。
■押渡部優子税理士事務所
http://oshitobetax.com/

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