生前対策なしで非上場会社オーナーに相続が発生した場合、相続人同士の争いだけでなく、会社経営に大きく支障をきたすケースがあります。今回は非上場会社オーナーが生前に押さえておくべき論点をご紹介します。
まずは名義株のチェックと整理を
名義株とは、株主名簿上の名義人と真の所有者(原資の負担者)が異なるもので、名義株には税務上のリスクと、名義人からの権利主張のふたつのリスクが存在します。
① 税務上のリスク
生前に株式の名義を子どもや配偶者に変更しておけば、相続財産から除外できるという単純な話ではありません。相続税の税務調査で一番多い指摘事項は「名義預金」と「名義株」で、調査官は被相続人の財産として相続税を課税することに注力します。過去の名義変更が有効かどうか厳しくチェックされます。
具体的には、
◆ 名義人は自分が株主であることを理解しているか
◆ 名義変更に係る契約書はあるか
◆ 名義変更に伴う贈与税や譲渡所得税の申告をしているか
◆ 配当が名義人に払われているか
◆ 会社の議事録や譲渡承認書類などが作成しているか
逆に名義株が名義人側の相続財産として相続税が課せられることも想定され、トラブルの発端になる可能性があります。
②名義人からの権利主張リスク
平成2年の商法改正前は、会社設立時に発起人(株主)が7名以上必要とされていたため、実際の資本金原資は全てオーナー社長であるにも関わらず、当初名義を借りただけの株主がそのままになっているケースが見受けられます。
その昔に1株5万円の出資で設立した場合でも、長年の利益留保により1株当たりの株価は何十倍になっていたりします。
当事者である真の所有者と名義人の双方が生存している間に整理ができない場合、その事実を証明することは至難の業です。
名義人の相続を契機に、議決権行使による経営への口出し、現在の価値での買取請求など大きなトラブルに発展する可能性があります。
名義株を整理する際には、税務調査対応や後々のトラブル防止のため、必ず書面にて、名義株の事実を明らかにし、名義人から真の所有者への書換承諾があった証拠を残しておきましょう。
後継者が確保すべき株式の割合は?
理想は2/3超の議決権を後継者に集中させることです。取締役の選定や利益処分など、通常の議案については過半数の賛成で成立(普通決議)となりますが、定款変更、組織再編等、会社の最重要事項については2/3超の賛成により成立(特別決議)します。
この特別決議を後継者が単独で行うことができれば完全な支配権を有している状態と言えます。株価対策もスムーズに行え、税金対策を考える上でも有利です。
それが難しい場合でも、後継者には必ず1/2超を保有させて、一定の支配権を確保できるようにしましょう。
非上場株式は、上場株式のようにその財産の価値だけを基準に分割することができない財産です。経営にタッチしていない相続人に対しては、株式以外の財産を相続させられるよう生前の対策が必要です。
会社への貸付金は相続財産
資金繰りの問題で個人のお金を会社に貸し付けることはよくあります。
中小企業の場合、社長が会社にお金を貸し付ける際には金銭消費貸借契約書を作ることも稀ですし、利息を受け取るケースも少ないです。そのため、会社に貸付けをしていることさえ忘れてしまっている、或いは会社の状態がよくないため、会社からの返済を諦めている社長もいらっしゃると思います。
困ったことに相続が発生した際には、会社への貸付金は相続財産となり、相続税が課されます。
相続税の納期限までに会社からの返済が見込めない場合は、納税資金にも困ります。
会社に返済能力がない場合には、貸付金について、資本金への振替(デット・エクイティ・スワップ)や債権放棄を検討すべきです。ただし、いずれの方法も単純なものではなく、会社側での課税の問題がありますので、実行にあたっては必ず税理士に相談してください。