近年では、中小企業でも海外に子会社等を設けるなどして事業展開するケースは増加の一途を辿っています。移転価格税制も、今や大企業に対してだけではなく、中小企業にも向けられるようになってきています。こうした中、最近増加傾向にあるのが「簡易な移転価格調査」です。今回は税務調査で指摘の多い「本業に付随した役務提供」を取り上げます。

≪ケース≫

当社は機械部品の製造販売会社ですが、アジアに100%出資の製造子会社を設け、海外での販売拡大を目指しています。現時点では、まだ現地工場の技術水準が高くないために、日本の親会社から技術スタッフを海外子会社に派遣し、現地での技術指導や監督といった役務提供を行っています。技術指導等に要する費用はすべて当社で負担しています。税務上、問題はありますか。

 

こうしたケースは、海外進出を果たした中小企業などにもよく見られており、税務調査で問題となるケースが非常に多いといえます。

■「本業に付随した役務提供」の取り扱い

我が国の製造業においては、海外に製造子会社を設立し、現地に製造拠点を設ける企業が増加しています。このような製造拠点の設置にあたっては、親会社である日本法人から技術スタッフ等が派遣され、現地で技術指導や監督といった役務提供を行うケースがよく見られます。
このような本来の業務(製造業や販売業など)に付随した役務提供を行う場合、海外子会社から、その役務提供の対価を回収する必要があります。この回収すべき対価の額については、『当該役務提供に要した総原価の額』でよいものとされています(移転価格事務運営要領3-10(1))。
総原価の額の算定に当たっては、原則として、当該役務提供に関連する直接費のみならず、合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門の一般管理費等間接費まで含むこととされており、具体的には以下の費用の合計額となります。

◆出張に係る旅費・交通費
◆滞在費
◆出張者の出張期間に対応 する給与、賞与、退職給付費用
◆その他出張に直接要した費用等の直接費
◆合理的な基準で配賦される間接費(担当部門及び補助部門の一般管理費等)

冒頭のケースでは、技術指導等に要する費用をすべて親会社が負担し、海外子会社から対価を回収していないということですので、本来回収すべき対価について移転価格課税又は国外関連者への寄付金として課税される可能性があります。

(注) 本来の業務に付随した役務提供に該当するかどうかは、原則として、当該役務提供の目的等により判断しますが、次に掲げる場合には、総原価の額を独立企業間価格とすることはできず、一定のマークアップ等が必要となります。
イ 役務提供に要した費用が、法人又は国外関連者の当該役務提供を行った事業年度の原価又は費用の額の相当部分を占める場合
ロ 役務提供を行う際に無形資産を使用する場合等、当該役務提供の対価の額を当該役務提供の総原価とすることが相当ではないと認められる場合

■実務上の留意点

親会社の社員が海外子会社に出張した場合、実務上はまず、海外子会社から対価を回収すべき役務提供に当たるかどうかを検討する必要があります。

例えば、親会社が自社製品の製造を子会社に委託したケースを考えると、子会社での生産体制や製品の品質をチェックすることは、製造を委託した親会社として当然行うべき業務といえます。こうした目的で海外子会社に出張したのであれば、それは親会社独自の業務を遂行するための出張といえるため、親会社が経費を負担すべきでしょう。

それに対して、海外子会社の現地スタッフへの技術指導や教育のための出張であれば、海外子会社から対価を回収する必要があります。なぜならば、海外子会社が、仮に第三者にそうした技術指導等を依頼したならば当然対価を支払うことになるでしょうから、当該役務提供は対価性を有するといえるからです。

親会社の社員が海外子会社へ出張する場合、社内的には出張稟議書や出張報告書などを作成することが多いと思われます。税務調査ではそれらの書類の記載内容がチェックされるため、出張目的(親会社独自の業務のための出張か、子会社への技術指導のための出張か等)や現地での活動内容等が明確に分かるように記載する必要があります。

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租税調査研究会事務局
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