財産の国を跨る移動や保有を網羅的に補足するため、国税庁では「国外送金等調書」、「国外財産調書」、「国外証券等移管調書」「租税条約等に基づく情報交換制度」を活用し、富裕層等の国外財産の保有や国境を越える財産の移動に対する監視強化を図っています。

■国税庁 相続税の調査事績を発表

国税庁は、今年6月までの1年間(2016事務年度)に全国の国税局などが実施した相続税の税務調査の結果を発表した。申告漏れ総額は3295億円で前年度から9.7%増加、追徴税額も716億円と22.8%増えた。

海外資産に関連した事案についてみると、資産運用の国際化などを背景に国税当局は海外資産に関する調査を重点的に実施しており、調査件数は917件と集計を始めて以降で最多となった。海外資産に関連した申告漏れは52億円で前年度より12%増えた。このうち、「仮装・隠ぺい」などの悪質な税逃れに対するペナルティである重加算税の対象となったものは7億円で、前年度の3億円の2倍以上の増加となった。

新聞報道によれば、東京国税局が手掛けた事案では、海外の金融機関に預金を保有していたが、相続税の申告から除外しており約3500万の申告漏れが指摘された。このケースでは租税条約に基づく海外税務当局との情報交換が実施されている。

■富裕層による自主的な修正申告も増加!?

平成28年7月24日の日本経済新聞によると、富裕層の修正申告が相次いでいるようである。昨年明るみになったパナマ文書問題などをきっかけに日本国内でも富裕層の租税回避に厳しい目が向けられている。一方、2014年から5千万円を超える海外資産を有する者には「国外財産調書」の提出が義務付けられており、富裕層の修正申告も相次いでいる。

「実はスイスに数億円の株などがある。国外財産調書のことは知っていたが、これまで資産を申告せず調書を提出してなかった。」と東京都内の税理士のもとを訪れた男性経営者の話もあるという。相談を受けた税理士によると、経営者は20年以上前から海外で資産を運用し、規模は年々拡大。最近では海外の資産分だけで年間100万円前後の所得があったという。相談後、経営者はすぐに修正申告の手続きを取ったというケースである。

野村総合研究所の調査では、2013年時点で純金融資産(国内外の保有資産の合計から負債を差し引いた値)が1億円以上の富裕層は約101万世帯と推計されている。一方、国外財産調書を提出している人は約8千人(15年提出分)に留まっている。個人の税務に詳しい税理士は「富裕層の厚みから考えれば、提出義務を果たしていない人の方が多いのではないか」と指摘する。「海外財産なら課税の網から逃れられる」との意識を持つ人も少なくないとみられる。

別の税理士は「『無申告の海外資産を保有している』と相談に来た人に修正申告を勧めたら、二度と来なかったケースもあった」と話している。

このように、法定調書制度の拡充を背景に富裕層の間で国外財産の申告漏れに関する修正申告が増えているとはいえ、いまだ「財産を国外に置いておけば税務当局は把握できないだろう。」と考えている富裕層が多いのも事実であろう。

国税庁では、「国際化及び富裕層への対応については、従来以上に積極的に取り組む」としている。具体的な取組としては、海外取引を行っている納税者や海外資産を保有している納税者等の中から、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度などを効果的に活用し、課税上問題があると認められる納税者を把握した場合には、積極的に調査等を実施するとしている。

 

《国税当局による国外財産把握体制》

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