海外子会社から支払いを受けていた貸付金利息が独立企業間価格に満たないとして移転価格課税を受けた事案を紹介します(平成28年2月19日裁決)。この事案では、「貸手の銀行調達金利」により独立企業間価格を算定した国税当局の課税処分が適法と判断されました。

■事案の概要
請求人(日本親会社)は、国内金融機関から借り入れた資金を海外子会社(米国)に貸付け、貸付利息を収受していた。これに対し国税当局は当該貸付利息が独立企業間価格に満たないと判断し、「貸手の銀行調達金利による方法」により独立企業間価格を算定して当該貸付利息との差額を課税した。
課税処分を不服とした請求人は、課税処分の取消を求めて国税不服審判所に審査請求した。これに対し、審判所は次のように判断した。
①国税当局の調査において、本件各貸付に係る比較対象取引を把握することができず、また、審判所の調査によっても比較対象取引を見いだすことはできなかった。よって、「基本三法と同等の方法」を用いることはできない。
②海外子会社は、日本親会社以外から金銭の借入を行ったことはなかった。よって、「借手の銀行調達利率による方法」を用いることはできない。
③日本親会社は金融機関から借入を行っている実績があり、本件貸付に係る通貨の各貸付日における各貸借期間に対応する金利スワップのスワップレート、及び各借入に係るスプレッドを基礎として、「貸手の銀行調達利率による方法」を用いることに合理性がある。
④よって、「貸手の銀行調達利率による方法」を用いて独立企業間価格を算定した課税処分は適法である。
■国税当局が採用した算定方法
本件では、日本親会社は金融機関から10回の借入を行い、それを原資として海外子会社に貸し付けを行った。

国税当局は、各貸付けにおける貸借期間に対応する金利スワップのスワップレート及び金融機関からの各借入れ等に係るスプレッドを基礎として、貸手の銀行調達利率による方法を用いた。具体的には、(表1)の「各貸借期間に対応するスワップレート」に(表2)のスプレッド欄の各数値を加えた利率を独立企業間価格とした。
本件において請求人は、金融機関からの各借入に係る利率を用いることができると主張したが、各借入の貸借期間は最長でも3年2カ月であるのに対し、各貸付の貸借期間は10年又は20年であり、各借入れの金利は各貸付けの貸借期間と同一の貸借期間の金利とは認められないことから、審判所は、本件各借入れ等の利率を用いることはできないとした。
また、独立企業間価格の算定にあたり、各借入に係るスプレッドを用いたことについて、審判所は、各借入れの貸借期間と各貸付けの貸借期間はいずれも異なるものであるが、各借入れは、①各貸付けと同一の通貨で貸借時期がほぼ同時期であること、②スプレッドは貸付期間の長短ではほとんど変わらないという融資業務に関する実態があったことに加え、一般的に、短期融資に比較して長期融資の方がリスクが高いと考えられること、③他にスプレッドに影響する要因は見いだせないことなどを踏まえると、各借入れに係るスプレッドを用いることにも合理性が認められると判断した。

■コメント
今回の裁決事例は、日本親会社が海外子会社から受け取った貸付金利息に対する移転価格税制の適用が適法と判断されたものある。
実務上、海外子会社等への貸付金に対する適正金利を算定するために「貸手の銀行調達利率による方法」を適用するケースは多いが、適用の際のポイントは、国外関連取引と通貨が同一で、貸借時期、貸借期間が同様でなければならないという点であろう。
今回の事案は、数少ない貸付金利に関する裁決事案の一つであり、今後の実務の参考になる点も多いと思われる。
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