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離婚で税金トラブル 元夫の滞納は元妻から徴収!? 財産分与で貰い過ぎると思わぬ落とし穴

滞納していた夫と離婚したことから、財産分与で貰った資産の一部を課税当局から「第二次納税義務」があるとして徴収され、これを不服として国とこの元妻が争うという珍しい裁判があった。離婚して新たな人生を歩んでいるのも束の間、切っても切れない、元夫の影がチラつく裁判の行方について紹介する。

離婚に際して、慰謝料や生活費など、夫婦で財産分与することが一般的だ。今回紹介するケースでも、離婚に際して夫の土地を妻が財産分与で貰ったことから、国税当局と争うきっかけとなったもの(東京高裁平成30年2月8日判決)。単に財産分与しただけならなにも課税当局と争う必要もないわけだが、この元夫は、離婚前から税金を滞納、滞納していた税金も納税できない状況になっていた。そこで課税当局は、この元妻に財産分与した一部から税金を徴収しようとしたのだ。

この争いの基になった税法上の定めは、本来の納税義務者が、納税期限の1年前から、財産を第三者に贈与するなどして税金の納付を逃れるのに対抗するため税法で定められた「第二次納税義務」だ。これは財産を受け取る、債務を免れるなどした第三者に課されるもの(国税徴収法39条)。課税当局はこの法令根拠に、元妻に対して告知処分をした。注目されるのが、「離婚に伴う財産分与のやり過ぎ」が、「第二次納税義務」に当たるのかどうかの判断に影響を与えた点。

財産分与とは

税金トラブルに発展することもある「財産分与」の具体的な事案を見る前に、「財産分与」について、整理しておく。

「財産分与」は、大まかに言って、婚姻期間に夫婦で協力してつくった財産を分けて清算すること。ただし、清算的な要素のほかに、別れた後の夫婦の一方の生活を維持するための扶養的な側面、夫婦の一方に不貞などがあって離婚に至る原因になったための慰謝料的な意味合いの要素もある。

協議離婚する場合、話し合いで財産分与をどのようにするかを決める。しかし、話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所で決着させる方法もある。民法には次のように定める。

第768条1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。

2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。

3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

 

なお、清算的な財産分与の対象となる財産は、基本的に共同で形成した「共有財産」とされる。夫婦の共有財産については、民法に次のような定めがある。

 

第762条1項 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2項 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

 

このため、夫婦で築いた財産を清算する「財産分与」においては、夫婦の一方がその親から相続で得た財産などは、基本的に「特有財産」として分与の対象にはならため、分与対象の財産かどうかの線引きが必要になる。

財産分与が税金トラブルにつながる場合

さて、滞納の徴収にあたり課税当局が問題視するケースは、たとえば税金の滞納者が、自分の財産を無償で他の人にあげて、結果として滞納者本人から税金の徴収が出来なくなる事態だ。これをカバーするため、国税徴収法39条で「無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務」の定めを置いている。

問題になる財産等の移転は、次のポイントに抵触した場合だ。

①滞納者の国税を徴収するため財産を滞納処分してもなお徴収すべき税額に足りない原因が
②滞納者が負担すべき国税の法定納期限の1年前の日以後に行われた
③無償又は著しく低い価格で滞納者の財産が譲渡、債務の免除、第三者に利益を与える処分による場

上記の場合、滞納者から財産等を取得した人は、「受けた利益の現に存する限度」で、第二次納税義務を負う。つまり、「財産を得た」「債務免除を受けた」などした人は、滞納者本人の本来負担すべき「滞納税額」を負う義務があるということ。ただし、この人が滞納者の親族など「特殊な関係」にある場合には、現に残っている利益かどうかを問わず、「受けた利益」までを限度として第二次納税義務が課せられることになる。

財産分与は、一見すると離婚する夫婦の一方から、もう一方への財産の贈与(無償の譲渡)のようにも見える。しかし一方では、もともと「財産分与」という債務を弁済するという性格もある。。このことから財産分与と第二次納税義務との関係がどのように考えるか、これまでも議論されてきた。実務上は、家庭裁判所で決められた財産分与なら、相当な財産分与であるためこの第二次納税義務の問題は生じない。一方で、協議で財産分与を決めた場合には、財産分与が清算的・扶養的・慰謝料的な側面から見て不相当(やり過ぎ財産分与)であれば第二次納税義務の問題が生じるのではないかとされてきた。

実は、貰い過ぎ財産分与については贈与税の問題が生じるものと考えられるが、ここでは割愛する。

税金トラブルになった財産分与の裁判事例

今回の争いについては、複雑な事実関係があるため、簡略化してポイントを記載する。

①夫は、夫の父が平成9年に亡くなり、その財産全部を相続したことに伴い相続税を支払うことになる。滞納したのは、この相続税や亡き父の所得税、土地を売ったことに伴う譲渡所得税や加算税、延滞税を主体とするもの。
②平成12年、裁判の原告である妻Aさんが、夫と協議離婚するに際し、届書を作製する一方、この届出と引き換えに夫の土地(当時の固定資産税評価額で約1億4千万円相当)を財産分与(本件譲渡)で受け取るため、所有権移転登記申請を司法書士に委任。その3日後、離婚届出。
③元夫への国税の滞納処分断続的に行われたが、平成24年になって、課税当局は国税徴収法39条に基づきおよそ1億円の「第二次納税義務」の告知を元妻のAさんにする。この時点で夫は500万円ほどしか財産がなかった。
④元妻Aさんは告知処分を不服として、審査請求を経て裁判で争うことに。

この裁判の主な争点は次の通り。

ア、滞納国税について徴収不足が認められるか
イ、譲渡された資産(財産分与)が無償譲渡等にあたるか
ウ、徴収不足がこの譲渡等に起因するか
エ、原告が本件譲渡のときに元夫(滞納者)と「特殊関係者」であったか

裁判所はまず、アの争点について、次のように見解。

「『滞納者の国税につき滞納処分をしでもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合』(徴収不足)とは、第二次納税義務に係る納付告知処分時の現況において,本来の納税義務者の財産で滞納処分(中略)により徴収することのできるものの価額が,同人の滞納に係る国税の総額に満たないと客観的に認められる場合をいうものと解される」。

これを踏まえて、では実際に徴収不足が認められるかどうかについて裁判所は概ね「夫(滞納者)の財産を滞納国税に充てたとしても2億円もの不足が生じ、国税徴収法39条にいう「滞納者の国税につき滞納処分をしてもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合」(徴収不足)に当たる状況にあったものというべき」と認定した。

次いで、争点イについては、離婚に伴う財産分与も国税徴収法39条の「譲渡」にあたるとした上で、「財産分与の本旨は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によって離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられない」と見解。しかし、財産分与が「不相当に過大である場合には、これを放置すると、その不相当に過大な部分につき、租税債権が徴収不足となる一方で、第二次納税義務者が同項の規定の趣旨に反して当該部分を保持して経済的利益を享受することとなり、納税者間の公平を失することとなるから、当該財産分与の内容や性質等に照らし、社会通念上、当該財産の分与により消滅すべき分与義務に係る債務の額(中略)は通常の取引に比べて著しく低いものであると認めることができるものと解するのが相当」とした。

これらを踏まえ裁判所は、財産分与の内容を検討、清算的な財産分与の額を約1100万円、扶養的財産分与の額を生活保護の支給基準などを参考に約400万円、慰謝料的財産分与の額につき1千万円は超えるものではないとし、全体として3千万円をこえる財産分与は「不相当に過大」(貰い過ぎ)だと認定、争点ウについて土地により財産分与を受けたことで、徴収不足になったと判断した。

ただ、この事例では、土地の所有権移転登記の申請の委任をしたのが離婚の届け出前だったことから、元妻のAさんは滞納者と「特殊関係者」に当たるかどうかについて争われたが、裁判所は「既に原告(Aさん)と夫が協議上の離婚をする意思で離婚の届蓄を作成し、その届出を間近に控え,夫婦関係が完全に破綻して人的関係の一体性又は親近性を喪失し、財産の分配等をめぐり利害関係が対立する状況にある中で、離婚の届出と引換えに本件所有権移転登記の経由が確保されるように、離婚の届出に先立ち、離婚の届書と本件登記申請の委任状の作成がされ、本件登記申請と引換えに離婚の届出がされたものということができ」るため、「離婚の成立時をもって本件譲渡に係る「処分の時」と認めるのが相当」として、Aさんは元夫の「特殊関係者」には該当しないと判断、現に残っている利益に限って第二次納税義務が追求されることになるため、第二次納税義務の金額1億円のうちおよそ2千万円を取り消した。

この判決を受けて筆者は、
・離婚時の財産分与で財産を貰い過ぎると税金トラブルに巻き込まれることがある
・財産分与の相当な金額は、清算的、扶養的、慰謝料的側面から検討される
ことを肝に銘じておく必要があると感じた。

著者: 遠藤純一

タクトコンサルティング 情報企画室課長  

平成3年 エヌピー通信社に入社。 編集局にて「納税通信」担当後、編集長代理を経て副編集長。平成14年 タクトコンサルティング入社。情報企画室にて、情報収集と情報発信を行っている。
■株式会社タクトコンサルティング/税理士法人タクトコンサルティング
https://www.tactnet.com/

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