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居住用建物 「3,000万円特別控除」の適用で“居住用”判断はここまで行う

不動産を売却した場合、基本的には譲渡所得税が課税されるが、個人がマイホームを売却した場合には、税金が減税されるさまざまな特例がある。その中に譲渡所得の特例である、いわゆる「3,000万円特別控除」があるが、適用に当たって課税当局とトラブルになるケースも少なくない。どのようなケースで争いになっているのか迫った。

マイホームを売った場合には、税制上、特例が設けられています。その最もポピュラーな特例が「居住用財産の譲渡所得の特別控除」、いわゆる「3,000万円特別控除」(租法35①)です。

居住用財産に係る譲渡所得の特例では、譲渡の対象財産が「その居住の用に供している家屋の譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等」を譲渡した場合であること、または住まなくなってから3年目の年末までの譲渡を大きなポイントになっています。

“居住の用”に供している家屋については、「生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定するのが相当であり、また、本件特例の適用を受けるためには、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の拠点としていたことを要するもの」と考えられています(国税不服審判所平成31年2月6日)。

しかし、しばしば対象財産が「居住用」であるかどうかを巡って、納税者と税務署の間で争いが起こります。どのような場合に争いとなっているのか、最近の事例から迫ってみます。

1、電気・水道等の利用、源泉徴収票の住所

前述した国税不服審判所の裁決事例(平成31年2月6日)は、納税者Aさん(請求人)が父親から相続した住宅に、相続後に住民票を移し、その後、住宅を売却。3,000万円特別控除を適用して申告したところ、税務署からその住宅に本当に住んでいたとは考えられないとして否認され、争いとなったものです。

ここで、Aさんがその住宅に住んでいた証拠としてチェックを受けたのは次の事項です。

① 住民票、運転免許証、源泉徴収票の住所
② 職場に届出る住所地やその変更手続き
③ 郵便局への転居届
④ 電気、ガス、水道の使用量
⑤ 近隣住民の証言

これらがチェックされるのは、「請求人が本件家屋を生活の拠点として利用していたのであれば、その事実を示す何らかの形跡(例えば、引っ越し、通勤、郵便物、近隣商店の使用に係る領収証、町内会費の支払など)が残るのが通常である」(同裁決)という考えからです。また、この事案では、売却に際して、不動産仲介会社に依頼をしており、譲渡対象の住宅のカギを引き渡していた点や、不動産広告の現況についての記載が「空き家」だった点がチェックされました。

同裁決では、

  1.  住民票、運転免許証は対象の住宅の住所地だったが、源泉徴収票の住所は転居前のまま
  2.  職場へ住所変更の手続きの書面を出したが、引っ越し完了連絡がなかったため一旦預かりとなっていた
  3.  郵便局への転居届はない
  4.  電気水道ガスの使用料はほぼなかった
  5.  近隣住民からは「請求人が本件家屋で生活していたのを見かけたことはない」旨申述があった

ことから、「生活の拠点として利用していたとは認められない」として3,000万円特別控除の適用を否認した税務署の処分を支持しています。

2、くみ取り便所まで確認

くみ取り便所のくみ取りの有無から居住の実態を調査した事例があります(国税不服審判所、平成30年3月5日)。

裁決書によると、問題になった住宅は、納税者Aさんが平成22年8月まで両親から相続した住宅と敷地3筆(以下=本件住宅)でした。家屋は父親が建てたものですが、その後、母親が建てた別の住宅(乙)に転居しましたが、直後にAさん本人が住宅(甲)を新築し転居していました。Aさんが本件住宅に舞い戻ったのは、母から相続を受けた平成22年9月ごろで、母を介護していた住宅(乙)や住宅(甲)とも行き来していました。平成25年になって不動産業者に仲介依頼し、Aさんはその4月末までに本件住宅の家屋を取り壊しで売却し、3,000万円特別控除の適用をして確定申告したと言います。しかし、税務署側がAさんは本件住宅に居住していなかったとして、3,000万円特別控除の適用を否認したことから争いとなりました。

国税不服審判所は3,000万円特別控除に適用対象となる「居住の用に供している家屋」について、「本件特例の適用を受けるために、短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点として利用している家屋をいうものと解される」とのこれまでの解釈を確認。

その上で、居住の実態を確認するため税務署が調べた事項を次のように整理しました。

  1. 電気については平成22年11月9日に供給が開始されているものの、本件不動産売買契約の締結までの聞の使用実績はまったくない
  2. 水道については給水契約も締結されておらず、いずれも本件不動産売買契約の締結から本件家屋を取り壊すまで2カ月間の一時的な使用が認められるだけであった
  3. 入浴や洗濯は、甲家屋又は乙家屋で行っている

さらに、「本件家屋にはくみ取式の便所があったと認められるが、本件家屋を取り壊すとき以外にくみ取りが行われた事実はない」と、くみ取り便所のくみ取りまで調べていました。こうしたことから、審判所は「本件家屋は、請求人が真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点として利用していたものとは認められない」としてAさんの言い分を退けています。

3、ペットの移動、クレジットカードの住所もチェック

接道義務を充たしていなかった貸家において、隣地の土地の譲渡を受けて接道義務を充たした後、納税者が居住し、すぐに(同年中)売却して、3,000万円控除の適用をうけようと確定申告したところ、税務署は「一時的な利用を目的とする家屋であり、生活の拠点ではない」として、3,000万円控除の適用を否認し、更正処分等を行ったことから、納税者側がその取り消しを求めて争いとなりました(国税不服審判所、平成30年1月12日)。

納税者はAさんとその母親。住宅の敷地は平成27年4月に隣地の譲渡を受け、5月には賃借人による家屋の原状回復工事を終了。敷地の測量は7月までに行い、8月から「売り物件」として不動産業者の広告に掲載し、9月末までに買い手がつき、10月に引き渡しを行なっています。この間、Aさんは住民票を、元の住まいから8月26日にこの住宅の所在地に移し、10月になって、元の住まいに転居していました。

国税不服審判所は、Aさんの行動について「家屋の賃貸期間中から一貫してその売却に向けた行動をとっている」と認定。また、Aさんの話を総括し、「風呂、トイレ、照明等を使用しておらず、その滞在時間も午前零時頃から午前 6時ごろまでに限られていた」こと、入居したのは「家財道具や固定電話を設置せず、請求人が本件家屋に入居した目的は主に放火や空き巣による被害を防止するため」だったと述べていたことを指摘。

一方で、もともとAさんが生活していた住宅では、①電気、ガス及び水道を従前と同様に使用、②飼育していたペットのは虫類や家財道具を残していること、③郵便、金融機関及び クレジットカードの登録住所を売却した住宅の方に変更しなかったことも指摘しました。こうして国税不服審判所は「一時的に使用していたにすぎず、本件家屋を真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたとはいえない」とし、売却した住宅につき「居住用」ではないと判断しています。

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著者: 遠藤純一

タクトコンサルティング 情報企画室課長  

平成3年 エヌピー通信社に入社。 編集局にて「納税通信」担当後、編集長代理を経て副編集長。平成14年 タクトコンサルティング入社。情報企画室にて、情報収集と情報発信を行っている。
■株式会社タクトコンサルティング/税理士法人タクトコンサルティング
https://www.tactnet.com/

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