近年では、非居住者等に係る源泉所得税の課税漏れ金額は増加傾向にあります。では、源泉所得税の課税漏れにはどのようなものがあるのでしょうか。また、どのような法人が調査のターゲットとなりやすいのでしょうか。
1 源泉所得税の調査体制
税務署所管法人の税務調査の場合、源泉所得税の調査も、通常は法人税や消費税の調査と同時に行われます(「法源消同時調査」と呼んでいます)。ただし、報酬料金の支払いが多い法人や、海外取引を行い非居住者等に多額の支払いがある法人などは、源泉所得税に絞った調査が行われます(「源泉単独調査」と呼んでいます)。
源泉単独調査は、会社の規模に関わらず税務署の調査官が担当します。そのため、資本金1億円以上の国税局調査部が所掌する法人の場合には、法人税と消費税の調査は国税局調査部の調査官が行い、源泉所得税の調査は税務署の調査官が行うという調査体制になります。
海外取引が絡む源泉所得税については高度な専門知識が求められるため、大規模税務署には源泉所得税担当の国際税務専門官が配置されています。非居住者等に係る源泉徴収漏れが想定される事案の場合には、国際税務専門官が担当するケースが多いと思われます。
2 税務調査でよく把握される源泉課税漏れ
税務調査で把握される非居住者等に係る源泉課税漏れとしては、以下のような項目が挙げられます。
- ・非居住者等に支払った著作権使用料や特許権使用料等の課税漏れ
- ・ソフトウェアの使用料の課税漏れ
- ・インド法人に支払った技術上の役務に対する料金の課税漏れ
- ・非居住者等に支払った土地等の譲渡対価の課税漏れ
- ・非居住者等に支払った不動産賃借料の課税漏れ
- ・非居住者である役員に対する給与の課税漏れ
- ・エキスパッツに対する経済的利益の給与課税漏れ
- ・海外出向者に対する出国後賞与の国内源泉所得分の課税漏れ
- ・非居住者である外国人労働者に支払った給与の課税漏れ
- ・外国法人に支払った借入金利子の課税漏れ
- ・海外の芸能プロダクションに対する人的役務提供事業の対価の課税漏れ
- ・外国人ミュージシャン、スポーツ選手等に対する報酬の課税漏れ
3 源泉調査のターゲットとなりやすい法人
どのような法人が源泉調査のターゲットとなりやすいのでしょうか。一般的には、外国法人や非居住者に対する支払いの多い、以下のような法人が調査の対象となりやすいと言われています。
■海外子会社や海外支店等を有していて、多数の海外勤務者がいると認められる法人
海外に居住する役員に支払った給与の課税漏れはないか、出国後に支払った国内勤務部分に係る賞与の課税漏れはないか、海外勤務時の現地所得税を帰国後に会社が負担していないか、等について検討されます。
■工業所有権等の使用料の支払いが多い法人、インドなど特殊な租税条約の国に多額の送金がある法人
国外送金等調書などから、工業所有権や著作権等の使用料の送金が多い法人は調査の対象となりやすいといえます。また、インドなど、租税条約の規定振りが特殊である国への支払いがある場合、源泉徴収漏れがないか検討されます。
■貿易外の国外送金が多い法人
国外送金等調書から、貿易外の国外送金が多い法人については、源泉徴収の対象となる支払いがないか等について検討されます。
■エキスパッツ(外国企業から派遣された社員)が在籍する外資系法人
エキスパッツに対しては、通常、多くの手当が支給されており、給与の課税漏れがないか検討されます。
■過去の税務調査において多額の非違が把握された法人、長期未接触法人
4 調査で提出を求められる書類
源泉所得税の調査が行われる場合、通常、以下のような書類の準備、提出が事前に依頼されることが多いと思われます。
- ・会社案内(営業内容、経歴等を記載した書類)組織図、部署別人員
- ・社内諸規定集等(就業、賃金、旅費、退職、稟議・決裁基準等)
- ・取締役会、役員会、株主総会議事録等
- ・稟議書、決裁文書等
- ・契約書綴り
- ・社員名簿
- ・給与・賞与台帳、源泉徴収簿等
- ・扶養控除等(異動)、保険料控除、配偶者特別控除、住宅借入金等特別控除の各申告書
- ・住民税の課税通知書及び変更通知書
- ・海外勤務者出入国リスト(出国日、出国先国・部署、帰国日等)
- ・海外送金関係書類(送金依頼書、送金内容についての証拠書類、インボイス等)
- ・支払リース料一覧表
- ・租税条約に関する届出書、居住者証明書及び特典条項に関する付表
- ・源泉徴収の免除証明書
- ・退職所得の受給に関する申告書、退職所得の源泉徴収票
- ・法定調書(控)、法定調書合計表(控)
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